【世界の街角から】

メキシコ・ユカタン半島(その3)
イスラ・ムヘーレス
波のリズムは子守唄


〈 オンタリオ州ロンドン市 ウィルソン夏子 〉

カンクンの下町にある港からフェリーに乗る。行き先はイスラ・ムヘーレス(Isla Mujeres おんな島の意味)と名付けられた島である。午前11時のフェリーに乗る予定をしていたが、埠頭に着いてみると、「定刻前に出発してしまった」と言う。これは「メキシコ時間」というものらしい。おかげで1時間の待ちぼうけ。


▲フェリーには多くの観光客と一緒にギタリストも乗る。メキシコのポピュラーソング「ベサメ・ムーチョ」を歌う夫婦


▲45分ほどでフェリーがイスラ・ムへーレスの島に着く

この島が「おんな島」と名付けられたのは、昔、男たちが本土で仕事をするため、女たちをこの島に残して仕事に出かけたからだという話がある。現在もまだ昔の名残をとどめており、「田舎風の静かな島」とガイドブックにあった。

着いてみて驚いた。道路は車や人でごった返している。「ガイドブックと随分違うわ」と言いながら、人と車を避けるため細い道に入る。車の走らない歩道だったので、ゆっくり歩けた。店やレストランが並んでいた。ここでは、マヤ手工芸品も一層工夫が凝らされて、一層、色鮮やかに飾られている。


▲母と娘の店

お昼時間だ。あるレストランで、タコス(Taco)を注文する。できたての薄いパンの上に、炒めた魚のみじん切りと玉ねぎ、その他がのっている。トルティーヤと呼ばれるパンは、とうもろこしの粉からできている。いい味だ。なるほど、タコスはメキシコ人なら誰でも愛する食べ物だと納得した。日本人にとってラーメンのようなものだ。


▲タコス

ランチを済ませ、海岸に向かう。カリブ海の風を受けて大きな波をつくるカンクンの海とは違って、ここには穏やかな海があった。


▲一人10ドル余で簡易トイレと大きな日傘のついた海岸に落ち着く

12色の色を持つといわれる海。少しの間、風が来て、波が打ちはじめた。それを見ているうちに、この波の穏やかなリズムがこの島のリズムなんだと思った。そのうちに、それが私のリズムにもなり、快く目を閉じることになった。


▲カゴを売る人

何十個というカゴを身につけて歩いていく人がいる。彼は軽々しく足を運んでいる。誰かに「買わないか」と声をかけることもなく、鼻歌を歌いながら、さっさと歩いていく。私は急いでカメラを取り出した。この人の後ろ姿には、諦(あきら)めとか、やるせない、などという感じはない。「これも一つの仕事のうちさ。ランランラン」といったような元気さが感じられた。

帰り道、違った道を通ってみる。ここは地元の人がごく普通に暮らしている島だと分かった。市役所もあり、教会もあった。ガイドブックは思ったほど違ったものではなかったのだ。


▲一般の人の家


▲店番はパソコンと一緒

伝統(マヤ手工芸品)の上に、新しい物(パソコン)をのせて、それに集中している若者を見ながら、この島はマヤの伝統と現代的進歩の十字路に立っているようだと思った。

ホテルに戻ってみると、このホテルでマヤの人がたくさん働いていることに気がついた。バーテンダーも、ウエーターも、掃除をする人も、みんなマヤの人らしい。
新聞を手にして、夫は「これ、マヤ語でなんて言うの?」と知り合いになったウエーターに聞いている。「××××」。とてもリピ―トできそうにない。「じゃあ、Yes は?」と私。「Beya(ベヤ)」と彼は答えた。後で辞書を見ると、「ベヤ」には、「こんな風に」という訳がついていた。
マヤ語の方言は28種類もあるそうだから、彼が使ったのも一つの方言だったかもしれない。とにかく、もし次回、ユカタン半島に行く機会があれば、マヤ語の二つや三つは覚えてから行こうと思う。


▲このウエーターはマヤ語を教えようとしてくれたけれど、むずかしくてあきらめた

メキシコを去る前にテキーラを味わってみた。ぴりっと辛く、特殊な香りがする。アガーベ(Agave)という竜舌蘭(りゅうぜつらん)の樹液を原料に使っていて、別名「火の水」といわれる。グラスの周りの塩と、ライムをなめながら味わうドリンクには、舌がひりひりした。
夜、海を背景にした舞台では、メキシカンダンスが繰り広げられた。舞台で踊るダンサーのフレアが舞う曲線は、メキシコという国の捕らえがたい魅惑を描いているように見えた。


▲夕闇の海岸


▲「とうもろこしの神」をデザインした毛布

おみやげの
手織り毛布の
マヤの神
カナダ冷気に
くしゃみをひとつ

(おわり)

(2013年2月14日号)



 



 
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