【自然と生きる】

バンクーバー島・田舎暮らし 
トーテムの町ダンカン


〈 BC州コモックス・ヒル厚子 〉


BC州バンクーバーアイランドに移り住んで田舎暮らしを始めてから、はや2年になろうとしている。ナナイモやビクトリアといったよく知られた地域の情報はどこでも入手できるが、小さな町についてはよく分からない。そこでぼつぼつ足を伸ばして小さな町々を探検してみることにした。今回の旅はカウチンセーター発祥の地、ダンカンである。


▲旧ダンカン駅前でボランティアのガイドが説明を始める。夏のピーク時には1時間ごとにツアーが出発する

まず、ダンカン(Duncan)の発音であるが、町に行ってみてこの発音では通じないことに気づいた。スペルからはダンカンと発音するのが当然のような気がするが、地元の人々は「ダンク・ィン」を早く言ったような、つまりダンキンに近い発音をする。カウチン(Cowichan)にしても同様である。スペルからはとてもカウチンとは想像できないし、実際の発音はカウチンでもないのだが、日本語の発音として一番近いのはやはりカウチンとして表記するしかないのだろうと思う。


▲フクロウの上に鯨、鯨の頭にスピリット、その上に鷲。フクロウは知恵の象徴、鯨は守り神・善の象徴、スピリットは彫刻者の魂・癒やしの象徴、鷲は知性と偉大な力の象徴


▲ニュージーランドの彫刻家による作品。目にはあわびの殻が・・・

ダンカンはトランスカナダハイウエーでビクトリアとナナイモのちょうど中間くらい(どちらの町からも約50キロ)に位置する人口5000人たらずの町である。温暖な気候で真冬でも平均気温は1度前後、真夏は23度前後である。近くの美しいカウチン湾や湖、周囲の町々のアトラクションもあって、夏には人口の20倍以上の観光客を迎える。秋にはマツタケが採れ、きのこ収集家の間では名の知れた地域である。


▲リチャード・ハント作のトーテムポール。地元の観光案内によると、直径6フィート7インチで、直径では世界一大きいそうだ


▲街の中は、歩けば棒に当たるようにトーテムが建っている

ダンカンの一番の見ものはトーテムポールである。1980年代に町おこしの一環として、BC州最大の先住民族カウチン族にちなんで80あまりのトーテムが町中に建てられた。地元の先住民をはじめ、アラスカやニュージーランドの芸術家によるものなど、さまざまなスタイルのトーテムが集められている。


▲哲学者風の人物を彫った作品


▲朱色が目を引く


▲旧中華街跡に置かれた中国人を象徴としたトーテム

5月から9月末までは旧ダンカン駅前からボランティアによる無料トーテム・ツアーがあり、いくつかのトーテムを巡って簡単な説明をしてくれる(約45分)。また街の歩道には黄色い足跡がペイントしてあり、同じトーテム巡りの道順を案内してくれるので、自分で回ることもできる。ただしこの道順で見ることができるトーテムはせいぜい30くらいである。ツアーに参加するとトーテムに刻まれたキャラクターの意味や先住民族の信仰、トーテムの由来なども説明してもらえるのでよい勉強になる。


▲こんなビルの壁にもトーテムが・・・


▲時計台がある昔ながらのダンカン市庁舎。30分ごとにチャイムが鳴る

ダンカンは1860年代にウィリアム・ダンカンによって開かれた町で、時計台のある市役所をはじめとする歴史的な建物も残る。かといえば、コミュニティーセンターの前にはギネスブックで公認された「世界一大きいホッケースティック」があったりもする。

1900年代には炭鉱と木材で栄えた町である。当時の労働者は中国人で、ダンカンのダウンタウンには中華街があった。今は当時の写真が小さな路地に展示してあり、その前に日本の「こけし」に似たトーテムが建てられているだけである。ガイドはこの「こけし」のような彫刻が中国人の象徴だと説明していた。

ダンカンの町で気づいたのは、バンクーバー島特有の環境問題に敏感な人間がここにも多く住んでいることである。バンクーバー島にはこの種の人間が多い。
観察していると一部は1960年代にヒッピーとして新天地を求めてこの島に流れ着いた人々であり、別の一部はスローライフや無農薬・文明の利器を最小限にとどめた生活を求めて新しく移住してきた人々である。どちらも「不自然なもの・文明の利器」に敏感に反応する。

BCハイドロ(電力公社)がスマートメーターを各家屋に取り付けると発表すると、その危険性、プライバシー問題などを取り上げて反対運動をする。電気のメーターに「ここは私の所有地ですから一切手をつけないように」という過激な張り紙が張られている。

ナマコの飼育場を海の一部に設けるということも大きな話題になっている。手作り石鹸や奇妙な葉っぱ調合のティーを集めるお茶専門店などが爆発的にヒットする。私を含めて野菜や卵は農家に直接買いに行く。

ダンカンの町のガラクタ屋さんをのぞいていると、オーナーの女性がおいしそうな農家直売の野菜といろいろな穀物類の入ったサラダをランチに食べていた。そこへ携帯電話で通話しながらお客が入ってきた。オーナーの女性はすぐさまランチをカウンターに置き、「ごめんなさい。私は電波にとても敏感なので、このお店ではコンピューターや携帯は使わないでください」と店の入り口にある張り紙を指さした。

よく見ると店内に「コンピューターと携帯、使用禁止」の張り紙がある。すると他のお客が「ほんと、なるべくそういうものは避けたいわね。町中がそういうものであふれていて、時々気が変になるわ」と同意する。携帯のお客はすぐに携帯を切ってそれでもガラクタをいろいろながめてショッピングすることをやめなかった。ここではそういう商売が成り立つのである。

昔ヒッピーだった風のおばさんが経営するお茶屋さんでは、奇妙なお茶を数種類試飲させてくれた上に、私の選んだお茶っ葉を「ご主人と1カップずつ分」といって封筒に入れておみやげに包んでくれた。エキセントリックであったり、人情にあふれていたりするのが、この島の小さな町の雰囲気である。

カウチンセーターで有名なカウチン族はBC州最大の先住民族で、登録メンバーは約3800人。その半数がダンカン周辺の先住民居住区に住む。ダンカンの町にもミュージアムがあるが、残念ながら私の訪れた5月には特定の時間しかオープンしていなくて中を見ることはできなかった。

カウチンセーターの技術は、1860年代に渡ってきたスコットランド人がカウチン族の女性たちに羊の毛を使った編み物を教えたことに始まるとされる。カウチン族はそれ以前から手織りのすぐれた技術を持っており、編み物はたちまち民族の間に広まった。テーマは伝統的な狩猟と幾何学模様を組み合わせたものが多い。

現在では毛糸の加工はほとんどが機械によるが、今でも少数の女性たちは伝統的な方法で毛糸をつむぎ、丹念に手編みをするというから、そんなセーターを手にしてみたいものである。不思議なことにセーターを売るお店をダンカンのダウンタウンでは見つけることはできなかった。

残念ながら、カウチン族の居住区では近年自殺が相次ぐ。今年もすでに50人以上の自殺者が出ており、深刻な社会問題として対策が求められている。

観光案内センターで宿泊先の情報を求めたら、ダンカンよりもカウチン・ベイに行きなさいとすすめられた。次回はこのカウチン・ベイとその周辺のアトラクションを報告したい。

バンクーバーアイランドの地図はウェブサイト参照
explorevancouverisland.com

(2012年6月28日号)

 



 
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