【自然と生きる】

バンクーバー島 田舎暮らし(その5)
「BCバイクレース」日本人・池田祐樹さんも大奮闘


〈 BC州コモックス ヒル厚子 〉

「カサウミュー国際合唱祭」鑑賞のために7月2日から8日までBC州パウエルリバーのウィリングドン・キャンプ場にテント暮らしをしたことは先に述べた。海沿いの閑静で美しいキャンプ場である。いや、「普通の日は」と付け加えるべきであろう。

7月3日の朝、キャンプ場管理人の所へ行くと、「今日は合唱祭のほかに自転車レースの一群が600人くらいフェリーで到着するから忙しくなる」とパニックになっていた。確かに昼12時前にフェリーが入港すると、町は車と人であふれた。キャンプ場にはサイトを探す人々やモーターホームが次々に到着。駐車場にまで宿泊施設が設けられた。隣の公園の芝生は「テント村」状態。自転車修理、医療班、マッサージのテント、自転車洗車ステーション、面白い形をしたBC自転車レースのゲートなどが次々に設置された。


▲カウベルに応援されながら33カ国、525人がBC州パウエルリバーのウィリングドン公園から一斉にスタート

午後1時ごろ、近くのトレイルに散歩に行こうとすると、「今から525人のライダーがスタートするから危ないぞ!」と警告された。待って見ていると、カウベルに応援されながら、すごい人数の自転車レーサーが狭いトレイルに現れ、あっという間に去っていった。さっきフェリーで到着したばかりなのにもう出発とはすごい。

BCバイクレース
BCバイクレースは毎年6月末から7月初頭に開催される7日間のマウンテンバイク(MTB)レースである。今年は7月1日から7日まで開催され、世界33カ国から525人が参加した。世界的に人気のあるレースで、今年も大会終了2日後には来年の参加申し込みの62%がすでに埋まってしまっている状況。ソロ、2人チーム、2人から6人までのチームなどのカテゴリーがあり、それぞれのカテゴリーでまた年齢別のカテゴリーに分類されている。


▲BCバイクレースのロゴ付きドーム


▲テント村。行く先々で50以上のテントが並べられ、選手はこの中で眠る。他の選手とシェアしているテントが多く、こんな所で翌日のレースに向けてゆっくり休めるものなのかと心配になる


▲選手の荷物の山。毎日持ち物すべてをこの中に詰めて移動する

コースはBC沿岸を一周する形で初日はバンクーバー島のカンバーランド村からスタートし、最終日(7日目)にスキー場で有名なウィスラーにゴールする。どのコースも専門の技術者によって精密に整備され、山あり、谷あり、岩や木の根っこあり、小川あり、高所の橋あり・・・と、世界最大のシングルトラックMTBコースである。BC州の美しいレインフォレストの中にあり、カンバーランド村のコースなどは筆者の日常の散歩道でもある。急降斜や自転車一台分ぎりぎりの幅というような場所も多く、歩くのでさえかなり大変なトレイルである。実のところこんな道が自転車レースコースとは今の今まで知らなかった。熊やクーガーが頻繁に出没する森林地帯なのである。

BCバイクレースのコースは次のようなスケジュールで進行する。
・1日目:バンクーバーからフェリーでバンクバー島ナナイモに渡り、カンバーランド村に到着。
カンバーランド村のMTB(マウンテンバイク)コース54キロを競う。
・2日目:カンバーランド村から北へ約55キロ地点にあるキャンベルリバーへ移動。 
キャンベルリバーのMTBコース50キロを競う。
・3日目:コモックスからフェリーでBC州本土のパウエルリバーに渡る。
パウエルリバーのコース48キロを競う。
・4日目:アールスコーブからシーシェルトのコース62キロを競う。
・5日目:シーシェルトからラングデールの40キロコースを競う。
・6日目:スクワミッシュに移動。スクワミッシュのコース48キロを競う。
・7日目:ウィスラーに移動。このコースは26キロだが、最も難関といわれる。標高654メートルから1026メートルまでの登り、下りを含め、持久力と高度の技術を必要とされるコース。


