【アート人生】

和の素材でベビー&子供用品を製作する
ubu chitta(ウブ・チッタ)ブランド、佐藤伸子さん


日本伝統の文化である着物や手拭いをこよなく愛し、これらを素材としてベビー用品や子供服をすべて手縫いで製作しているアーティスト的職人、佐藤伸子(さとう・のぶこ)さん。日本人であればだれもが懐かしさを覚え、他の国の人たちは和の素晴らしさやオリジナル性に感銘を受けるだろう。2年半前にひょんなことからトロントに住むことになった伸子さんの作品を紹介するとともに作品が生まれるまでのアート人生をうかがってみた。


▲製作中の佐藤伸子さん

■京都からニューヨークへ
伸子さんは東京で生まれ、静岡県下田市で育った。地元の高校を卒業後、かねてからのあこがれであった京都の京都造形大学洋画科に進む。卒業後は関西でイラストレーターとして活躍した。
「大学は油絵が主だったのですが、墨絵と洋画をミックスしたような独特の画風を生みだしてモダンアートの個展も開きました」
それなりに反響もあり、話題にもなったそうだ。

28歳のとき、さらなる飛躍を求めてモダンアートの本場、ニューヨークへ。ここではグラフィックデザインを学ぶため、スクール・オブ・ビジュアル・アートというカレッジに入る。しかし、デザインを学ぶ前に立ちはだかったのは語学の問題だった。
「授業は当然すべて英語ですから、全く理解できなくてデザインを学ぶどころではありませんでした。ここは1年足らずでやめ、そのあと語学の学校で2年間英語を勉強しました」
語学に少し自信がついたところで墨絵作品を持ってギャラリー回りをする。
「日本である程度認められたのでニューヨークで力を試したかったのですが、どこででも門前払いでした」。現実はきびしかったようだ。

それでもめげずにニューヨークで製作活動を続けた伸子さん。6年目にやっと墨絵とアクリルを掛け合わせた作品の個展を開催し、反響を得た。それでも芸術作品の製作だけでは生活していけないので、ポストカードを作り、ソーホーなどでストリート販売をしたり、アパートの壁画を描いたり、「注文をいただいたものは何でもやりました」と。
ある時、思いがけない幸運が舞い込んだ。
「路上でのポストカード販売をしているとき、ニューヨークで有名なヘンディ・メンデルというデパートのバイヤーが来て『カードを全部買い取りたい。他には売らないで』と言ってきたのです」
実際に全部買い上げてくれ、デパートのギャラリーで特別展示会を開催した。反響もよく、紙専門店からもカードの注文がきた。

■911テロと結婚が転機に
ニューヨーク滞在中の1999年、現在のご主人、佐藤公昭(さとう・こうしょう)さんと結婚。公昭さんは当時ニューヨークのNHKに勤務していて映像関係の仕事に携わっていた。やがて2001年9月11日のテロに遭遇する。テロの現場とは遠くないセントラルパーク近くに住んでいた。
「そのときは妊娠していまして、テロの不安やビザの関係でこれ以上ニューヨークには住めないと思い、家族で日本へいったん帰国することにしました」 2002年に帰国し、伸子さん39歳で長女を出産。その後、2004年に長男、2008年に次男と続けて出産。子育てに追われる毎日を過ごした。
結局ニューヨークに10年間住み、日本に帰国して7年たった2年半前に再び北米に足を向けることになった。
「本当はニューヨークに戻りたかったのですが、どうしてもアメリカのビザが下りなくて一番近いトロントに一家5人で来てしまいました」
2010年3月のことである。トロントがどこに位置するかもよく知らなかったが、公昭さんの仕事である映像関係が盛んということもトロントを選んだ条件のひとつだった。今ではすっかりトロントの生活が気に入っている。

■和の美しさに魅せられて
子育て中は細々とベビーシューズなどを着物の生地で作っていたが、子育てに少し手が省けるようになった昨年あたりから本格的に「 ubu chitta ブランド」を立ち上げて製作に本腰を入れることになった。ubu とは純粋ムクな意味の「うぶ」で、chitta はイタリア語で「集まる」という意味。ちなみにイタリア語の発音は「キッタ」だそうだ。
「ムクな赤ちゃんをイメージして付けました。ウブ・チッタという音声も好きです」と。

▲ボンネット
▲ベビーシューズ ▲産着(うぶぎ)


素材に着物など和物を使っているのは、「もともと和物の色や形が好きで、京都にあこがれたこともあり、母が着物が好きで、いらなくなった着物をもらって小物などを作っていました」。
製作しているのは、ベビー用シューズ、服、よだれかけ、布地の動物や昆虫、子供用帽子、服、えり巻き、バッグなど。「すべて手縫いですから手間と時間がかかります」
それだけ手作りのぬくもりが感じられるが、その苦労に見合う価格をつけられないのが辛いところである。


▲カラクサ・エプロン

昨年はトロントで一番大きなクリスマスギフト用クラフトショー「One of a Kind」に出店。大きな反響を得た。現在は自身のウェブサイトからネット販売、アメリカのネットショップ「ETSY」、さらにトロントのギャラリーやクラフト店が集まっているディスティレリーの「Distillery」というクラフト店が製品を置いてくれるという話が進んでいる。また、ヘアサロン「balance」にも少し置かせてもらっている。

▲クモ ▲着物スカーフ
▲ネックレス ▲手拭いハット


■小さくても自分の店を・・・
「将来、小さくてもいいから自分の作品だけを並べたお店が持てたら・・・」と願っている伸子さん。そして「作る作品は使ったあともずっと持っていてほしいですね。着物の生地は長持ちしますし、飾りにもなるよう心をこめて作っています」。
オリジナリティーあふれた独特の色合わせやデザインの ubu chitta ブランドがカナダ社会に溶け込んで、和の世界を再認識してくれる日が遠からずくることを祈りたい。
www.ubuchitta.com

〈 取材・いろもとのりこ 〉 【写真撮影=佐藤公昭さん】

(2012年10月11日号)



 
 


 
 
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