【世界の街角から】

トレイルをひたすらハイキング
自然の楽園、ハワイ・カウアイ島(後編)


〈 トロント・中村智子 〉

今回は、ハワイ・カウアイ島の壮大な大自然の話をしよう。カウアイ島の一番の魅力はやはり、海と山に囲まれさまざまなアクティビティーができるところにあると思う。私は山派なので、ひたすらハイキングにいそしんだが、海好きな人にもカウアイ島はうってつけである。

クイラウリッジトレイル Kuilau Ridge Trail
カウアイ島に到着して初めてのハイキングは、島の東側にあるワイルア(Wailua)の町から島中心部に向かって車で15分ほどの所にあるクイラウリッジトレイル。道幅が広く、勾配(こうばい)も緩やかな所が比較的多いので初心者にもおすすめだ。


▲クイラウリッジトレイル。この峡谷では鶏がずっと鳴いていた

以前、「日本では定年退職者の多くが登山を趣味としているが、日本国外ではおじいちゃんおばあちゃんが週末にハイキングをするというのはあまり聞かない」と京都探訪編で書いたが、カウアイ島のハイキングコースでは、たくさんのシニアの人達がそれぞれのペースで歩いていた。カウアイ島に別荘を所有し、レジャーで来るたびに朝のハイキングを日課にしているというアメリカ本土からのおばあさんも見かけた。優雅な暮らしだこと。
このコースの魅力は、映画「ジュラシックパーク」や「アバター」を彷彿(ほうふつ)させるようなジャングルや峡谷が眼下に望めることだ。実際に、カウアイ島はいろいろな映画に登場しているらしい。その峡谷では島の名物、鶏が一日中鳴いている。 鶏というものは、朝一番に鳴くのが仕事だと思っていたのに、カウアイ島のそれは朝昼晩問わず常に鳴いている。島のバーは午後6時で閉店するというのに鶏は元気だなあ。なので、カウアイ島では夜中に鶏の鳴き声で起こされることを覚悟して就寝することをお勧めする。


▲美しい色艶のカウアイ島鶏

この鶏だが、小学校で飼育していたようなちょっとうす汚れた種ではなく、孔雀の親戚かと見まがうくらいにきれいな色艶(つや)の羽をしている。新鮮でおいしいトロピカルフルーツや魚を毎日たんと食べれば、私の肌もきれいになるのだろうか。いや、そういう問題ではないだろうが・・・。
あんなにきれいだからか、鶏の捕獲や威嚇行為は島の法律で禁止されている。ある時、がらがらの駐車場の出入り口で車が数台連なっていた。その先をよくよく見ると・・・鶏がどこ吹く風という表情で道路を横切っているではないか。その辺をぶらりと歩いていることもよくある。恐るべし鶏! カウアイ島は人の生活もゆっくりだが、鶏の足もゆっくりである。島で運転する際には、人だけでなく鶏にも気を付けられたい。

ノウノウマウンテントレイル Nounou Mountain Trail
次に向かったのは、「スリーピングジャイアント」と地元民から呼ばれているノウノウマウンテントレイル。ニックネームの由来は読んで字の如く、巨人が仰向けに寝ているように見えるからだ。このコースは最初から上り坂がきつかった。
頂上からは、カウアイ島東側の町並みやビーチが見渡せる。どうやら、ここ数週間雨が降っていなかったらしく、枝葉が乾燥し切っていた。クイラウリッジトレイルから車でほんの10分もないのに、こんなに気候や地質が違うとは。やはり、ここは気候変動の激しい島なのだということを痛感した。
ところで、ハワイのお土産といえば、マカデミアンナッツチョコが定番だが、地元では、袋売りにして、観光客が立ち寄りそうな所を車で回る売り子も見かけた。当然ながら、スーパーに置いてあるものよりもはるかにおいしい。ハイキングにうってつけのエネルギー源を買い込んで次の目的地へ向かった。

マハウレプヘリテージトレイル Mahaulepu Heritage Trail
カウアイ島の南側に位置する町ポイプ(Poipu)はリゾート林立地帯ではあるが、自然はやはり素晴らしい。海岸沿いを歩くこのコースは、地元民の間でも結構ポピュラーなようで、犬を連れて歩いている人も多く見かけた。
ゴルフコース、ビーチ、断崖絶壁の3つを堪能できるのがこのコースの醍醐味。ちなみに、タイガーウッズもプレーしたことのあるゴルフコースがカウアイ島にあるそうだ。
このハイキングコースの主役は何と言っても「モンクシール様」。モンクシール(Monk Seal)はアザラシの一種で、カウアイ島に生息する絶滅危惧(きぐ)種。海岸に泳ぎ着いて、デーンと寝そべって日光浴をしている姿はいかにもお殿様だ【写真参照】。しかも、モンクシール様はお休み中、なんと周囲にロープが張られプライバシーが守られるのだ! 世の男性達がどんなにかこの「モンクシール様」になりたいであろうか、想像に難くない。


