【ひと】

イタリア歌曲からタンゴまで幅広いジャンルをレパートリーとする
歌手、森脇あゆみさん(トロント在住)

イタリアで本格的に声楽を学び、歌曲からイタリアンポップス、タンゴ、日本の叙情歌と幅広いジャンルをこなすプロ歌手、森脇あゆみさん。2年前からトロントを本拠地とし、日本とカナダでライブショーなどに出演している。「これからもっとトロントで活躍の場を広げたい」と話す森脇さんに自身の音楽人生を語ってもらった。


▲トロントの自宅でピアノの弾き語りを練習する森脇あゆみさん


▲四国・松山市のザ・グリーン・カーメルでのディナーショーで歌う森脇さん

■自分の声にコンプレックス
森脇あゆみさんは四国の松山市生まれ。幼少のころからピアノを学ぶ。「ピアノの練習が大嫌いでした」。というわけで、あまり上達はしなかったようだ。しかし、歌を歌うのは大好きだった。ある程度、声に自信があったのだが、小学校のとき、自分の歌を録音したのを聞いてショックを受けた。「え? 私ってこんな声だったの?」とコンプレックスにおちいる。さらに6年生のとき、ソロを歌う人の選考にもれたこともショックだった。
それでも音楽への興味はおとろえなかった。高校に入ってミュージカルにあこがれ、高校2年生のときに本格的に声楽の先生について学ぶことになった。その先生はスペインで活躍する日本人のオペラ歌手で、現在はスペインに在住。学生時代にスペインに先生を訪ねて行ったこともある。「その先生の影響はとても大きいですね。先生はいつも海外に出て学ぶことを勧めていました」
高校卒業後、東京・後楽園にある「東京コンセルヴァトアール尚美」(現在の東京ミュージック・カレッジ)声楽科に入学、声楽、ミュージカルの基礎を学ぶ。

■イタリア・ミラノ音楽院へ
東京コンセルヴァトアール尚美を卒業後、イタリアのミラノ音楽院へ留学。海外へ出たのは高校時代の声楽の先生の影響が大きい。そしてイタリアを選んだのは、「イタリア・オペラをはじめ、イタリア語、文化、人へあこがれがあったからです」。学生時代、イタリア語の授業科目もあって、一生懸命勉強したそうだ。
ミラノは森脇さんにとって住みやすい町で、習いたい声楽の先生もいた。最初の3年間はただひたすら声楽を勉強していた。いわゆるクラッシックのオペラ歌手への道である。しかし、途中で心の葛藤(かっとう)が始まった。

■歌いたいものを歌う
「自分はオペラには声も性格も向いていないのではないか・・・」。オペラは役によって求められる声が決まっている。つまり人が歌を選ぶのではなく、歌が人(声)を選ぶということだ。「オペラにこだわることなく、歌いたい歌を歌いたいように歌ってもいいのではないか」と思うようになり、方向転換をはかることに・・・。現代的な感覚を持ったイタリア人のポップス歌手からレッスンを受け、「歌いたいものを歌う」ことにしたのである。
日本に帰国後は、こうしてオペラのアリアもポップス風にアレンジしたり、イタリアン・ポップスやタンゴなどジャンルにこだわらず、幅広い歌を演奏するようになる。
さらにミラノの演劇集団に所属して俳優としても活動した。
「昔、ミュージカルにあこがれていたこともありましたし、外国語であるイタリア語で演技することはとても勉強になりました。演劇のための体を使ったトレーニング、即興劇や言葉なしの演劇にも出演して、舞台人として、とてもいい経験になりました」


▲松山市民会館「森脇あゆみコンサート」のステージ風景(2009年)


▲森脇さんのCD「Io canto」(イオ・カント=私は歌うの意味。松山の伊予かんと発音が似ている?)。バラエティーに富んだ曲が盛り込まれている

■東京からトロントへ
5年間のミラノ留学を経て東京に戻り、母校で講師としてボーカルを4年間教えた。その間、ホテルやレストランでのディナーショー、ライブハウスでのコンサートなど幅広く活躍。そんなとき、彼女の人生を大きく変えるできごとが・・・。
ミラノ滞在中にたまたまトロントから里帰りしていたイタリア人の現在のご主人に出会う。彼のいとこの紹介だった。会ったのはたった1回だけで、その後、日本へ帰国した森脇さんにメール攻勢。いわゆる彼の森脇さんへの「一目ぼれ」である。彼はエンジニアで音楽とは別世界の人。
2〜3年間メールや電話、スカイプを通じて交際し、彼は何度も日本へ森脇さんに会いに行った。森脇さんも何度かトロントへ来たそうだ。そうして2年前、正式に結婚してトロントに住むことになった。
「最初はトロントのことはあまり知りませんでした。ヨーロッパや日本に比べて文化の濃さは感じませんが、平和で落ち着きがあり、多民族国家のせいか自分が外国人であるとあまり感じさせない。アジア人には住みやすい街です。ミラノの人は親日的ではありますが、やはり私が外国人という枠(わく)は取りはずせなかったですね。ヨーロッパはどこでも同じでしょうが・・・」。

■トロントでも自分の可能性を試したい
東京からトロントに生活の基盤を変えても、日本に帰国するたびに東京でライブや故郷の松山でもディナーショーやコンサートを催している。また、トロントでも南米ウルグアイ出身のタンゴ歌手エルヴィオ・フェルナンデスさんとジョイントコンサートを開いたりしている。
「今後、さらにラテン系の歌を広げていき、それと同時にシニアホームなどでボランティアで歌う活動もしていきたいですね。私の声で癒やされたという感想をよくいただきます。今後はそれを生かして、いわゆる音楽セラピー的な活動もしていきたい・・・」
最近は幼いころあまり好きでなかったピアノを再練習し始め、キューバ人のラテンジャズピアニストにレッスンを受けている。ゆくゆくは「弾き語り」をやりたいそうだ。
森脇さんは今年12月15日(土)に開催されるトロント紅白歌合戦で審査員として参加する。また、来年2013年10月、トロント日系文化会館で開催が予定されている「ジャパンデー」にも特別ゲストとして出演する予定になっている。
最後に、「私の声の可能性を試しつつ、歌いたいものと他の方が聞きたいもののバランスを考えながら活動をしていきたいです」と語ってくれた。

〈取材・いろもとのりこ〉

(2012年11月8日号)



 



 
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