【新刊ガイド】

もっと深く多面的・刺激的にカナダを知る
「カナダを旅する37章」
飯野正子・竹中豊 編著/明石書店


『カナダを旅する37章』と題する本がこのほど、明石書店から発行された。津田塾大学学長・教授で、マギル大学客員助教授、アカディア大学客員教授などを歴任している飯野正子氏(日本カナダ学会監事)と、カリタス女子短期大学言語文化学科教授で青山学院女子短期大学兼任講師の竹中豊氏(日本カナダ学会理事)が編著したもので、カナダに関して専門分野の執筆者が総計25人というバラエティーに富んだ内容の本である。


▲「カナダを旅する37章」の表紙

本書は2003年に刊行された『カナダを知るための60章』、及び2010年刊行の『現代カナダを知るための57章』に次ぐ書で、『カナダを旅する・・・』といっても旅行ガイドブックではない。先の2冊がカナダを一般的に広く知る入門書的であるのに対し、本書はカナダをあらゆる面で知的により深く追究している。

そのことを編者は「『多面的かつ刺激的にカナダを知りたい』、そんな方を対象に本書は編まれています。読者はここで、歴史から社会まで、英語系・仏語系文学から芸術や先住民文化まで、そしてもちろん東西南北の都市を含めて、カナダを舞台としたユニークな多文化・多民族共生の営みを『体験』することができるでしょう。」とまえがきで記している。つまり、読者をカナダに関する「知識の旅」へ誘ってくれるのである。

本書は、「カナディアン・アイデンティティを求めての旅」から始まり、「カナダの歴史舞台」「大陸国家カナダ」「カナダの多文化社会」「カナダの政治舞台」「カナダ文学の舞台」「日系人の過去と現在」「カナディアン・アーツ」をそれぞれ「旅する」構成になっている。各項目から、いくつか例をあげてご紹介したい。

まずはよく問われる「カナダとは何か?カナダ人とは何か?」のカナディアン・アイデンティティについて。歴史上のさまざまな観点から裏づけられたアイデンティティとは別に筆者がカナダを東西南北、何度も旅して得た結論は意外なところにあった。(執筆:竹中 豊)

「カナダの歴史舞台」を旅する・・・では、セントローレンス川に浮かぶ小さな島「オルレアン島」を取り上げ、歴史から現在を紹介している(3章、執筆:友武栄理子)。またカナダの歴史上欠かせない毛皮貿易で、ヨーロッパ人とインディアンの混血「メイティ」の存在が果たす大きな役割や悲劇も見逃せない。(4章、執筆;細川道久)

「大陸国家カナダ」を旅する・・・では、ヴァンクーヴァーの歴史や日系人とのかかわりあい、不動産事情、アメリカとの違い、変わりゆく姿などを紹介している(8章、執筆;池内光久)。さらにエドモントン、ウィニペグ、トロント、モントリオール、ケベック市、セント・ジョンズなどの歴史や現在に触れている。

「カナダの多文化社会」を旅する・・・。今やカナダの多文化社会はかなり知れわたってきている。ここでいわゆる「多文化主義=マルチカルチュラリズム」とケベック州で使われている「インターカルチュラリズム」の違いに言及しているのが興味深い。
多文化主義はさまざまな文化がばらばらに存在していることであり、一方、ケベックの「インターカルチュラリズム」はフランス語の共有を大前提としつつ、異なる文化間の出会いと交流、対話を重視する。こうしたなかから画期的な文化芸術が生まれる。それを代表するのがモントリオールを基盤に世界中で活躍するパフォーミング・アーツに成長した「シルク・デュ・ソレイユ」であろう、と述べている。(17章、執筆:飯笹佐代子)

「カナダの政治舞台」を旅する・・・。この中で「カナダ総督物語」の項目がある。名前はおなじみだが、今ひとつどういう立場にあり、どういう役割を果たしているのか理解していない人が多いのではないだろうか。ここではカナダにおける総督の歴史から変遷、現在の立場まで詳細に解説されている。(23章、執筆:古地順一郎)

「カナダ文学の舞台」を旅する・・・では、英語系・仏語系のそれぞれカナダ文学を代表する作家や作品を紹介。特にハイチ出身でモントリオールを舞台にした小説で広くその名が知れ渡ったダニー・ラフェリエールについての記述は興味深い。彼の作品のうち2冊がすでに邦訳されて日本で出版されているという。(26章、執筆:立花英裕)
また、日系文学に関しても日系一世、二世、三世、さらに戦後の新移住者の作品まで取り上げ、ジャンルも短歌、詩、小説など多岐にわたって紹介している。(28章、執筆:堤 稔子)

「日系人の過去と現在」を旅する・・・。カナダで日系人が定着するようになった歴史を過去から現在まで、またカナダの西部から東部のトロントやモントリオールにおける日系人の動きをわかりやすく簡潔にまとめている。さらに、「日系人は他のエスニック集団に属する人との結婚率がっもとも高い。・・・日系人が、カナダ社会の重要な一員として、カナダの多文化主義を構成していることがわかる。」という記述は、なるほどと思わざるをえない。(31章、執筆:飯野正子)

最後の「カナディアン・アーツ」を旅する・・・では、独特の彫刻、版画、銀細工、仮面やトーテムポールなどのイヌイット・アートについて述べられている。これらが広く知れ渡るようになったのは、先住民が売るために製作し始めた1948年以降である。短期間のうちに「先住民のアーティスト」から「アーティスト」と名乗るようになった、その推移が興味深い。(34章、執筆:岸上伸啓)
音楽の分野では、今ではポピュラーになっている「サウンドスケープ」(音の風景)という言葉を考案したのは、オンタリオ州サーニア生まれのマリー・シェーファーであること。読者はこの章で、シェーファーが土地固有のサウンドスケープの考え方を産み出すまでの半生を旅することができる。(36章、執筆:鳥越けい子)

こうしてみるとカナダに住んでいても知っているようで、いかに知らないことが多いかがわかる。本書で広いカナダを旅しながら、新たな発見をする楽しみが増えそうだ。

■「カナダを旅する37章」
飯野正子・竹中豊 編著  明石書店  ¥2,000

 (2013年2月14日号)



 
 


 
 
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