【記者会見】

モントリオール世界映画祭
「あなたへ」主演男優、高倉健さん


〈 取材・小柳美千世 〉    


「芸がない自分は、映画との関わり方や演じ方で、己(おのれ)の魂を揺さぶり、叱咤(しった)し勇気付けてくれるものが必要だった」とあるエッセーで語っている俳優の高倉健さん。映画「あなたへ」の台本の裏に高倉さんは、2011年3月11日、宮城県気仙沼(けせんぬま)市で被災した少年の写真を張った。俳優に何が出来るというのだろうという問いかけに、鞭(むち)を打つかのようなキリリと結ばれた少年の口元。その写真に、高倉さんは胸の奥から情熱がほとばしるのを感じたそうだ。


▲モントリオール世界映画祭に出品した映画「あなたへ」の主演男優、高倉健さん(左)(9月2日、記者会見場にて)(C) Max Rheault

高倉さんにとって6年ぶり、205本目の映画出演のタイトルは「あなたへ」。降旗康男(ふるはた・やすお)監督との映画としては、20作目にあたる。
高倉さんは、15年連れ添った妻の遺骨を、遺言に基づいて故郷の長崎県平戸の海に散骨するため、自家製のキャンピングカーで旅をする主人公、倉島英二を演じている。

日本での公開と同時に「第36回モントリオール世界映画祭」のコンペティション部門で上映され、9月2日、記者会見に臨んだ高倉さんは、「大学を卒業したあと、生きるために俳優を始めました。降旗監督と出会って、お金を稼ぐということ以外に、大学で教わらなかったことをいろいろ教わってきたのだと、今回の映画に出てしみじみと感じました」と感慨深げに語った。
9月3日に閉幕した同映画祭では、人間性の内面を豊かに描いた作品に与えられる「エキュメニカル審査員賞」の特別賞を受けている。


▲記者会見で語る高倉健さん (C) Max Rheault

「自分は映画祭に出掛けて、大勢の前で話をするのは苦手です。ですが、13年前に同じく降旗監督の『鉄道員 ぽっぽや』で主演男優賞を頂いて、どこかでお礼を言わなければとずっと思っていたので、今回、それがかなってうれしく思います。この映画を通して、人が年齢を重ねていくというのはどういうことか? 年を取るにつれて固まっていくのではなく、広がっていく、そんなことを映画を通して感じてくれればうれしいです」。記者たちの質問に真摯(しんし)に答える高倉さん。

映画の中では、大滝秀治(おおたき・ひでじ)さんの演技を目の前で見て、改めてこの映画をやってよかったと実感したという。
「大滝さんが『久しぶりに、きれいな海ば見た』というシーンがあるのですが、台本で読んだときは平凡な台詞(せりふ)だなと感じていました。ですが、大滝さんという名優が演じることによって言葉に魂が込められ、なにげないセリフに作品のテーマともいうべき重さと深さが込められる。降旗監督は『人はいいことをするために、悪いこともするんです』と言いました。こうした人間の切なさや日本映画独特の余白を感じることができる映画だと思います。大滝さんが、脚本の解釈について質問をされました。どうして監督がわざわざこの長崎県平戸の海でロケを敢行したのか? そこには深い意味がありました。見た人が考える──降旗監督の映画はそれでいいんだと思います」

公式上映会場となったモントリオールのメゾンヌーブ劇場に居合わせた高倉さんは、エンドロールが流れる中、鳴り止まない拍手に感涙し、「何十年も役者をしてきましたが、皆さんの拍手を受け、ぞくっとして涙を流してしまいました。これが映画祭の魔力でしょうか」と感謝の意を示した。

好きな言葉として、与謝野鉄幹の「友を選ばば、書を読みて、六分の侠気、四分の熱」を挙げた高倉さん。まさにそれを身体の芯(しん)に据えて生きている人に思えた。

(2012年9月13日号)

 



 
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