▲パウエルリバーのゴールにヨレヨレで到着するレーサーたち(3日目)


▲マッサージのテントで翌日のレースに向けて体調を回復する選手たち。ここにはメディカルチームのテントもある


▲自転車修理のテント。翌日のレースまでに修理を間に合わせないといけないので修理担当者は徹夜することもたびたびあるとか


▲これは練習用コースです。本物のライダーたちは、こんなものは、ものともしない

どのコースもただの平坦な道ではなく、歩くのも容易でないような所を自転車で走るのだから、どれだけの体力と技術、精神力が必要とされることか想像を絶する。 BCバイクレースのウェブサイト( www.bcbikerace.com )で詳細とビデオや強烈なコース写真などをご覧いただきたい。

池田祐樹さんとの出会い
話はパウエルリバーにもどるが、たまたまキャンプ場を歩いていたら、「ユウキイケダ フロム ジャパン」というアナウンスを耳にした。あれ?日本人も参加しているのかと会場に足を運ぶ。


▲ゴールした池田祐樹さん。自転車も本人も泥まみれ

ゴールしたばかりで泥だらけの池田祐樹さんを発見した。今年は雨が多く、前日のコースなどは冷たい雨の中、寒さと泥沼との戦いだったと語る。この日は晴れてはいたものの、前日までの雨でコースはぬかるみ状態。ゴールするレーサー誰もが顔から足、自転車まで泥沼ででも泳いだように泥まみれだった。池田さんのこの日の結果は18位。3日間の総合では13位。途中で目印を見失い、何キロか道に迷うというハプニングもあって順位を落としてしまい悔しそうだった。


▲池田さん。テントの前で・・・

池田祐樹さんはトピーク・エルゴンというコロラド州のチーム( http://www.topeak-ergon-racing.com/de/en/home )に所属しているマウンテンバイクのプロ。東京都出身。9年前アメリカ留学中にマウンテンバイクに魅了され訓練をはじめ、またたく間にプロになったという驚くべき運動神経の持ち主。プロ歴3年ですでにさまざまな競技で優秀な成績を収めている。特に今年は日本最大の長距離MTBレース、「2012年SDA in 王滝 春」でコース最高記録を樹立して優勝している。現在は世界中のレースに参加するかたわらでマウンテンバイクのコーチも務めている。ロンドンオリンピックMTB代表の片山梨絵選手のパーソナルコーチでもある。
(池田祐樹さんのウェブサイトは、 http://www.yukimtb.com/#!__page-0_copy3

今回のレースでは途中自転車が壊れたり、コースに合わせた装備が十分でなかったり、道に迷ったりと不運が続いたとはいえ、総合では16位。日本人歴代最高位でのゴールだった。世界中から優秀なライダーが集まる競技でこれだけの業績を収めるのは並大抵のことではない。

池田さんのブログサイト( http://blogs.yahoo.co.jp/yuki5mtb )によると今回のレースでは自分のテクニカルな面でのさらなる磨きの必要性を感じたとのこと。耐久力や筋力では十分に通用しても、木の根っこや岩でデコボコの路面、しかも急斜面を降りるというような技術では外国のライダーにはかなわないと実感したそうだ。確かにこちらの人はこどもの頃から身近にある丸太橋やデコボコ路面、ジャンプコースなどで遊んでいるので、そういう技術を自然と身につけるのかもしれない。

それにしても自転車を力いっぱいこぐばかりでなく、岩を飛んだり、障害物だらけの急傾斜を登り下りし、小川やつり橋・丸太橋を渡り・・・と何時間も走り続ける精神力と体力にはただただ脱帽するばかりである。

池田さんは年中忙しくレースに参戦中。次回のレースは8月11日−12日と8月25日にコロラド州で行われる。今後のさらなる活躍を応援していきたいものである。

(2012年8月2日号)



 



 
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