【世界の街角から】

メキシコ・ユカタン半島(その1)
カンクンの街  


〈 オンタリオ州ロンドン市 ウィルソン夏子 〉

ユカタン半島の海に昇る太陽を見た。その日、えり抜かれた光を放っているかのように、太陽は輝いて雄大にみえた。


▲カリブ海の朝明け。これを見て太陽を神としてあがめた古代人の気持ちがすんなりと理解できたような気がした

カンクン(Cancun)はメキシコ南東部のユカタン半島にあり、メキシコ湾に向かってぐるりと巻くしっぽの先端にある。ここは比較的新しい観光地だ。コンピューターで海岸の美しさが発見されると、ホテルが建てられ始め、ここ20〜30年のうちに、メキシコの有数な観光都市の一つとなった。1970年初頭、夫がここに来た時には、ホテルはほんの数軒しかなかったそうだ。


▲現在、カンクンの海岸には高層ホテルが並び、海岸線はほぼ無限に続いている。白い砂はメリケン粉のように細かで柔らか

私たちが泊まったのは、「グラン・カリベ・リアル」というホテル。建前(たてまえ)は5つ星だったけれど、本音は3つ星半、といったところだ。忙しそうなホテルで、ロビーでは到着した客がいると思えば、帰る客がいる。人々の頻繁な出入りをみていると、まるで混雑した飛行場のようでさえあった。


▲ホテルのプールでゲームをする客

同じロンドン市から来たポーランド出身の夫婦と友達になった。ご主人はレストランのシェフをしており、奥さんのほうはあるホテルで仕事をしているそうだ。夫婦はこんな話をしてくれた。
彼らによれば、第一夜は子どもの遊び場に面している一階の部屋を与えられた。満足できず「どうにかならないか」とスタッフに言うと、一晩につき80ドルの追加料金を払えば海の見える部屋が空いている、と言われた。
しかし一週間の総額を考えれば、高すぎる。「リラックスするために、ここに来たのに、そんな高い金額を払うことになれば、私たちは不眠症になってしまう」と、友は続ける。が、スタッフも「これはホテルの規則だから」と譲らない。
問答のすえ、「マネジャーと交渉したい」と友は言う。それを聞くと、スタッフは「それじゃ、一晩20ドルの追加料金で海が見える部屋を用意しましょう」と折れて、交渉は落ち着いたそうだ。実際に、部屋に移ってみれば、それは5階にあり、海が見えるばかりでなく、反対側の緑色をしたラグーン(海辺にある潟湖)も見えるそうで、彼らはニコニコ顔だった。
メキシコで買い物する場合、道理にかなって売り手と交渉しあうのは知っていたが、部屋のグレードアップまで掛けあうことができるとは初耳だった。

何を思ったのか、夫は「散髪屋に行きたくなった」と言い出した。が、私たちのホテルにはない。それで、隣のこのホテルの散髪屋に予約をとった。隣のホテルは建物の大きさからちょっと格が違うなあ、という印象を受けていたので、私も、このホテル「ロイヤル」にお供した。
玄関を入り、受付嬢の許可がおり、ロビーに入る。「まあ、すごい!」。ロビーの空間の取り方といい、調度品といい、すべて品がある。ここは超一流なのか。日本からの新婚夫婦がいる。ああ、なるほど。玄関ではためいている日の丸の意味がこれで分かった。ホテルに落ちついた雰囲気があるのは、ここが「大人専用」のホテルだったからだ。


▲ホテル「ロイヤル」で結婚式を挙げる花嫁とカメラマン

ホテル街を歩く。大通りを10分も歩くと、ある店に警官が立っている。なんだろうと思うと、「ラピス」宝石店とある。「何か特別なものがあるんじゃない?」と夫を説得し、入ってみる。
まず、警備の警官を通過。建物に入ると、背広姿のハンサム男。「何の用なのか?」と夫に聞いている。「ちょっと興味があって」と言って、第2関門をやっと通過する。第3関門は、鍵がかけられて閉まっているドアだった。ハンサムによってそのドアが開かれると、目の前には円形の大きな室内がぱっと広がり、それに沿って円形のショーケースがぐるりとある。そこに一点一点の輝く宝石が並んでいるのだった。「わぁ。大変な所に来てしまった」。Tシャツとショーツに運動靴の身なりでは来るべき所ではなかった!


▲宝石店。「目がくらむ」とはこういう風景をいうのかも知れない

背広をぴりっと着こなした好青年が案内してくれる。「興味があれば、何でもお見せしますよ」「お値段は考慮しますよ」。ネックレス、ブレスレット、ブローチ類、ありとあらゆる宝石が並べられていた。「2階にはもっと違ったものがありますよ」と言い、「こちらのセクションはヨーロッパの王室の宝石です」「こちらは古代マヤ文化のデザインを基にした置物です。手に取って! ほら、重いでしょ。鉱石は翡翠(ひすい)です」

そのうちに「ぼく、札幌に行ったことがあります」などと彼の話しの方向も変わっていくので、私は聞いてみた。 「ここ、とても警備が厳しくて、なかなかお店に入れなかったんですが・・・」
「ああ、それは、だいたいお客様は予約を取っていらっしゃいますから」
「では、どんな人が来るんでしょうか?」
「ある特定のホテルに滞在する方には、お店に来て頂いています」
買ったことはないが、入ったことはあったので、
「ニューヨークのティファニーでさえも、こんなにたくさんの宝石は一つのお店に置いてないと思いますが・・・」
「ええ。ここは特別なんです。地元の鉱石を使って、地元の人が制作している工場でもあるんです。メキシコには何軒もの支店がありますよ」
「このお店、宝石の博物館のようです。写真を撮らせて頂けるんでしょうか?」
すると快く承諾してくれたうえ、この青年は最後に名刺までくれたのだった。
何千、あるいは何万という数の宝石を一カ所でみたのは、これが初めてだった。この体験を「冒険」と言わずして何と言おうか。

ホテル街を離れ、市バス(乗車賃70セントくらい)でカンクンの下町に行く。商店街の売り手の掛け声が、ここでは波を作っていた。「入って、入って」「見て、見て」「安いよぉ」「セニョーラ!」
グワヤベア(おしゃれシャツ)、良質バスタオル、バニラのエキスなどを買った。


▲後ろにある白い置物に色づけを楽しむ客


▲マリンバを弾く人たち


▲夕暮れと少年

メキシコの
自己主張する
原色は
太陽に向け
放つ情熱

〈 次号に続く 〉

(2013年1月31日号)



 



 
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