【ヘアスタジオ新開店】

日本、ロンドン、カナダで経験を積んで独立
ヘアスタイリスト「Yukki」こと、齋藤幸宏さん


トロントのノースヨーク、ヤング通りに面した商店が並ぶ一角の2階につい最近、「balance HAIR & NAIL STUDIO」がオープンした。経営者は齋藤幸宏(さいとう・ゆきひろ)さん(通称Yukki=ユキ)。宮城県仙台市出身の35歳。ひところに比べ日本人の企業家が少なくなってきたといわれる昨今のカナダにあって頼もしい存在である。彼の意気に触発され、後続の企業家が現れることを期待してお話しをうかがった。


▲「balance 」店のオーナー、ヘアスタイリストのユキさん(齋藤幸宏さん)


▲ヤング通りに面した商店の2階にある「balance」

美容師か料理人、2つの選択肢
仙台市出身ということで、まず気になるのが東日本大震災のこと。「実家は大きな被害はなかったのですが、周囲には被害に遭った人たちがたくさんいて心が痛みます」と話すユキさん。被災者支援の意味で店内に置いている化粧品やアクセサリーなどの売り上げ利益はすべて寄付にまわすことにしている。
さて、ユキさんのヘアスタイリストへの道のりをたどってみよう。地元の高校を卒業したあと、仙台の美容専門学校へ進む。
「実家は建設・設計の自営業だったんで、高校時代は一応、インテリアデザインとか勉強していましたが、あまり建設関係には興味がなかったですね」
オフィスワークは苦手というか性分に合わないことから仕事の選択肢として「美容師かシェフになろうと考えていました」という。しかし、食べたり、飲んで語り合うことが好きなユキさんは「自分が料理人になると楽しむことができないのではないか」という理由から美容師の道を選んだ。
美容専門学校卒業後、東京・原宿のヘアサロンで4年半働いたのち、縁あってイギリスのロンドンへ行くことになった。これもユキさんにとってひとつの転機になった。


▲店内にはネイルコーナー(右側)もある

日本とは大きく違ったロンドンの経験
原宿で働いていた店のオーナー美容師の紹介でロンドンで働くことになったユキさん。
「まず、言葉の壁にぶつかりました。いくら技術があってもこの仕事はお客さんと直接対するわけですから、コミュニケーションがとれないと仕事にならないわけです」
さらに、「日本ではある程度経験を積むと店が押し上げてくれるのですが、海外ではお客あっての自分ですからね」
なんとかコミュニケーションをうまくとれるようになりたい、と願うユキさんは毎晩のように仕事を終えるとパブなどに飲みに行き、交友の輪を広げて行った。
「人って、お酒を飲むとけっこう打ち解けてきて『じゃ、今度ユキのところへ行くよ』みたいになるんですよね」
1年半、ロンドンで経験を積んだ後、仙台に戻った。

仙台で友達とふたり共同で独立
いろいろな家の事情もあって、仙台に帰ったユキさんは友人とふたり共同で独立してヘアサロンの経営者に。
そのころ、JETプログラムで仙台に来ていたトロント出身のフランス系カナダ人女性、アンドレアンさんと知り合い、結婚。やがて長男が生まれた。
「私たちはずっと日本でやっていくつもりでした。アンドレアンは日本語が不自由なく話せたし、日本が気に入っていたので・・・」 
しかし、子供が生まれると事情が変わってきた。日本ではまだまだ「ガイジン」という目で見られ、その壁は容易に取りはずせそうにない。と同時に、もっと家族と過ごす時間を持ちたい、カナダで暮らせば日本より可能性があるのでは、とも考えた。
というわけで、独立開業して1年後に店の権利は友人にゆずり、アンドレアンの故郷であるトロントに行くことになった。
「とりあえず2〜3年住んで、うまく行かなければ日本へもどろうという気持ちでした」

アシスタントからスタート
2004年、ユキさん一家はカナダへ。まずは仕事探しである。ここぞと思う店にアプライしてモデルを同行させ、実際の仕事ぶりを見てもらう。8店まわって、すべて受け入れられた。
最初に勤めたのはアベニュー×ローレンスの店。この道10年の経験のあるユキさんでも、最初はアシスタントとしてシャンプーやブローから始め、次は子供。そして技術が認められるようになり、だんだんお客がついてきた。ここで2年半働く。
次にエグリントン×ヤングの店に勤め、専用チェアを借りてのビジネスに一歩前進した。
「このころからいずれは独立して店を・・・と考えはじめていました」
さらに2年半後、現在の店のすぐ近くの店に移り、着々と独立の準備を進めていた。その間に長女も生まれ、すっかりカナダに根を張ることになったようだ。

お客を楽しませるには自分も楽しく
これまで17年間、日本、ロンドン、そしてトロントとヘアスタイリストとして経験を積んだユキさん。それぞれお客の接し方やお客が何を望むかの違いも学んだ。
「カナダの人はけっこう保守的ですが、表現するときはかなり大げさにする方が受け入れられますね。日本のように謙虚にすることは『自信がない』と思われてしまうのです」
お客の個性を引き出し、押し付けることなくお客が楽しみ、自分も楽しむこと。「自分が楽しく仕事をしないとお客も楽しめないですよ」を常に心がけている。


▲お客がリラックスできる専用シャンプーチェアが2台備わっている


▲店内に置かれている化粧品やアクセサリー。売り上げ利益は東日本大震災被災者への寄付に・・・

2号店も視野に
「balance 」は現在、店内にヘアスタイル用椅子5台とネイルコーナーを設けている。これからヘアスタイリストも増やしていく予定だという。
「日本人スタッフもぜひ入れたいです。この仕事はサービス業であってアーティストではありませんから、きめ細かなサービスのできるスタッフを求めています。その点で日本人はクオリティーが高い技術を持っているので、この世界で伸びていけると思います」
まだ1号店をオープンしたばかりだが、すでに2号店も視野に入れ、場所などを検討しているそうだ。「2号店はスパ設備を入れられるところを探しています」と、意欲的。

運は待っていてもこないし、自分でつかむもの。ユキさんが独立できたのはラッキーな面もあるかもしれないが、やはり行動を起こす努力なしでは実現できない。多くの苦い経験も積んだであろうが、それらを糧(かて)にして今日のユキさんがある。さらなる発展を目ざしてほしいものだ。声援を送りたい。

【balance HAIR & NAIL STUDIO 】
■アドレス:5457A Yonge St. Toronto(Finch Ave.の1ブロック南)
  ■TEL:647-223-7103 
■営業日&時間:火曜〜日曜午前9時30分〜午後7時(月曜休み)
■ウェブサイト:www.ysbalance.com

〈 取材・いろもとのりこ 〉

(2012年1月19日号)

 
 


 
 
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