【世界の街角から】

モロッコ紀行(前編)
近代的な都市カサブランカ、イスラム文化の中心古都フェス


〈 トロント・牧野憲治 〉

流行言葉を使って意訳すれば、「クールに行くモロッコ旅行」とでもなりますか。「Morocco in Style」というオーストラリア旅行会社企画の案内書を持ってきたのはワイフでした。生返事をしているうちに主導権が彼女に傾き、トロントダウンタウンの旅行社に行くことになりました。


▲ハッサン二世モスク(カサブランカ)

そこで優秀(?)なセールスマンの話を聞いているうちにその気になり、二人でその旅行社を出たときには、デポジット領収書も兼ねた契約書を手にしていたという結果になりました。いつものように、ああでもない、こうでもないとやる計画段階のエキサイト度が少なく何か物足りませんでしたが。

私達にはモロッコというと、すぐ、エキゾチックなという形容詞とともに、ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマンの映画「カサブランカ」、そして「マラケシ」「カスバ」などの言葉が思い浮かびます。


▲赤衣の女(ラバット)   油絵   牧野憲治作

14日間の旅程はかなり盛りだくさんで、後半では砂漠をラクダで行ったり、アトラス高地(High Atlas Mountains)では少しトレッキングもやれるし、またピーター・オトゥールの映画 「アラビアのロレンス」(Lawrence of Arabia)のロケ地なども見られることが分かり、次第にエキサイト度は上昇しました。


▲青壁の路地 ・1(ラバット)


▲青壁の路地・2(ラバット)

大西洋に面したモロッコ最大の都市カサブランカ(Casablanca)に集まったこの旅行の参加者は、ニュージーランドから来た薬局を経営する夫妻と会社員の女性、オーストラリアから来た弁護士の女性と数学教師の女性、インテリアデザイン業のアメリカ人カップルと私達夫妻の9人。リーダーは現地人なみにアラビア語を話せる英国人の若い女性という顔ぶれでした。

カサブランカとは「白い家」という意味だそうですが、そのとおり白い建物が多く、もはやエキゾチックなどという古い形容詞は場違いな、近代的な明るい国際都市でした。ここではモロッコ最大のモスク(イスラム教寺院)、ハッサン二世モスク(Hassan I I Mosque)を見学しました。

このモスクは、ガイドの説明によると、キング・ハッサン二世が職人10,000人を使い、昼夜兼行で5年間で完成させ、1993年にオープンしたそうです。室内に25,000人、石畳の広場に80,000人の信者を収容できる壮大なモスクですが、まだ歴史の重みがないせいか、前に見たイスタンブール(トルコ)のブルーモスク(1616年完成)の方が印象度は強かったと思いました。

やはり大西洋岸にある首都ラバット(Rabat)も近代的な都会に変貌していましたが、まだそこここに昔の歴史を伝える建物、街並みが存在します。特に強い印象を受けたのは、下半分を青く塗られた、石畳の細い道を囲う高い土塀です。強い日差しと雨ざらしで年季が入ったこの青がすっかり気に入りました。

「モロッコに来たんだ」という実感がわいたのは、モロッコでのイスラム文化中心地といわれる古都フェス(Fes)に入ったときです。私達は専用バスを降りてから、自分達の荷物を引きずりながら、両側を高い塀で囲われた細い路地をあちこち曲がって歩き、一見、平凡なくぐり戸に到着しました。

しかし中へはいると、そこはまったくの別天地で、昔の王侯のパレス(宮殿)を改造したホテルがあり、その豪勢さに一瞬息をのみました。Morocco in Style と称した理由の一つが、このようなユニークなホテルを使うということで、ワイフがこの旅行に熱心だったわけがあらためて分かりました。


▲メディナ(市場)の入り口(フェス)

アラブの世界で中世から続いている市場を通称メディナ(Medina)と言いますが、世界最大の市場の一つといわれるメディナがこのフェスにあります。いったん中に入ると、細い曲がりくねった迷路が果てしもなく続き、テント張りの、ありとあらゆる商店、工芸品製作所、食料品マーケット、スパイス専門店、レストラン、皮革なめし染色所、占い所、はてはモスクまであります。その喧騒(けんそう)ぶり、アラブミュージック、道まであふれ出る商品、色彩、さまざまな匂いのカクテルなどで圧倒されましたが、商人達とのネゴ(値段交渉)も楽しみました。


▲メディナの中の干しフルーツの店(フェス)


▲メディナの中の皮革なめし染色所(フェス)

幸い、高揚した気分につられて、とんでもない買い物をするということはありませんでした。こういう所の商品売買のネゴは、必ず行うポーカー的ゲームのようなもので、相手はこちらの真剣度、財布の中身までも推し測りながら、何百回も使ったであろうジョークなどをまじえ、ときには「あなたは私を侮辱するのか」などと言ったりしながら、徐々に値段を下げてきます。

こちらも、いやそれほど欲しいわけでもないんだ、ということを納得させるため、半歩店を出かかったりしながらネゴを続けます。値段を払い過ぎたうえに内心軽蔑されてはかなわないので、こちらもつい一生懸命パフォームすることになります。(次号に続く)

(2012年5月31日号)

 



 
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