【やっぱりモントリオール】

お店の全収益を慈善事業に寄付!
ボランティアで成り立つユニークなレストラン「Robin des Bois」


〈 オンタリオ州ロンドン市 ウィルソン夏子 〉

列車に乗った。4月中旬、ロンドンからトロントを経てモントリオールへ。列車の窓から見える広々した畑、林や湖が緩やかに通り過ぎてゆく。「これがカナダの春なんだ」と風景を満喫しながら、8時間ほど列車に揺れていた。
モントリオールはずっと寒いかと思っていたら、予想に反して、とても暖かかった。

さて、「ちょっと変わったレストランがあるわよ」とモントリオール在住の知人が言った。そのレストランでは、客から得た全収益を慈善組織に寄付する。かつ、ウエートレスさんなどはボランティアで成り立っているというレストランなのだ。それでサンローラン通りにある「Robin Des Bois」に行ってみた。


▲レストラン「Robin Des Bois」の看板。英訳では「ロビンフッド」となる

イギリスのロビンフッドは、金持ちから奪い、貧しい人々に与えるという伝説的英雄・義賊。つまり、善意のある人からお金と時間を頂戴し、それを慈善に回すというのがレストランの主旨なのだ。

このレストランを始めた人は、Judy Servay さんというモントリオールのビジネスウーマン。テレビや映画のプロデューサーだった彼女は、暇な時間に地元のレストランでボランティアを続けていたが、2006年、すべての収益を慈善事業に回し、店で働く人々も、シェフやマネジャーを除いた数人のほかは、すべてボランティアで賄(まかな)うというこのレストランを始めたのだった。「社会を変える女性起業家」という名が値する人だ。

サンローラン通りのお店のガラス窓ごしに中を見ると、すでにお客さんがテーブルに座っている姿が見える。店内に入ると、レストランは広々とし、感じのいい優雅さをただよわせていた。予約をしておいてよかった。7時なのにもうすでに半分のテーブルは客でふさがっていた。


▲午後7時ごろのレストラン内

若いウエートレスさんがテーブルに来た。なんとなく素人っぽいという感じの女性だ。
「ここで、よくボランティアなさるの?」
「いいえ。今日が初めてです」
本職は学生さんだそうだ。

前菜にニジマスのくん製($9)。緑の菜と一緒に魚の一切れをパンの上にのせてみると、ほど良く脂(あぶら)ののったマスがおいしい。一品を二人で分け合う。


▲メインにはタコ料理。西洋風のタコ料理は珍しいので、これに決めた

タコには、ブロッコリーとポテトが添えられ、ニンニク、玉ねぎ、ワインそしてオリーブオイルで味付けされていた。ヨーロッパ風タコ煮というところか。タコは、「しこしこ」という歯ごたえのあるのとは違い、非常に柔らかく料理されていた。多分、このタコは肉たたき器で繊維をほぐしてあるのだろう($20)。夫は鯛(たい)料理を注文した。($18)。

デザートはパンナコッタ($4.25)。生クリームがチョコレートのソースと混ざり合い、口の中で甘くとろけるような可憐な味。ビール2杯と、ワインをグラス1杯。エスプレッソなど含めて、総額は二人で$74.25。税金を入れて$85.37。チップを入れてちょうど$100だった。

しかし、チップも含め、収益は、
Le Chainon(女性を救う会)、CACTUS Montreal(地域の医療センター)、Sun Youth(低所得者をサポートする会)などの組織に寄付されると知れば、胃袋ばかりでなく、心も満足させることができた。そして、改めて、インターネットでクリックして送金するのとは違う寄付の仕方があるのを知った。

食事が終わった時点で、「このレストランのことを記事にしたいんですが」とマネジャーに言うと、キッチンに案内された。


▲キッチンで働く人

二人の男性と話す。私は、彼らがなぜ、ここでボランティアをしているのか聞いてみた。この青年は言う。
「僕は、いつか料理人になりたいので、勉強がてらキッチンで手伝っている」
つまりこの人は、ボランティアをしながら修業という一石二鳥。焼いた鶏肉をほぐしていたもう一人の中年の人に聞く。
「なぜ、ここでボランティアを?」
「僕は、料理するのが好きだから」
「昼間は何をしているんですか?」
「僕は、コンピューター・アナリスト」

明らかに、この人は楽しみながらボランティアをしているのだ。ネットサイトによれば、350人ほどのボランティアの希望者名簿があるというから、そうやすやすとボランティアになれるわけでもないのだ。年間で言えば、4500名の人たちがボランティア活動をしているそうだ。その成果として、2010年には2万ドルを寄付したそうだ。


▲右側の人は、日中はコンピューターに向かっている

このレストランの店主に会ってみたい、と私は思った。それで店内に戻り、店主と思われる女性と話してみる。
「店主さんでしょうか?」
「いいえ、私はボランティアよ。昼間は写真家だけれど」
店主には会えなかったが、写真家に出会った。即刻、私は自分のカメラを差しだした。
「これで、このレストランの写真を撮ってくれませんか?」
すると、彼女は、私をレストランの隅に連れていった。
「カメラは、固定させた方がいい写真がとれるのよ」と言い、ちょっと高見にある台の上にカメラを置いて撮ってくれた。


▲夜8時過ぎ、満席の店内。本職は写真家というウエートレスさんが私のカメラで撮ってくれた

と、こんなふうに、店の雰囲気はとても気楽で、楽しげで、また行きたいと思わせるものがあった。
今、私は「なぜ、また行きたい」と思ったのだろうかと振り返ってみる。その理由は、このレストランの客とボランティアが互いに分かち合える意図を持ち、その時間を生き生きと共有しているからだと思った。

モントリオールでは道を尋ねても親切だったし、人は一般に丁寧で、気安く話しかけることができた。精神的な「ゆとり」のようなものも、この町の人々に感じられた。そんなモントリオールだからこそ、このようなレストランが生まれ、人々の関心を誘うのだと思った。もしモントリオールに住んでいれば、私はこのレストランのキッチンでボランティアをしたいと思った。皿洗いならできそうだから。

Robin des Bois
4653 boul. Saint-Laurent
Montreal, QC
514-288-1010
www.robindesbois.ca

(2012年5月24日号)

 



 
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