【インタビュー】

「観察映画」を撮り続ける
ドキュメンタリーの想田和弘監督


20年間にわたりニューヨークで活動を続けている映画監督、想田和弘(そうだ・かずひろ)氏が製作したドキュメンタリー映画4本の上映会が、3月25日から28日まで4日間に分けてトロント大学イニスタウンホールで開かれ、大きな反響を呼んだ。国際交流基金トロント日本文化センター主催。


▲想田和弘(そうだ・かずひろ)監督。(3月26日トロント大学イニスタウンホールにて)

想田監督の作品は「観察映画」と呼ばれる。台本、ナレーション、テロップなどを使用せず、目の前にある現実をありのままにとらえるドキュメンタリー映画の製作手法である。

トロントの「観察映画祭」で上映されたドキュメンタリー映画は、初日が劇作家であり劇団「青年団」を主宰する平田オリザ氏の自然でリアルな舞台の創作現場を取材した「演劇1」、2日目は川崎市議会議員の選挙に立候補した想田監督の大学時代の同級生の奮闘記「選挙」(英題=Campaign)、3日目は平和と共存という人類永遠のテーマを念頭に岡山で暮らす人々や猫の何気ない日常にカメラを向けて作った「PEACE」、最終日は「演劇1」で青年団の創作現場から平田オリザ氏の哲学、演劇論を検証した「演劇2」。
3月26日、「選挙」上映前に会場で想田監督にお会いし、お話をうかがった。
〈取材・色本信夫〉

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想田和弘監督は、栃木県足利市出身、42歳。東京大学文学部宗教学科卒。卒業後の1993年、米ニューヨークへ渡り、スクール・オブ・ビジュアル・アーツ映画学科に入学。在学中に製作した映画がいくつかの国際映画祭で受賞あるいはノミネートされる。しかし劇映画のオファーは来ず、アルバイト感覚で始めたテレビの仕事でドキュメンタリー映像の魅力に目覚める。日本とアメリカを往復しながらドキュメンタリー映画を撮り続け、NHKではドキュメンタリー番組を40本以上、演出した。作品の「選挙」「精神」「PEACE」「演劇1」「演劇2」は世界のさまざまな映画祭に正式招待され、受賞も多い。「選挙」は2007年、トロントの Hot Docs カナダ国際ドキュメンタリー映画祭でも上映されている。

目の前の現実をありのままとらえる

「観察映画とは、作り手であるぼくが目の前にある現実をよく観察して映画を作るという手法です。これは当たり前じゃないかと言われますが、当たり前ではないのです」
当たり前ではない、というと?
「テレビでは、撮影前に台本を用意し、台本の通りにドキュメンタリーを撮るのが普通です。ぼくはNHKで40〜50本のドキュメンタリーを作りましたが、NHKのやり方は、先に入念にリサーチをして台本を作り上げてから撮影をするという方法です。しかし実際に撮りに行くと、必ず、台本にはない、予想を裏切ることに出くわす。これを撮るのが面白いのです。でも、そうすると、プロデューサーに叱られる。なぜお前は台本通りに撮らないのか!と。でも、それは本末転倒ですよね。取材先で何が起こるか分からない、それを撮るところにドキュメンタリーの醍醐味があるのだと思いますので」
「と、ここまでは作り手による観察について言いましたが、観察映画にはもうひとつ意味があります。観客に自身の目で映画で起きることを能動的に観察してもらうのです。ナレーションやテロップや音楽を使わないのは、観客による観察を邪魔したくないからです。撮ったままを見てもらうと、いろいろな解釈が成り立つ。それがドキュメンタリーの面白さといえるのではないでしょうか。つまり観察映画というのは、ドキュメンタリーの基本に立ち返るための手法でありスタイルなのです」

ニューヨークで、学校時代はフィクション映画だけを作っていたが、卒業して職探しを始める。ある日、日系スーパーマーケットの掲示板に「スタッフ募集 日英両語、映像経験者」と出ていた。さっそく応募して採用される。TV番組を製作するアメリカの会社で、NHKの番組も作っていた。ただ、ドキュメンタリーは未経験だった。
「それが、小さな会社ですから、入社した日にカメラを渡され、『こういう絵、撮ってこい』と言われまして。で、わけも分からず夢中で作っているうちに、ドキュメンタリーにはまってしまいました。そこで7年ほど仕事をしていたのですが、テレビの手法に疑問を感じるようになり、独立して自分の信じるものを作りたいと考えました。しかし、なかなかふんぎりがつかなかった。そんな時、会社が業績不振で、ぼくも突然、リストラされたのです。それで強制的に独立することになり、映画を作る道に進みました」


