【自然と生きる】

バンクーバー島 田舎暮らし(その4)
パウエルリバーのカサウミュー国際合唱祭


〈 BC州コモックス ヒル厚子 〉


田舎、田舎といっても文明がないわけではない。驚くなかれ。卓出した芸術家や有名な音楽家がご近所に住んでいたりするのがブリティッシュコロンビア(BC)州バンクーバー島の田舎町である。今回は私の住むバンクーバー島コモックスからフェリーで本土側に渡ったところにあるパウエルリバー(Powell River)という町で2年ごとに開催される「カサウミュー」と呼ばれる国際合唱祭なるものをご紹介しよう。


▲カサウミュー合唱団


▲スポットライトで歌うプエルトリコの合唱団


▲ワールドベストに選ばれたオーストラリアのユース合唱団「ビラリー・ブロークス」

パウエルリバーという町
コモックスはバンクーバー、エドモントン、カルガリーから毎日直行便が飛ぶ便利な町である。空軍基地の一部を飛行場として利用しているので、ジャンボ機でも着陸できる設備がある。しかし飛行機ばかりかフェリーでも本土側に渡ることができることはあまり知られていない。ただし向こう岸のパウエルリバーは本土側といってもフェリーと飛行機でしか到達できない位置にある人口わずか1万3千人のこれまた田舎町である。

コモックスのリトルリバー(Little River)波止場からフェリーに乗って1時間15分で到達するパウエルリバーは、サンシャインコーストと呼ばれる地域にあり、バンクーバーからも距離的には145キロと近いものの、北にフェリーを2回も乗り継いで行かなければならない不便な場所にある(バンクーバーから5時間もかかる)。


▲中国の子供合唱団


▲SOAPオーケストラの演奏

しかしなぜかインターナショナルな町で、毎年6月には全世界から若い音楽家が集まり、SOAP(Symphony Orchestra Academy of the Pacific)という交響楽団が結成され、プロに向けてのトレーニングとコンサートが開かれる。モスクワ・シンフォニーの指揮者であるアーサー・アーノルド氏が居住しているし、音楽アカデミーもあって、非常に音楽に力を入れている町である。

カサウミュー国際合唱祭
この町でカサウミュー国際合唱祭「International Choral Kathaumixw」を開催し始めたのは30年前のこと。カサウミュー(Kathaumixw)とは地元の先住民スリアモン(Sliammon)族の言葉で、「異なった民族が共に集まる」という意味である。1年目には全世界から参加希望の合唱団を募集・選抜し、2年目に開催準備をして合唱祭を実施するという仕組みになっている。今年は7月3日から7日までの5日間開催された。

初日のオープニングセレモニーでは、RCMP(連邦警察)とバグパイプによる行進、前述のSOAPオーケストラの演奏。スリアモン族のチーフによる開会宣言。500名以上にのぼる各国から集まった合唱団の中から、中国の子供たち、オーストラリアのユース、フィリピン合唱団など数カ国の合唱団がスポットライトを浴びて短い歌を披露した。オーケストラをバックにスリアモン族の少女による独唱もあった。会場は1000人以上の人で埋まり、アマチュアでありながらも心を打つ歌や演奏を披露してくれた。

2日目から、午前中は高校の劇場、アカデミーホール、スケートリンクの3つの会場でそれぞれの課題曲や自由曲、部門別での審査となる。審査会場には一般の人も無料で入場して歌声を楽しめる。午後は3時と夕方8時から、これも3つの会場でそれぞれコンサートが開かれる。これには入場券が必要となる。小さな町なので3日目にもなると、どの合唱団が良かったといううわさが町に流れ、人々がその合唱団を目当てにチケットを買うので、満席で入場できない会場もあった(必ずしも人気のあった合唱団が受賞したわけではないが・・・)。


▲メキシコの合唱団


▲フィリピンの合唱団

4日目まではこのパターンでソロや合唱が3会場で催される。そして4日目の夜はそれぞれの部門での優勝グループの表彰式とそのグループの歌の披露がある。この歌の披露が同時に翌日のワールドベスト合唱団を選定する審査でもある。


▲カサウミュー国際合唱祭閉会式の最後では全合唱団500人以上が大合唱

最終日の5日目の夜は閉会式。
ここでは全合唱団の中からワールドベストの合唱団がひとつだけ選ばれ発表される。今年はオーストラリアの「ビラリー・ブロークス」というユース合唱団が優勝した。優勝グループの歌が披露され、ほかにゲストのオペラ歌手の歌、参加した子供合唱団全員による合唱やソロの受賞者の歌、そして最後は参加した全合唱団による数曲の合唱でしめくくられた。老若男女500人あまりの歌声は迫力満点、今でも耳に残っている。