▲モンクシール様、おやすみなさい


▲モンクシール様に近づくな!の看板。モンクシールたちはアメリカ合衆国とハワイ州に守られている

このポイプの町で「ココナツおじさん」に出会った。このおじさん、海岸沿いにあるラワイロード Lawai Road にある自宅の石垣で、冷え冷えのココナツジュースを夜明けから日没まで提供している(日の出は午前7時ごろで、日の入りは午後6時半ごろ)。「ココナツ」の看板が出ているので見落とすことはない。自ら椰子の木に登りココナツを取って氷で冷やし、客の目の前でへたをナイフで取って、椰子の実を丸ごと出してくれる(1個US$5)。
ジュースを飲み干せば、今度は実を割って果肉を食べやすい大きさに切ってもくれる。その間、約10分。おじさんは、ひたすらココナツに関する話をする。若いココナツはこういう形だとか、自分は熟したココナツジュースの味が好きだが人それぞれだとか、この仕事を何十年もやっているので今となっては眠りながらでもナイフでココナツを割ってお客さんに出せるとか、とにかくココナツの話が延々と続く。


▲ココナツおじさん

翌日もココナツを頂きに行ったのだが、前日と全く同じ話をされた。それでもおいしい、ココナツおじさんのココナッツ。暑いカウアイ島には、なくてはならない一品だ。ちなみに、トロピカルフルーツはカウアイ島内でどこでも簡単に手に入ると思っていたのだが、残念ながらそうではない。このココナツおじさんも1週間に1回売りに行くファーマーズマーケットだけがどうやら地元の食料品の宝庫らしい。そのファーマーズマーケットも夕方の数時間しか開いていない場合が多く、私は、結局、一度も行けずじまいだった。
ココナツおじさんは根っからのカウアイ人だそうで、カウアイ愛島心が言葉の端々に見られた。ポリネシア系で、ハワイ語も話せるらしい。1900年ごろアメリカ本土に併合された時からハワイ文化は衰退の一途をたどり、一時期はハワイ語の話者も激減したらしい。
だが、最近また頑張って復活させようとする動きが高まっているそうで、子供達にはハワイ語を教えているという地元民にも出会った。学校でもハワイ語を習う子供が増えているそうだ。私は歴史が大好きなので、こういう話を実際に聞くことができてとても感動した。

もう一つ、ポイプの町が自慢するのが、スノーケリングに最適のビーチがあること。町の西側にあるビーチには、1日15ドルほどでスノーケリング一式をレンタルできる場所もある。その周辺の海には、肉眼で確認できる距離で鯨が現れることもあるそうだ。私は海のアクティビティーも捨てがたいが、日焼けをしたくないので、やはり山に重きを置くことにした。
ちなみに、これだけ海が身近にあると、水着やゴーグルなどもお手軽に買えるものかと思いきや、とんでもない。島の地元民でさえもどこに売っているか知らない始末である。しかも、土産物屋で偶然見つけた水着は値段が高い! トロントのモールでは、真冬でも二軒くらい水着屋が営業しているが、常夏のカウアイ島には水着屋が一軒あるかないか。面白いなあ、カウアイ島。

ワイメアキャニオン Waimea Canyon
パシフィックグランドキャニオン(太平洋のグランドキャニオン)とも呼ばれるワイメアキャニオン(峡谷)は、恐らく島内外で一番有名なハイキングコースであろう。島の西側の南から北に向かって続く、くねくねの上り坂を登山口までドライブする。ハイキングコースはワイメアキャニオン内に何カ所かある。
基本的に、オンタリオ州のアルゴンキン公園と似たような設定で、峡谷は舗装された道路が延々と続いていて、ある程度までは車で高台まで行くことができ、展望台も各所にある。が、それだけではやはり物足りない。


▲ワイメアキャニオン


▲ワイメアキャニオンのヤギ


▲キャニオントレイルからの眺め−いびつな形の岩が多い

クリフトレイルとキャニオントレイル、それにまた別の長距離トレイルの3つを足したこのコースは、映画やガイドブックでしか見たことのないグランドキャニオンを彷彿させる。果てしなく連なる断崖絶壁の山々と、浸食によってできた横縞(しま)の模様は、何千年もかかってできたのかと思うと、日々の小さな悩みなど取るに足らずだ。
ヤギも、その断崖絶壁にしがみつくように居座っている。果たして彼らは、峡谷の下まで降りられるのだろうか。そもそも、どうやってこんな深い峡谷まで迷い込んできたのだろうか。足腰の強そうなヤギだが、謎(なぞ)は深まるばかりだ。

