【ひと】

三枝師匠の弟子、人気上昇中のカナダ人落語家
桂三輝(かつら・さんしゃいん)さん


え〜〜、桂三輝でございます。「かつら・さんき」ではなく、「かつら・さんしゃいん」と呼んでください。そうです、現在、上方落語界でただ一人の外国人落語家として、かの有名な桂三枝師匠のもとで修業中のカナダ人なのでございます・・・。
「e-nikka」では、サンサンと輝かしい2012年の始めにあたり、新進気鋭、活力満点、将来有望の桂三輝さんにネットインタビューをさせていただきました。〈 取材・色本信夫 〉


▲高座で挨拶口上を述べる桂三輝(かつら・さんしゃいん)さん

○    ○    ○

桂三輝さんは1970年4月6日、トロント市生まれ。産声をあげたのはセントジョセフ病院(ハイパークの東)。本名はグレッグ・ロービック、両親はスロベニア人だ。幼少時は口数の多い、おしゃべり坊やだったというから、落語家になる素質は十分にあったようだ。
「両親はいつも、私のことをディズニーのキャラクター、ピノキオと比べていました。ピノキオはいい子ですが、とってもおしゃべりですよね」


▲落語のけいこに励む


▲英語と日本語を織り交ぜてお客を笑わせる

トロント大学を卒業後、ミュージカルの劇作家、作曲家として活躍していたが、日本文化、とくに歌舞伎を勉強しようと訪日。1999年のことだった。やがて落語に接する機会があり、異常なまでに興味を示す。
「落語家は着物を着て高座に上がり、話しを始める前に紋切り型の挨拶口上をしゃべる。座布団の上で、扇子と手ぬぐいだけでストーリーを話す。いたって簡潔なセリフで人を笑わせる。ストーリーの中で、話す対象人物が変わるたびに落語家は頭を右や左にふって相手に向かってしゃべるしぐさをするなど、臨場感を高めています。これがたまらなくいいんですね。すっかり虜(とりこ)になってしまいました」

落語の世界にぞっこんほれ込んでしまった三輝さんは2003年からアコーディオン漫談や英語落語で活動を始めた。当時の芸名は、カナダ亭恋文(かなだてい・らぶれたー)とか、楽喜亭三陀(らっきーてい・さんだー)を名乗っていた。

2007年大阪芸術大学大学院芸術研究科に入学。演芸評論家、放送作家、エッセイストとして知られる相羽秋夫氏に師事し、創作落語の研究に励む。修士課程を修了。
翌2008年、創作落語の分野でも大御所の桂三枝さんのもとに弟子入りを果たす。
「大阪芸大で学んでいた時、三枝師匠の創作落語にたいへん心をひかれました。そして、直感的に、これらの作品を英語に翻訳したらカナダをはじめ世界の国々で多くの人に受けるだろうなと考えました。そして、三枝師匠になんとしてでも弟子にしていただきたいという気持ちが抑えられなくなったのです」


▲2011年11月オタワとモントリオールで公演したときは赤い楓の柄入りの着物で出演

三枝さんに弟子入りをお願いしたとき、どんなふうにアプローチを?
「三枝師匠が大阪の天満天神 繁昌亭に出演する晩のこと、私は自分のいちばん上等な着物と羽織を身に着けて、楽屋裏の戸口で待っていました。師匠が車から降りたのを見て、駆け寄り、土下座をして、日本語で『三枝師匠、弟子にしてください!』と大声で訴えました」

弟子入りが認められ、「三輝」という芸名をつけてもらった。この芸名の由来は?
「三の字は、三枝師匠の名前から一字もらいました。輝はきらきらかがやく、英語でシャインです。二文字を合成してサンシャインとなります。師匠は、私の落語を聴いた人たちが喜んで、笑ってくれて、いつまでも覚えてもらえるように付けたと言っていました。多くの日本人が知っている英語の歌『You Are My Sunshine』(ユー・アー・マイ・サンシャイン)にもあるように、私の名前は皆さん、すぐに覚えてくれます」


▲大阪市にある上方落語の定席「天満天神 繁昌亭」の前で 【写真はすべて桂三輝さん提供による】

落語を修業していて心がけていることは?
「落語家が高座に上がる前に、楽屋で『お先に勉強させていただきます』と言います。これはすごいことです。西洋の役者は『私、なにか演じてあげます』ですからね。落語はお客様から学ぶ、この精神が大切です」

苦労することは何ですか?
「日本語の敬語がむずかしい。それに、ていねいな言い回し方が苦手ですね。また、大阪弁がまだしっかりと身に付いていません。自分の落語をビデオで見返してみると、まだまだ先が長いなあ〜と痛感しますね。ご存じのように、落語とは、ことばの芸術、話術です。落語家にとって最高に興味あるチャレンジです。ただ、これをちゃんと会得するのは、正直言って容易ではないと言わざるを得ません」

ところで、ウェブサイトで桂三輝さんの落語の動画を見ることができる。日本語と英語をうまく使いこなして観客を笑いの渦に巻き込む様子を見て、「さすが」と感心させられる。とにかく人気はぐんぐん上がっているのだ。

今までに、高座にあがって強く思い出に残っていることはありますか。
「ある、ある。去年の秋、オタワの日本大使館で英語落語を演じたのですが、会場の座席は満杯で立ち見席ができるほどの混みようでした。大部分のお客様がネーティブの方で、このような会場で英語の落語をするのは私にとって初体験でした。果たして笑ってくれるかどうか、まったく未知でした。ところが、話し始めてみると、お客様の反応は上々。うれしくなっちゃった。これで学んだこと。カナダで演じる英語落語も日本で演じる落語も、人間の持つユーモア精神(笑い)に大きな違いはないということです。落語は世界のどこに行っても、熱意をもって演じればお客様は喜んで聴いてくれる、ということかな」

桂三枝さんに入門して、このほど3年の修業期間を終えた。これを機に、上方落語でおなじみの喜六・清八によるお伊勢参りの珍道中を描いた「東の旅」を再現しようと去年11月、大阪から三重県伊勢市まで170キロ徒歩の旅に挑戦した。
「千里の道も一歩から、とお伊勢参りを希望しました。古典落語を実践して、体でネタを覚えようと思ったものですから」と明るく語る。

落語家として将来の夢は?
「夢は落語を毎日演じることが出来るようになることです。聴きに来てくださったすべてのお客様が、私の落語のストーリーの中に完全にひたりきって、笑ってくれたらいいな。日本中いたる所に、いや、欲張って世界中に出向いていきたい」

トロント出身のユニークな落語家、桂三輝さんにカナダからも声援を送ろうではありませんか。
「フレー、フレー、サンシャイン!」

(2012年1月1日号)

 



 
(c)e-Nikka all rights reserved