今年の様子や受賞グループのリストは、下記のサイトで見ることができる。
ビデオクリップもあるので様子を感じとることができると思う。
ttp://www.prpeak.com/articles/2012/07/12/community/arts/doc4ffcc30719e7f395870171.txt

宿泊先
さて、小さな町に突然何百人もの観光客が訪れるとなると宿泊施設が心配になる。確かにいくつかあるB&Bやモーテル、ユースホステルはこの時期は満杯と聞く。そこで私たちが予約を入れたのはフェリー近くのキャンプ場であった。去年から言われていたので、今年の1月に予約を入れた。こんな小さな田舎町がいっぱいになるのだろうかと半信半疑だったが、キャンプ場に到着してみると本当に周りはほとんどカサウミューを鑑賞に来た人々だった。特にモーターホームのサイトは満杯。30年間一度も逃さずに来ているという熱心な人々もいた。

突然自転車レース?!
中でも7月3日は、なぜか世界でも有名なBC自転車レースの一団の到来も重なったということで、キャンプ場はお祭り騒ぎ。カサウミューの観客のほかに500名あまりのレース参加者と100名くらいの関係者が集まったからたまらない。芝生にまでテントが所狭しと並んだ。このレースについては次回一筆したい。


▲カサウミュー国際合唱祭4日目のころ、沖合に「黒船」ならぬ先住民の「カヌー大集団」が到来

先住民の儀式との遭遇
自転車競走の人混みが台風のように去って、キャンプ場に静寂が戻ったのもつかの間。4日目くらいだっただろうか。夕方近くに「ドンドン」「オーオー」と先住民の太鼓と歌が鳴り響くので海辺に走ってみると、沖合いから何艇もの色とりどりのカヌーがぞろぞろとこちらに向かっている。1艇に10人以上の頭が見える。岸辺ではドラムを持った数名の先住民が歌を歌いながらそのカヌーに向かって太鼓を打っている。

周りの人々に何事かと尋ねると、BC沿岸を先住民のグループがカヌーで旅しているのだという。ここは異部族のテリトリーなので上陸許可をもらうため沖合でグルグル旋廻した後、岸辺に来て口頭による許可を願うらしいとのこと。


▲6艇が1グループになって岸へ近づいてくる


▲パドルを垂直に立てて挨拶。上陸許可を願うグループ代表

太鼓と歌が響く中、16艇のカヌーは5艇から6艇が1グループにまとまって岸辺に近づいてきた。波打ち際のすぐそばまで来ると、1グループごとにリーダーがスピーチをする。今日はどこからここまで来たか。いかに疲れているか。水と食べ物を補給するためにここに立ち寄りたいが上陸しても良いかなどと述べる。するとそのスピーチごとに、スリアモン族のチーフが、「ようこそ!私たちの豊饒(ほうじょう)なテリトリーでゆっくりお休みください」と答える。


▲スリアモン族のチーフ(赤いズボンの人)が歓迎する


▲上陸許可を得たカヌーが整列


▲見物人たちも手伝って陸揚げ

すべてのグループが許可の受諾と挨拶を終えると、今度は岸辺で見物していた私たちまでが駆り出されて、それぞれのカヌーを陸揚げした。先住民が今でもこうした儀式を実行していると知り興味深かったのはもとより、なぜか心がジーンとして目頭が厚くなった一連の光景だった。

たまたま長老が隣にいたので、どういう旅なのか、いつまでこの人たちはここに留まるのかと尋ねたら、「RCMP主催の何かで明日か明後日か明々後日かに発(た)つらしい」という返答がかえってきた。いかにも先住民らしい回答だと思わずほほ笑んでしまった。

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今回は最初3日間がBC特有の雨でテントがずぶぬれになったりしたが、音楽あり、バイクレースの興奮あり、息をのむような大自然あり、そして先住民の儀式ありと中身の濃い一週間だった。

カサウミューにはカナダ各地の合唱団も参加していた。日系合唱団も応募してみてはいかがだろうか。日本からの参加であれば、宿泊の莫大な出費を考慮して「外国からの参加者にはホームステイのはからい」があるという。町中の人々が協力して、一家で4人も5人も引き受けることが珍しくないという。次回のカサウミューは2014年。2年後の歌声をとても楽しみにしている。
詳細は以下のサイトで。
http://www.kathaumixw.org/

(2012年7月26日号)



 



 
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