【世界の街角から】

ケニアのマサイマラ(パート2)
サファリ・ゲームドライブ


〈 トロント・石原千秋 〉


2012年暮れから2013年正月にかけてアフリカ・ケニアへのサファリの旅が決まった日、夫に大まかな日程を聞いた。何と、8日間、毎日朝夕2回(計6時間)のサファリだという。そんなに時間を費やすなんて、すぐに飽きるに決まっている――。 現地で実際に体験するまでは、それを疑わなかった。しかし、退屈しのぎに持参した本を手に取ることもなく、あっという間に時間が過ぎて行った。

夜明け前、ドライバーガイド、ヘンリーのSUV車に乗り込みガタゴト道を行く。広大な草原。どこにでも見られるのは、マサイキリン、アフリカ象、アフリカバファローの群れ。初日は歓声を上げて興奮していたものの、サファリの回数を重ねるうちに彼らは空気みたいな存在になってしまっていた。


▲サファリの車。ベストアングルを狙って順番待ち


▲ロングサファリでの朝食。石原功一・千秋夫妻とガイドのヘンリー(中央)

ドライバー同士は、常に無線で交信をしている。あまり見られない動物を発見するとそこに駆けつけられる仕組みだ。多い時には10台ほどの車が集まる。


▲獲物を分け合うライオンのファミリー


▲ライオンの子供。顔が少し黒っぽいのは食事直後のため

例えば食事中のライオン。十数頭のファミリーで獲物を分け合っている。遠巻きにいる子供の口の周りは、既にうっすら赤く染まっている。母親よりも先に食したのだ。親の愛情が感じられた。
そこにはサファリのルールがある。ある程度、動物との距離を保つこと。動物の近くでは、叫んだり、音を立てたりしないこと。5台以上の車が連なっている場合、観察時間は10分までとし後続の車に譲ること、などなど。


▲サーバルキャット。かなりマイペースな様子

突然ドライバーが叫んだ。「ヒョウがいる!」。
しかし、どこを見ても何も見えない。夫が望遠カメラで何やらとらえたものの、かなり遠くてはっきりしない。うわさ通りのアフリカ人。何という視力の良さだ。
気が付くと、我々の車の前を、サーバルキャットがのんびりと轍(わだち)を進む。一見、ヒョウに似ている。実は、ヒョウの子供の毛皮として売買されることもあるらしい。
それほどシャイではないらしい。ここでは、表情や行動で、動物それぞれの性格が手に取るようにわかる。
何とも優雅で女性的だ。しばらくついて行ってこの草原を案内してもらいますか。


▲インパラの群れ。写真はすべて雌(めす)で、雄(おす)は一頭のみ

インパラの群れ。ハーレムのはずが、「あれ?雄(おす)が三頭――」と言っている間に、一頭が威嚇し、他の二頭が追い出されるように離れて行く。何度も振り向きながら。未練たっぷりだ。
ドライバーのヘンリーが笑いながら言う。「あれ、勝ち組! これ、負け組!」。なぜか日本語。なるほど分かり易い。


▲チータ。兄弟で協力して獲物を狙う


▲チータの親子。お母さんに寄り添う子供たち

5度目のケニアだという一人旅の女性がいた。チータに会えたのは過去一回だけ、4度目の時だったという。
獲物を探す兄弟、双子の子連れなど、我々は8日間で5回出くわすことができた。何という幸運。
ほれぼれとするチータの肢体から目が離せない。


▲リカオン。体は大きくないが目は鋭い


▲リカオン2頭のショットもかなり稀(まれ)

やけに緊迫した声が騒がしく無線から聞こえてきた。
伝染病のため絶滅したと思われていたワイルド・ハンティング・ドッグ「リカオン」が現れたという。
ドライバーが「つかまって!」(この重要な言葉も日本語)と叫び、猛スピードで走る。凹凸の激しい石ころ道を時速60キロ。そして、本来車道ではない荒地へと侵入。両手両足で踏ん張るが、今にも振り落とされそうな勢いだ。いや、車ごと横転してしまいそうだ。
このサファリでは、機能性の高い四輪駆動の日本車が数年しかもたないとう。これでは当然だ。
しばらく、見えない相手を追い続ける。

いたっ! しかも二頭だ。
その後、彼らは草原へと繰り出し、インパラの群れを狙うべく狩りを始めた。だが、さすがのリカオン様も、足の速さでは到底かなわない。三度失敗に終わる。
あの愛くるしいインパラが犠牲になる姿を目の当たりにしなくてよかった――と思うことにしよう。
6年間の経験を持つドライバーのヘンリーでさえ、過去一度だけ、しかも一瞬見かけただけだというこのリカオン。この日は大サービスの舞台だったのだ。


▲国境に立つ石原夫妻。右はケニア、左はタンザニア(セレンゲティー国立公園にて)

6時間のロングサファリはかなり充実している。途中、指定された安全な場所での朝食。トイレももちろん、青空の下で。解放感たっぷり(?)だ。
マサイマラ N.R. には、タンザニアとの国境がある。草原にポツンと立つ石柱が目印だ。しかし、写真を撮るだけで、しばし夫婦別々の国へ。当然、パスポートがなければ国境を越えてはいけないのだ。もちろん、動物たちは自由だが・・・。ちなみにマサイ族も自由らしい。


▲ロングサファリのほかにバルーンサファリのオプションもある

今回、サファリで出会った動物は、鳥類を含め40種余り。一体、この地にどれほどの動物が生息しているのだろう。
家族愛、恋愛、そして弱肉強食の世界。さまざまなドラマがここにはある。


次回は、マサイ族、ロッジの様子をお伝えします。〈つづく〉

(2013年3月21日号)



 



 
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