▲「いざ、出陣!」。川崎市議会議員に立候補した山内和彦氏(中央)と運動員たち(想田和弘監督のドキュメンタリー映画「選挙」のシーンより)


▲山内和彦候補の街頭演説(ドキュメンタリー映画「選挙」より)


▲選挙事務所で食事を取る山内氏(ドキュメンタリー映画「選挙」より)

大学時代の同級生が市議会議員に立候補

2004年、想田氏はニューヨークに会社「Laboratory X, Inc.」を設立、ダンサー/振付師である奥さんと2人で経営することになった。翌2005年、奥さんの母親が関わっている精神科外来を舞台にしたドキュメンタリー映画「精神」を構想し、その撮影のために日本を訪れた。
しかし、そこで大学時代の同級生・山内和彦氏が川崎市議会議員の補欠選挙に自民党公認で立候補する話を聞き、急きょ予定を変更して、映画「選挙」を「精神」と並行して製作することに。これが観察映画(ドキュメンタリー)の第一弾となった。
「山内和彦、通称『山さん』は五浪して東大に入ったのですが、授業には全く出てこないのにコンパには必ず顔を出すという人でした。卒業してからは切手・コイン商をしていて政治には全く関係がなかった。そういう政治の素人、山さんが選挙に出る。しかも小泉純一郎率いる自民党から。ぼくは猛烈に興味をひかれて、虚心坦懐(きょしんたんかい)で撮影しましたよ」
ドキュメンタリー映画「選挙」の上映時間は2時間。映画に登場する中心人物、山内和彦氏は東京都出身で、補欠選挙が行われた川崎市宮前区は縁もゆかりもない所。いわゆる「落下傘候補」だった。ライバルの民主党、共産党など3人の候補はベテランぞろい。かなりの苦戦が予想される。それだけに、地域になじむため、さゆり夫人も一緒になって涙ぐましいほどの努力を重ねる。小泉純一郎首相(当時)はじめ石原伸晃、橋本聖子といった自民党の大物議員たちが応援に駆けつける。投票の開票結果は、大接戦のすえ山内氏が当選して、THE END。


▲映画の上映が終わったあと観客からの質問に答える想田和弘監督(トロント大学イニスタウンホール)

上映会場のイニスタウンホールはカナダ人の観客が多く席を埋めていたが、時にはシリアス、時にはコミカルな日本の選挙の様子に引き込まれるように見入っていた。
たしかに、台本もなければナレーションもない。テロップは題名とクレジットだけ。想田氏が目指す、ありのままを撮影する観察映画の意図が十分読み取れたと思う。上映終了後、想田監督と観客との間で質疑応答の時間があり、活発な質問が飛び交った。監督は、質問の一つひとつに丁寧に答え、説明をした。
この映画は、世界的に大きな反響を呼び、2007年にはベルリン国際映画祭、Hot Docs カナダ国際ドキュメンタリー映画祭、シドニー映画祭、香港国際映画祭、ワルシャワ国際映画祭、等々、およそ20カ国で上映され、その翌年、翌々年も各国の人気は続いている。カナダではCBC,日本ではNHKといったテレビで放送も行われている。アメリカではピーボディ賞を受賞した。

「将来も続けて地道に観察していきたい

想田監督は、その後、「選挙2」を撮り終えた。山内氏は2007年に川崎市議会議員の任期満了、次の選挙には出馬しなかった。そして東日本大震災直後の2011年4月、こんどは無所属で川崎市議会議員選挙に同市宮前区から出馬した。スローガンは「脱原発」だ。想田監督は、山内氏の生き方に本当に興味を抱いている感じだ。
「『選挙2』は、日本では参議院選挙に合わせて6月に公開しようと考えています」
今回のトロントでの「観察映画祭」は、カナダ人の反応が上々だと想田監督は満ち足りたようだ。
「今の仕事を継続して、地道に、いろいろなものを観察していきたい」と将来に目を向けてドキュメンタリー映画の製作者としての闘志を見せる。

(2013年4月18日号)



 
 


 
 
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