【インタビュー】

中国、日本、北米で幅広く活躍する
竹笛奏者、張雷(チャン・レイ)さん


〈インタビュア・いろもとのりこ〉 1958年、中国の長春(旧満州)に生まれ、29歳で日本へ行き、10年以上神戸や大阪で学び、活躍したあと、カナダに10数年前、移住した竹笛奏者の張雷(チャン・レイ)さん。時に優しく、時にエネルギッシュな雷さんの演奏は人の心を揺り動かし、一般的な竹笛のイメージから逸脱している。それは彼が歩んできた人生そのものを反映しているのかもしれない。
現在は竹笛演奏のほかに中国文部省「中国芸術研究院」デジタルアートコンテンツ研究開発長、また映像・音楽の文学博士、映像監督・視覚音楽演出家としてカナダ、ニューヨーク、北京、日本と世界をまたにかけて幅広い活動をしている。トロント郊外のお宅に雷さんを訪ねてお話しをうかがった。


▲2007年「韓国光州国際音楽祭」に出演した張雷さん

日本に留学しようと思ったきっかけは?
私が高校を卒業したころはちょうど文化革命の時期で、3年間、草原の牧場で牛の世話をする仕事に従事していました。文革が終わって数年後に大学制度が回復しまして、瀋陽音楽大学に入り、4年間、笛や作曲、民族音楽などの勉強をしました。
卒業後、吉林省の文化庁に入り、役人として長春映画製作所(旧満映)俳優劇団に就職しました。そこで声優として外国映画の吹き替え、映像音楽制作の仕事を7年間しましたし、シナリオや映画の監督もやりました。アメリカ映画「ローマの休日」で政府の映画百花賞大賞、ラジオ劇大賞などいただきました。その作品のひとつに文革背景のことを入れたのがあって、映画審査の許可がおりませんでした。つまり、公務員ですからやりたいことが制約されるわけです。それで海外への留学を決心しました。
運よく父(数学の教師)の教え子が神戸大学法学部で教えていましたので、そのツテで神戸大学大学院音楽教育学修士課程に入ることになりました。

日本ではどんなことを学び、どんな仕事をされていたのですか?
神戸大学では日本の現代芸術を研修生として勉強し、その後、音楽教育修士号を取得しました。神戸の大学芸術祭では竹笛の演奏で特別大賞や神戸市長賞もいただきました。また、関西で人気の演奏グループと一緒にコンサートを開いたこともあります。
中国ですでに声優としての実績がありましたので、中国向けのコマーシャルにもたくさん出演しました。当時は日本の企業が中国に盛んに売り込んでいる時期で、松下電器や東芝、三菱など約200社のコマーシャルに出演しました。
大阪では映像・映画関係の仕事をしたり、関西読売テレビでは「張雷の教えてちょうだい」という番組を半年間持っていました。この番組は主として文化や音楽の比較を取り扱っていました。1997年には大阪ドームで開催した「大阪国際芸術祭」に出演。このとき、ソ連のゴルバチョフ大統領が出席し、7万人の観客が入場して大人気でした。

その後、カナダに移住されたのはどうしてですか?
神戸の東灘区に住んでいた時、1995年の阪神・淡路大震災に遭いました。それは怖かったです。私の家は大丈夫でしたが、周りの家はほとんど壊れました。震災のあと、世の中の状況がだいぶ変わり、「このままでいいのかな・・・」と思いました。そこで大阪へ行き、ロータリーや松下芸術基金の奨学金を得て、大阪大学の博士課程に進み3年間学び、文学と哲学博士号を取得しました。
区切りがついたところで、家族(奥さんの周虹=シュー・コーさん、長男と長女)のことを考えました。特に子供たちにもっと国際的な感覚を身につけてほしいと思いました。当時、長男は中学生で、長女はまだ幼稚園でした。
それに私自身、芸術家としてもっと幅広く活動してみたいということも考えました。まずは芸術家としてあこがれるニューヨークに行くことを考えましたが、家族と住むにはあまり好ましくないと思いました。そんなとき、友人の紹介でカナダに来てみて、とても気に入りました。ニューヨークはアグレッシブで刺激がありますが、カナダはゆったりして子供の教育には適していると思ったのです。それにいろいろな人種の人がいてマルチカルチュラルな文化がいいと思いました。
1998年から1999年にかけてカナダに移り、仕事はニューヨークや日本が多かったです。2003年〜2004年に中国政府からの招きで中国に行き、その後、現在の中国文部省「中国芸術研究院」デジタルアートコンテンツ研究開発長になったのです。


▲竹笛について語る張雷さん(トロント郊外マーカムの自宅にて)


▲雷さんが30年以上愛用している竹笛


▲いろいろな種類がある中国製竹笛

ところで中国の竹笛の魅力と特色とは?

笛の特色は三つあります。
1.音色は、透明感があって明るい、元気な雰囲気を作れる。笛により、低く流れる水のように癒(い)やしメロディーを出すことが可能。
2.音調は自然長調と短調で構成され、また欧米民謡の音調を再現することがきれいにできる。
3.技術的には、音楽のスピードとスタッカートにより、波瀾万丈な気持ちを十分に再現する。
だから、竹笛で弦楽器の名曲も再現できるし、世界の民謡名曲もよく演奏されるのです。

今後、演奏家としてまた映像家としてどんな活動をされたいですか?
演奏と映像を合わせたコンサート、つまり演奏が環境の一部になる視覚芸術、見える音楽を目指しています。さらにこれらが人々の心のケアとして心理的に豊かな気持ちになれる治療のひとつになることも考えています。
また、クラシックだけでなくこれまでにもやったことはありますが、もっとジャズやいろいろなジャンルの演奏家とのコラボやプロデュースもやっていきたいですね。できればトロント近辺に住む日本人のピアノまたはアコーディオン奏者と共演したいですね。

※張雷さんの演奏は下記の YouTube で聴くことができます。
http://www.youtube.com/watch?v=ywQiTJOux18&feature=mfu_in_order&list=UL(ジプシー音楽の「チャルダッシュ」) http://www.youtube.com/watch?v=1ZKMFnjw954&feature=related (日本の唱歌「ふるさと」)


▲2000年京都市民会館で開催されたコンサートのポスター

【インタビューを終えて】
竹笛の演奏のように優しい雰囲気に包まれた中にもエネルギッシュさを感じさせてくれる雷さん。雷さんの日本語はほぼ完璧だが、26歳の長男ジョセフさんも全く日本人と同じように日本語を話す。彼は英語、中国語も話すトライリンガル。インタビュー中に周紅さんが入れてくれた中国茶が、これもほんわかしておいしかった。カナダで将来に向かって前進する雷さん一家の意気込みがひしひしと感じられた。

(2012年2月9日号)

 



 
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