アワアワプヒトレイル Awa’awapuhi Trail
アワアワピヒトレイルのコースのゴール地点からはカウアイ島の北側、ナ・パリ海岸が見渡せる。断崖絶壁のせいで舗装道路をさらに北側に伸ばすことは難しく、そのためにカウアイ島を車で丸一周貫通することはできない。島の北側へ行くには、もと来た道を逆戻りしてはるばる反対側へ行くしかない。しかも、島の西側には米軍の基地らしきものがあるそうで、その辺りは当然ながら立ち入り禁止。ガイドブックにも、島の西側のことはあまり載っていない。


▲アワアワプヒトレイルのゴール地点は断崖絶壁

このコースは上り下りが激しいので、中級者から上級者向けである。高い山が連なっているので仕方がないが、カウアイ島のハイキングコースのほとんどが、もと来た道を帰っていくルートになっている。若干退屈な面もあるが、山のないオンタリオから来た者としては文句は言えまい。
ところで、ハワイのコーヒーといえば、コナコーヒーが有名だが、カウアイ島にも地場産業の「カウアイコーヒー」がある。ワイメアとポイプの中間地点にあるカラヘオ(Kalaheo)という町から国道540号線を南へ下ると「カウアイコーヒー」の看板が見えてくる。その辺り一帯はコーヒー畑で、のどかな風景が続く。このプランテーション兼お店(www.kauaicoffee.com)では何十種類ものコーヒーが試飲できる。ここでしか売っていないコーヒーもある。カウアイコーヒーは全般的に濃い味わいだ。

ハナカピアイビーチとハナカピアイ滝 Hanakapi’ai Beach&Falls Trail
最後のハイキングトレイルとなったのは、ハナカピアイ。カウアイ島北側にあるビーチと滝がメインのコースである。コアなハイカーは、テントを張って一泊二日でキャンプをしながらカウアイ島北側の全コースを制覇するそうだが、小心者の私には無理だったので、コースの最初にあるビーチと、そこから方向を変えて行く滝を目指した。この滝が私のお目当てであった。島の北側は他の地域と雰囲気が全く異なった。ビーチは荒波ばかりで、サーフィンに向いているそうだ。
出発地点からビーチ手前までは上り坂が多く、ビーチから滝へのコースは常に湿気が多い場所で、藻が石にへばりついてかなり滑りやすくなっている。ここは上級者コースと言ってもいいだろう。ビーチへの道は海岸沿いなので、右手は断崖絶壁。高所恐怖症の人には耐えられないだろうが、眺めは見事だ。海が果てしなく広がっている。北側を向いているということは、このまま真っ直ぐ泳げば日本にたどり着けるなあ、などと息を切らしながら考えてみる。


▲ハナカピアイビーチトレイルからの眺め

ビーチでひと休みした後は、最後の力を振りしぼって滝へ。これが結構な難所であった。川を渡るのにも藻の付いた石のために何度も滑り、水浸しになりながら歩いた。途中、赤ちゃんを抱えた夫婦が断念してビーチに帰って行ったのを見た。また別に妊婦さんともすれ違ったのだが、果たして彼女は滝まで行って帰ってきたのだろうか。体力に自信のない人(私もないのだが)にはちょっとしんどいコースだろう。
少しずつ見えてきた細い滝を、今か今かと心待ちにしながら踏破していく感覚がたまらない。半日くらい歩いてついに滝へたどり着いた。滝壺では泳いでいる人達もいた。水はかなり冷たかったのだが。この滝がこれまた素晴らしい。ナイアガラの滝のような瀑布も雄大でいいが、細々と、だが確実に上から落ちてくる白い絹のカーテンのような美しい滝も趣があってよい。しばらく我を忘れて、滝に見とれてしまった。これで疲れも吹っ飛び、カウアイ島旅行のいい締めくくりとなった。


▲ハナカピアイ滝

夜明と共に起き、日が暮れると共に仕事を終えて帰宅する。自然に逆らわない生活のあるカウアイ島。大自然に囲まれ、それを大切にする。これこそが人間本来の生活のあり方だということを改めて教えられた旅であった。〈おわり〉

(2013年2月28日号)



 



 
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