【世界の街角から】

フランス西北部ノルマンディーを訪ねて(2)
絵のように美しい漁港、オンフルール(Honfleur)


〈 いろもとのりこ・記 〉


前回ご紹介したル・アーヴルのセーヌ川をはさんで対岸にあるオンフルールは、同じセーヌ川の河口にありながら全くちがった趣の町である。共通点といえば、やはり印象派画家たちが好んで描いたところであり、ゆかりの多いことだろうか。


▲ル・アーブヴルとオンフルールの間のセーヌ川にかかかる超モダンなつり橋

ル・アーヴルからバスで約30分、セーヌ河口にかかる近代的なつり橋を渡ると、そこには別世界が広がっている。このつり橋は1995年に完成した。それまでル・アーヴルとオンフルール間は45分間かかっていたそうだが、今では15分で行き来できるようになった。


▲絵のように美しい旧港。手前ははね橋になっていて船が往来できる


▲旧港付近の通りにはレストランが並んでいる

バスターミナルから歩いて5分ほど行くと古いビルに囲まれた旧港に出る。現在はヨットが停泊するマリーナになっていて、その風景はまるで絵のようだ。そのため、多くの観光客が訪れるようになり、旧港付近の小路にはカフェ、レストラン、土産物店がひしめき合っている。


▲オンフルール名物、ムール貝のワイン蒸し。やわらかくてジューシー


▲木造建築のサント・カトリーヌ教会

名物料理はもちろん新鮮な魚料理だ。中でも安くてボリュームたっぷりの「ムール貝のワイン蒸し」は人気の的。オンフルール唯一のミシュラン星付きレストラン「Sa・Qua・Na」(サ・カ・ナ)は地元出身のオーナーシェフ、アレクサンドル・ブルダが日本の3つ星フランス料理店でシェフをしていただけあってクリエーティブな料理が評判になっている。www.alexandre-bourdas.com
これらの店や港をそばで見下ろすように建っているのがサント・カトリーヌ教会(Eglise Ste-Catherine)。15世紀にオンフルールの船大工によって木材で建てられた教会で、木造教会としてはフランス最大の規模だそう。元々は石材で建てられたのだが、イギリスと戦った百年戦争(14〜15世紀)で破壊され、再建する際、経済的な理由で木材が使われたとか。教会の天井は船底をひっくり返したような形をしている。


▲ブーダン美術館

旧港から狭い石畳の小路が東西南に何本も出ている。ほとんどが風情のある坂道で両側には古い民家が並ぶ。そんな小路のひとつにオンフルール生まれの印象派画家の師といわれるブーダンの名前をとったウジェーヌ・ブーダン美術館(Musee Eugene Boudin)がある。それほど大きくはないが、ブーダンをはじめモネやデュフイ、マティス、ピカソ、シャガールなどの作品が展示されている。意外だったのはこれらの中に「ノルマンディーの春」(1968年作、ムラヤマ・シズカ)という日本人画家の作品があったこと。いかにも牧歌的情緒あふれる絵だった。


▲ノートルダム・ドゥ・グラス

そこからさらに坂道を登りつめた丘にシャペル・ノートルダム・ドゥ・グラス(Chapelle Notre-Dame-de-Grace)という古いロマネスク様式の礼拝堂がある。この丘からオンフルールの町や遠くに対岸のル・アーヴル港を望むことができ、旧港のにぎやかさがうそのような静かな空間を味わえる。


▲右側の家がサティの生家で一般公開されている

■サティの生家
オンフルールで一番興味深かったのは作曲家、エリック・サティ(Erik Satie 1866〜1925年)が生まれ、12歳まで住んでいたという「Maisons Satie」(サティの生家)。1998年から一般公開されている。一見、普通の家だが、音楽とビジュアルアートが組み合わさった不思議な世界へと導いてくれるところでもある。


▲作品「梨の形をした3つの小品」をイメージした部屋


▲サティの曲が演奏されているピアノ

まず、受付でレシーバーを渡され、各部屋ごとに彼の作曲した音楽を聞きながら進むと目の前には不可思議な物体が・・・。これぞ「音楽界の異端児」と呼ばれたサティのイメージを表現しているのだろう。 サティはシャンソンからクラシックまで幅広いジャンルの音楽を作曲している。日本でもコマーシャルやゲーム、バックミュージックなどによく使われているので、サティの名前を知らなくても曲を聴くと「あ〜、これがサティの曲なのか」と納得する人も多い。代表的なのが「Je te veux」(ジュ・トゥ・ヴー)や「Gymnopedies」(ジムノペディ)など。
最初の部屋には巨大な梨のオブジェがで〜んと座り、梨から突き出ている羽根が上下に動き、まるで巨大な虫が飛んでいるようだ。これは彼の作品「梨の形をした3つの小品」をイメージしたもので、流れる曲は「ジムノペディ」。この曲は演出家で転形劇場を立ち上げた故太田省吾の作品「水の駅」でも終始流されたのをはじめ、よく耳にする印象的な旋律である。


▲作曲をする部屋をイメージした部屋

さらにサティの曲を演奏する白いピアノがある部屋、思い出の品々がある部屋などがそれぞれ個性的に演出されていて、「次は何があるのだろう」と、狭い階段を上がって行くのが楽しみになる。フランスの代表的作曲家、ドビュッシーやラベルにも影響を与えたといわれるサティの原点をうかがえる異色のプチ・ミュージアムでもある。

【Maisons Satie】
■場所 : 67、Blvd. Charles V  Honfleur Tel : 02 31 89 11 11
■オープン時間:5月1日〜9月30日午前10時〜午後7時、10月1日〜4月30日午前11時〜午後6時(火曜日休館)


▲パリからオンフルールまで運航されているセーヌ川1週間クルーズの観光船

そのほか、オンフルールの港近辺をボートで周遊するカリプソツアー( www.joliefrance-calypso.com 所要時間45分)やノルマンディーの特産りんごから作るシードル(サイダー)や蒸留酒カルバドスの工場(シャトー風)の個人的見学コースもある。また、パリからセーヌ川を1週間かけて往来するクルーズ船が運航されている。

(2012年7月26日号)



 



 
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