【世界の街角から】

パリで発祥したワイン画家、山根由さん
ライフワークは原爆の悲劇を描いて平和への道を・・・


「ワイン画家」(Peintre aux vine) 、パリに住む山根由(やまね・よし)さんの名詞の肩書きである。あまり聞いたことのない肩書きであり、画材でもある。しかし、なんともフランス的でさも昔からありそうに思えてくるから不思議だ。もちろん、これまでに他に聞いたことがないから、おそらく山根さんが発案者であろう。つまりワインを材料にして絵の具の代わりに用いて描く画家なのである。といってもワインそのものを使うわけではなく、絵の具として使えるようにするには相当の試行錯誤の努力があったようだ。
山根さんは兵庫県神戸市出身。現在48歳。高校卒業後は料理人としてホテルなどで働いていた。1995年、最初は料理の勉強のためフランスへ。リヨンなど地方をへてパリへ来る。10年ほど前から絵を学び、独自の画法を生み出してワイン画家としての歩きはじめた。昨年5月に初の個展を開き、今年5月から6月にかけて2回目の個展をパリ市内のカフェ・バーで開催した。現在も料理人としての仕事も続けている。


▲ワインと墨で描いた作品?


▲作品?


▲作品?

ワインを画材に使ってみようと思いついたきっかけはなんでしょう?
他の人が聞いたら信じられないようなきっかけなんですが・・・、10年ほど前に友人が交通事故で亡くなりまして、その友人とはワインがお互い好きでよく飲んでいたんです。彼の死は本当にショックでしたね。亡くなってすぐのころ、夢で彼が「ワインを使って絵を描いてみたら面白いかも・・・」と、語りかけてきたんです。それまで絵を描いたこともなかったんですが、すぐに「やってみよう」という気になりまして、さっそくデッサンの学校に通って勉強をはじめました。料理人の仕事をしながら基礎をあしかけ3年くらい学びました。

ワインで絵が描けるようにするには、いろいろ工夫されたのでしょうね。
もちろん、ワインそのままでは使えませんから、絵の具のような状態になるまで1本を約10分の1の量になるまで煮詰めます。ワインでも種類や年代、生産された地方によって色の出方がちがうのです。古いワインは茶色の濃い褐色になります。安いワインは糖分が多くて、煮詰めるとジャム状になったりするのです。赤、白、ロゼいろいろなワインを煮詰めてそれぞれの特色を生かして混ぜ合わせて使っています。しかし、ワインだけではインパクトが薄いので、墨を加えることにしたのです。これらを使いこなすには約10年かかりましたね。本当にやっと最近です、思うように使えるようになったのは。


▲墨を多めに使った作品


▲ガラスに描いた作品

ワインで描いた絵の特色は?
画法にもよりますが、なにかやわらかさがにじみ出てくるような気がします。ワインが人を楽しくするようにワインで描いた絵も人の心を動かせればいいですね。ただ、ワインは色が変化するようにワインで描いた絵も色が変わってくるのです。描き上げた当初はピンクだったものが何年かたつと茶色になったり・・・。そのことは絵を買ってくれる方にも説明しています。また、ワインの水分が完全に蒸発していないとカビがはえるように、絵にもカビがはえるんですよ。まさに生きものです。最近、キャンバスの代わりにガラスに下ぬりをしたあと、絵を描くことを試みています。今回の個展にも1点出しています。ガラスに描いたものに裏から光を当てるとステンドグラスのような効果があって、立体的に見える面白さがあるんです。これからもガラスに描くことをもっと研究していきたいと思っています。


▲個展会場(3Pieces Cuisine)風景

これから先、描いてみたいテーマのようなものはありますか?
今、自分が描いている絵はほとんど自己満足の世界なんです。1年くらい前にテレビで旧ソ連の大統領だったゴルバチョフ氏が核について語っているのを見たときに何か心に訴えるものがありました。それから、長崎や広島に投下された原爆についてインターネットで調べたりして自分も絵を通して平和への道に役に立てればいいなあと思うようになりました。これは今すぐというより、長い道のりをかけてのライフワークのようなものです。これから広島へ行ったりして資料も集めたいと思います。原爆の悲劇が世界で2度と起こらないよう、私の絵が人の心を動かせることができたら、絵を描く生きがいにもなります。

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フランスへ来た当初はパリが嫌いでしょうがなかった、という山根さん。パリというより一見、冷たく感じるパリの人が嫌いだったそうだ。しかし、こうして15年も住んでいるとだんだんパリから離れられなくなる。そんな魔物のようなところでもある。そこで山根さんは自分がここに住んでいる証しみたいなものを模索していたのではないだろうか。それがたまたまワイン画であり、そして平和へ導く絵ではないだろうか。ワインで人物を描き続ける彼の手法は将来きっと人を感動させる絵を生み出すと信じている。
◎山根由さんの連絡先:Eメール mailto:yyyyyoshi@gmail.com

(リポート・いろもとのりこ)

 



 
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