【インタビュー】

総領事館勤務38年、JCCC合気道指導40年
総領事表彰の小幡宰(おばた・おさむ)さん


在トロント日本国総領事館におよそ38年間勤務した小幡宰(おばた・おさむ)さんが総領事表彰を受け、8月17日に山本栄二総領事から表彰状が授与された。


▲小幡宰(おばた・おさむ)さん

小幡さんは、山口県柳井市出身、64歳。総領事館では、数々の邦人援護対応をはじめ、戸籍・国籍関係などの領事業務を中心に任務を遂行した。また、過去にカナダで開催されたサミットG8、G20といった大型国際会議において総領事館職員として奮闘、会議の成功にも貢献した。さらに、合気道本部道場認定師範七段として、1972年から40年間、ボランティアでトロント日系文化会館(JCCC)で合気道を指導。総領事館での勤務と合気道のボランティア活動を通じて、長年にわたりカナダ人の対日理解促進に尽力した。


▲総領事表彰を受けた小幡宰さんと妻明美さん。右は山本栄二トロント総領事(8月17日、公邸にて)

総領事館
小幡さんは、1973年9月21日から2011年8月31日まで37年11カ月にわたり総領事館職員として勤務した。ひとくちに永年勤続といっても、同じ職場で38年の間、こつこつと地味な仕事をしてきたという人は数少ないにちがいない。
小幡さんは、領事事務を担当、主に窓口業務を行ってきた。戸籍、国籍、パスポートの申請受付・発行などで、窓口で小幡さんと顔を合わせた人も多くいることだろう。このほか、在留邦人の援護という重要な任務もある。日本人がトラブルに巻き込まれたり、事故に遭ったりした場合、相談にのる。担当領事に同行して現場に足を運ぶこともある。
「邦人の方が総領事館に相談に来られるケースで、特に多いのは、お金にかかわる問題です。カナダ人との金銭トラブル、あるいは、お金がないので助けてほしいといった相談です。お金の援助などは総領事館としては出来ない相談ですとお断りしています。『相談に行ったのに助けてもらえなかった』とネットに苦情を書き込む方がいますが、そこのところはどうか理解してほしいですね」
総領事館には、出来ない相談ごとが多く寄せられる傾向があるようだ。
国際結婚をした人が離婚する、いわゆる国際離婚の相談もくる。その場合、とにかく話は聞いて、その後、専門カウンセラーがいるジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)を紹介しているという。
病気や精神障害の問題を抱えた人で、カナダに身寄りや親しい知人がいないというケースもある。 「まず、本人と会ってだまって話を聞きます。それから日本の家族、あるいは身寄りの人に連絡を取ります」
こちらに滞在中に、日本人が事故などで死亡した場合、小幡さんは領事に同行して遺体の確認に出向く任務も担当している。
「遺体確認作業が終わると、日本の家族に連絡します。マスコミ関係者から氏名など身元情報を質問されますが、すぐ公表することは、まず、出来ません。あとで、違っていた、では大変なことになりますから・・・。そこは、いちばん気を遣う点です。ですから言葉づかいも、『ご家族』と呼んで、遺体が確認されてから『ご遺族』と呼ぶようにしています」
小幡さんは在職38年の間、山口孝一郎総領事から山下哲生総領事までなんと16代の総領事に仕えた。いちばんの思い出は、天皇皇后両陛下のカナダご訪問とサミット開催で下準備をしたことだそうだ。「縁の下の力持ちをやらせていただきました」と当時を懐かしそうに振り返る。


▲皇后陛下とお会いできたことが一生の忘れられない思い出に(2009年7月、天皇皇后両陛下をお迎えしたトロント日系文化会館にて)


▲40年間にわたりボランティアとしてトロント日系文化会館で合気道を指導してきた小幡さん


▲小幡さんは合気道・師範七段


合気道
何事にも口数が少なく控えめな性格の小幡さん。その小幡さんには武道家という一面もある。カナダに移住して間もなくトロント日系文化会館で合気道の指導をする機会が訪れた。
「ボランティアとして始めたのですが、合気道と総領事館の仕事と両方とも自分の性に合っていて、本当に幸せでした。私は何の取りえもない普通の人間ですが、どちらも営利を追求しないJCCCのボランティアと政府機関だから長く続けることが出来たのだと思います。『継続は力なり』といいますが、このように継続できたのは、自分自身の誇りだと思うとともに、コミュニティー、職場、家族の支援があったからこそ、と感謝しています」
控えめな性格の小幡さんに合気道は合っているのだろう。合気道は、「和」の武術、「愛」の武術と呼ばれる。相手と争わないスポーツである。だから、大会では優勝とか第何位とかいった表彰は行われない。争わないという点では、居合道と同じだそうだ。師範七段の小幡さんは、今も週3回、JCCC道場に通い、合気道の指導にたずさわっている。生徒はカナダ人がほとんどだという。
「合気道は、いたずらに戦うことなく、あくまでも自他一体の心身の向上を求め、相手と共に上達するスポーツです。一般に、技(わざ)で相手を打ち負かし倒すのが武術ですが、合気道は、相手を倒すのが目的ではない。シテが投げて、ウケが受ける。お互いに相手が傷つかないように、けがをしないようにと思いやりの精神で行われます。合気道には『気の流れ』があって、世の中は円運動で回っていることから、合気道は宇宙との和合であるといえると思います」


▲自宅居間でくつろぐ小幡さん夫妻

小幡さんは、総領事館勤務と合気道指導を通じて、いろいろな人とのつながりが出来たことを喜んでいる。
「とくに日系社会の団体、寿会(ことぶきかい)、如月(きさらぎ)クラブ、市協(日系市民協会)一世部などとは深いつながりがありました。あの頃の一世の方々は活発に動いておられて、刺激を受けたものです」
総領事館を退職した後は、ノースヨークの自宅で明美夫人とくつろいだ引退生活を過ごしている。そして、年に何度か、日本に住んでいる娘・恵(めぐみ)さんの家族を訪問するのが楽しみなのだという。

〈 取材・色本信夫 〉    (2012年9月6日号)

 



 
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