【新刊紹介】

「白人」支配のカナダ史──移民・先住民・優生学
細川道久著、彩流社発行


『カナダの歴史がわかる25話』(明石書店)はじめ、数多くのカナダに関する本を手がけてきた鹿児島大学法文学部教授の細川道久氏がこのほど『「白人」支配のカナダ史』と題する書を著した。本書の帯に「驚くべき、封印されたもうひとつの歴史をひもとく。」とあるように一般的には知られていないカナダの移民・先住民・優生学に関して詳細にわたる史実が書かれている。 カナダのイメージは隣りのアメリカとちがってあまり人種差別のない、多文化主義的な国、というふうに思われている。たしかに近年はそのようだが、果たして昔からそうだったのだろうか。もちろん、世界中どこの国にも歴史があり、時代によっては耳をふさぎたくなるような史実が記録されている。



比較的歴史の浅いカナダでも大いに差別の時代があった。それも「白人支配」のためのさまざまな法律や慣習である。細川教授は入念な調査と膨大な資料を駆使して本書を著したところに頭が下がる思いがする。さらにひとつの民族に限らず、カナダにおけるあらゆる民族に言及しているところがより普遍性をもたらしているといえよう。

ここで主な目次を紹介しよう。
第一部・白人社会の「内なる脅威」──精神障害者の処遇・・・第一章 カナダ社会における優生学、第二章 優生学の展開(I)第一次世界大戦まで、第三章 優生学の展開(II)第一次世界大戦から1930年代初頭まで、第四章 優生学の展開(III)断種法論議の再燃と衰退、第五章 「中間的存在」の処遇と白人性
第二部・白人社会に「外なる脅威」──非白人の処遇・・・第一章 中国人移民と白人、第二章 先住民インディアンと白人
第三部・ 白人の序列化──1920年代前半の移民政策を手がかりに「補論」・・・第一章 「好ましき国々」と「好ましからざる国々」、第二章 小委員会史料の分析
結論

第一部では「人種の純粋性」を守るため、20世紀初めごろに断種法がアルバータやブリティッシュ・コロンビア州で制定されたという事実。さらにこれらは20世紀後半まで存続していたということに驚く。
第二部では19世紀に「白人女性労働法」なるユニークな法律が存在し、非白人と区別して「白人の女性または少女」を保護するためのものだった。「白人女性労働法」を最初に制定したのはサスカチュワン州だったという。「何人も、日本人、中国人、その他東洋人が所有または経営するレストラン、洗濯店、その他の商店や娯楽場に、いかなる資格であっても、白人の女性および少女を雇用してはならないし、・・・・」という内容である。
第三部ではヨーロッパの国々の中でも「好ましき国々」と「好ましからざる国々」とに線引きされていたのが興味深い。イギリス系移民に加えてフランス、ベルギー、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンは「好ましき国々」と明記されていたのである。したがって、中・東欧諸国は「好ましからざる国々」とされていたようだ。
結論として細川教授は「第一部で見たように、『健常』と『異常』の中間的存在である精神薄弱者を隔離ないしは断種によって排除しようとする主張には『白人』は、本来、健常にして正気との認識があり、それを否定する憂慮があった・・・・」と述べている。
また、「多文化主義、平和維持活動等が強調されるあまり、多文化共生や平和希求というカナダに対するイメージは、とりわけわが国では強い。・・・しかしながら、諸外国とくらべて人種主義がなかったかのような認識を持つことは、人種主義法則の歴史家バックハウスにならえば、『無感覚にさせる無知』でしかない。更なる多文化共生を進めるためにも、歴史学は『無感覚にさせる無知』に立ち向かう必要がある。それをわが身の課題として受けとめつつ、本書を締めくくりたい」としている。

【細川道久氏プロフィール】
1959年岐阜県生まれ。東京大学文学部、同大学院人文科学研究科博士課程をへて、現在、鹿児島大学法文学部教授。博士(文学)。主要業績として、『カナダ・ナショナリズムとイギリス帝国』(刀水書房)、『カナダの歴史がわかる25話』(明石書店)、『カナダ史(新版世界各国史23)』(共著、山川出版社)、『多文化主義社会の福祉国家──カナダの実験』(共著、ミネルヴァ書房)ほか多数。たびたびカナダを訪れ、トロント滞在経験も豊富。

■「白人」支配のカナダ史
細川道久著・彩流社発行・定価3500円

(2012年11月15日号)



 



 
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