【インタビュー】

グレングールド奨学金を得てRCMで学ぶ
ピアニスト、工藤寛子さん

日本人の若手ピアニストが、いま、グレングールド奨学金を得てトロントのロイヤルコンサーバトリー・オブ・ミュージック(RCM)でピアノを学んでいる。つい先日には、RCMマッツォレニ・コンサートホールで開かれたピアノとチェロのコンサートに出演、大好評を博した。将来が大いに期待される逸材である。


▲ピアニスト工藤寛子さん(2月9日、トロントのロイヤルコンサーバトリー・オブ・ミュージック〈RCM〉にて撮影)

工藤寛子(くどう・ひろこ)さん、青森出身の29歳。住んでいた弘前市で4歳からピアノを個人教授で習い始める。小2のとき日本ピアノコンクール8歳−12歳の部で「ソナチネアルバム」を弾き最優秀賞を獲得。最年少であった。また、小学校高学年と中学生の時、「ピティナピアノコンクール」東北地区本選に出場してみごと入賞した。

高校は青森市の私立明の星(あけのほし)高校音楽科で学ぶ。
明の星高校では人の前で弾く機会があって、ピアノソロに選ばれ出演。盛岡国際ピアノコンクールではファイナリストだった。また、在学中はバイオリンの練習も行われ、高校でオーケストラを編成してコンサートに出たことがある。

桐朋学園大学に進学、音楽学部演奏学科でピアノを専攻。林秀光氏に師事した。
「林秀光先生はとても厳しい先生でした。最初からスパルタ式で、理論からテクニックまで基本的なものを徹底的にたたき込まれました。桐朋の4年間は、林先生がいなければ今の私はないと言っても過言ではありません。それから、ロシア・モスクワ音楽院の教授でチャイコフスキーコンクールの審査員でもある先生から教わったこともありました」


▲ハイドン「アンダンテと変奏曲」、リスト「ハンガリー狂詩曲13番」などを演奏する工藤寛子さん(2011年10月25日、トロントのカナディアン・オペラ・カンパニー〈COC〉で開かれたランチタイムコンサートにて)

桐朋4年生の時、第31回町田市ピアノコンクール(音大生部門)で審査員特別賞を受賞した。このコンクールは東京芸大、桐朋の学生が毎年たくさん受けていて、結構、メジャーなコンクールとなっているのだが、普通のコンクールと違うのは、町田市長賞、審査員特別賞、町田市議会議長賞などが上位に立ち、その後、1位、2位、3位の人が選ばれることだ。

「普通のコンクールでは、通常、1位が最高峰とされているのですが、このコンクールでは○○賞というのが1位より上になっています。少々ややこしい仕組みです。大学最後の年にこの賞を頂くことができ。桐朋の大学4年間、厳しく辛いこともあったけれど、頑張ってきた甲斐があったかも知れないと思った瞬間でした(笑)」

桐朋在学中、寛子さんは、ヨーロッパでもっとピアノを勉強したいと考えていた。そのことを相談すると、林氏は、イギリスから帰国後、日本で活動していた弟子の田村緑(たむら・みどり)さんに働きかけ、田村さんがイギリスの先生を紹介してくれた。こうして2004年3月、寛子さんは桐朋を卒業してすぐ5月に渡英した。

ロンドンギルドホール音楽院に2004年から2005年まで留学、修士号を取得。その間、昔からドイツ行きの夢を抱いていた寛子さんは、イギリスから2回ほどドイツに赴き、レッスンを受けている。

「さいわいドイツに良い先生が見つかって、ライプチヒにあるライプチヒ国立音楽演劇大学の大学院に行くことが決まりました。この大学はドイツ最古の音楽大学で、初代時にはシューマン、メンデルスゾーンが教鞭を執っていたことで知られています。また、ライプチヒはバッハが音楽家としてずっと活動していた町です」

この大学で寛子さんは、言葉は、最初のうち英語で教わり、のちにドイツ語で指導を受けるようになった。国家演奏家資格取得コースを1等賞で卒業。その後、ドイツ最高位のマイスターコース(博士課程に相当)を卒業した。在学中、ドイツザクセン政府奨学金、フロインデスクラス・ライプチヒ音大大学院課程総合課程奨学金を受賞している。成績がいかに優秀であったか、うかがい知ることができよう。

ライプチヒには昨年(2011年)9月まで滞在。その間にドイツのヴィッカウにあるシューマンハウスでピアノのソロリサイタルに出演したのをはじめ、ドイツの著名な交響楽団アルテンブルク・ゲラフィルハーモニーやカマーフィルハーモニーと共演している。寛子さんにとってドイツでの5年間は、ソロ、ピアノ協奏曲、室内楽といったコンサート活動の幅を大きく広げる貴重な時期となった。

寛子さんは、ジョン・ペリー氏のレッスンを受けて、2007年と2009年のドイツ国際音楽祭に出場する機会を得た。ペリー氏は米ロサンゼルスでピアノを教えているのだが、毎月1〜2回、トロントに来てRCMでも教鞭を執っている。ペリー氏は、「ヒロコをもっと良い音楽家に育てたい」と口ぐせのように話していた。

「当時、私はドイツで今後どう道を切り開いていくべきか、いろいろ考えていた時期でした。そんな時、ペリー先生からグレングールド奨学金の話が出て、カナダのトロントに行ってみないかとお誘いがあったのです」

昨年2月、トロントでRCMを受験。みごと合格して、9月、RCMに入学した。今年4月までの期間、グレングールド奨学金を得ながら学んでいるところだ。この奨学金は、トロント滞在中の生活費と学費を援助してくれるという、学生にとっては大変ありがたいものである。ちなみに、現在、グレングールド奨学金を得ている学生は寛子さんを含む4人と、アンサンブル(弦楽四重奏)が奨学金を受けている。

ヨーロッパからトロントに来た寛子さん、カナダにはどのような印象を?
「想像していたイメージとはちがっていました。ドイツは保守的な国で、いきなりカナダに来てびっくりしました。とても国際色豊かな国ですね。トロントのヤング・ダンダススクエアやイートンセンターなどは東京の渋谷みたい。カナダでは、人々がフレンドリーだと感じます」

ところで、演奏家にはそれぞれ自分の好きな作曲家がいるものだが、寛子さんのお気に入りは?
「バッハ、ベートーベン、スカルラッティ、ハイドンといったバロック時代、古典時代の作曲家が好きです。この2つの時代がいちばん心地よく弾けます。ゆくゆくは、バッハかベートーベンのどちらかでいけたらいいなと考えています」

演奏する時に心がけていることは?
「自分がやりたい音楽を人前で奏でられるように、とにかく一生懸命演奏することを心がけています」

今までに日本、ヨーロッパの国々で開催されたコンクールで多くの賞を獲得してきた。ますます意気盛んな寛子さんに将来の夢をうかがってみた。 「最近、チェロとピアノの室内楽をやり始めました。これからの計画としては、バイオリン、チェロ、ピアノの三重奏などを手がけてみたいですね。将来はドイツの音楽学校で教える仕事をしたい。同時に室内楽やソロも続けて行きたいです。日本にも帰ってコンサートを開きたいし、大好きなカナダでも私の演奏を聴いていただきたいです」

寛子さんの夢は、世界をターゲットに果てしなく広がる。

〈インタビュア・色本信夫〉

(2012年2月23日号)

 



 
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