【世界の街角から】

ペルー紀行(その4)
インカ帝国の空中都市、マチュピチュ遺跡


〈 いろもとのりこ・記 〉 

■米人歴史学者が草茂る段々畑をよじ登って発見
16 世紀前半、スペインによってインカ帝国が滅ぼされると、スペイン軍はクスコをはじめ、インカ帝国のいたるところの都市を破壊していった。しかし、マチュピチュはスペイン軍に見つけられることなく、20世紀に入って1911年にアメリカ人歴史学者、ハイラム・ビンガム(Hiram Bingham)によって発見されるまで400年間も存続していたのである。それは想像を絶するような高い場所に建設されていたからであろう。
マチュピチュ山(ケチュア語で「老いた峰」の意味)とワイナピチュ山(同、「若い峰」の意味)を結ぶ尾根に建設された遺跡は周囲をけわしい山々に囲まれ、そこへ到達するには深いジャングルを通らなければならず、まさに空中からしか確認できないようなところから「空中都市」の名前がついた。


▲マチュピチュ遺跡入り口近くの「見張り小屋」から見た全景

このマチュピチュ遺跡は15世紀中ごろ、インカ第9代目のパチャティ皇帝によって建設されたという。標高2,400メートルの高地にどうやって重い石を運び、積み重ねて住居を建設したのだろうか。不思議でならない。あちこちに水路もあり、段々畑にはとうもろこしやじゃがいもを栽培し、700〜800人が住んでいた。パチャティ皇帝は時々ここを訪れており、別荘のような役目をしていたようだ。
ところで、ビンガムはどうやって、このマチュピチュを発見したのだろうか? もともとは歴史的にインカ軍がスペイン軍にクスコを追われてジャングルの奥地に「ビルカバンバ」という基地を造って抵抗していた。ビンガムはその「ビルカバンバ」を探していたときに、偶然、近くの農家の子供から「おもしろいものを見せてあげる」と言われ、草に覆われた段々畑をよじ登ってついて行くとこのマチュピチュ遺跡に遭遇したのである。その時の彼の驚きは想像に絶するものがある。ここは探していた「ビルカバンバ」ではなかったが、スペイン軍に破壊されずにすんだインカ帝国文化を残した最後の都市だった。

■遺跡に見る優れた農業技術・石造建築・暦・・・
マチュピチュ遺跡の入り口には荷物預かり所と公共トイレ(いずれも有料)があり、観光客はそこで用をすます。というのは、遺跡内にはトイレはなく、荷物の持ち込みも制限されているからだ。当日、奇跡的に晴れた空の下は日差しが強く、ちょっと歩いてものどがかわくほど。ペットボトルは必需品である。
まずは案内図の指示に従って遺跡内で一番高い位置にある「見張り小屋」へ。かなりの数の石段がある。見学はまだスタートしたばかりなのにフーフー。許可されたステッキ(つえ)を持っている人もいる。疲労回復に効果があると聞いたコカの葉っぱを噛みながら歩いた。コカはホテルで朝食のときテーブルに置いてある。ペルーでは合法だが、カナダには持ち帰ることはできないのでご注意を。
石段を上がりきった見張り小屋から見る景色はまさに絵ハガキのようだった。



▲右端が「見張り小屋」


▲遺跡内で観光用に放たれているアルパカ

そのあと、「市街地の入り口」「石切り場」「3つの窓の神殿」「主神殿」などを通って、遺跡の目玉のひとつ、「日時計」のある丘へ。ここもかなりの石段数である。日時計は高さ1.8メートルの大きな石を削って造られたもの。石の角柱の稜(りょう=角)を結ぶ対角線を冬至が通過し、角柱のおのおのの角は東西南北を指していることから日時計とされている。インカ族は暦を決めるのに太陽を利用した。


▲遺跡 の「市街地入り口」


▲頂上に日時計がある


▲日時計

■ワイナピチュ頂上からの眺めも絶景
マチュピチュ遺跡の入り口とちょうど反対側に当たるところにワイナピチュがある。遺跡の写真の背景に必ず登場している切り立った岩山である。ここに登るにはまた別の許可証が必要で、入山料も別に払う。人数も制限されていて、1日、午前7時出発が200人、10時出発が200人までと定められている。マチュピチュとの標高差は250メートルだが、ワイナピチュ山はかなりの急勾配で、断崖絶壁のところもある。速い人で往復2時間かかるそうだ。
頂上からの360度の展望は素晴らしいそうだが、年齢を考えて登るのは遠慮した。日本から春休みを利用してきたという大学生たちでさえかなりビビっていた。私たちはもっぱら、双眼鏡で、登山者の様子をヒヤヒヤしながら観察していた。


▲マチュピチュ遺跡の背後にそびえるワイナピチュの登山口。人数と時間制限があるため登山者は入り口で待っている


▲ワイナピチュ。かなり切り立っているので登るのはきびしそう

■さまざまな形のコンドルの神殿
インカ時代の神のひとつ、コンドルをモチーフにした神殿もユニークだ。羽を広げた石積みは、半地下になっているため、一説には牢獄だったのではないかといわれている。コンドルの顔のような石積みはリャマが生けにえにされた儀式の石とされている。


▲コンドルの神殿。コンドルの顔ような石積み

このほか、貴族の居住区、技術者の居住区、庶民の居住区などがコンドルの神殿前に並び、整然とした階級制度がうかがえる。


▲がっちりした石造りの居住地


▲コンドルの神殿付近から遠くに3つの貯蔵庫が見える

■ランチはサンクチュアリ・ロッジで
遺跡めぐりにかかる時間は通常2時間前後とされているが、私たちはゆっくり4時間以上かけて回った。もっとも途中で、日本からきた学生やかなり年配の女性(グループツアーで来たのだが高山病にかかったため、ひとり待機させられていた)、カナダに来たことがあるというペルー人とのおしゃべりの時間も含めてのことである。
遺跡見学を終えて入り口を出ると、すぐ前にたった一軒ホテルがある。それが「マチュピチュ・サンクチュアリ・ロッジ」。宿泊料金は2人部屋が一泊約US$1,000(食事込み)と目の玉が飛び出るようなお値段だ。どんなに豪華なのだろうと思って見たが、普通の2階建てロッジ、というか、むしろ素朴な建物。それでもロケーションが良いためか、この値段でも予約を取るのが難しいといわれるほど人気があるとか。
泊まるのは無理としてもせめてランチくらい、と汽車(ペルーレイル鉄道)のチケットを購入するときに提携しているこのロッジのランチビュッフェのチケットを買っていた。ランチにしてはUS$40といい値段だが、一生に一度のマチュピチュの思い出のひとつに加えることができれば、と思って・・・。
レストランの中央に並べられたビュッフェの料理はペルーの郷土料理が中心で、ペルー特産のじゃがいも、かぼちゃ、とうもろこし、ナスなど豊富な野菜メニューや野菜スープ、マス、チキン、ローストポークなどなど。途中から民族音楽の楽団が入ってムードは盛り上がり、遺跡めぐりの疲れを吹き飛ばしてくれた。
ランチの食事中、外を見ると、急に黒雲が山々を覆い、雨が降り出してきた。山の天気は変わりやすいとはよく言ったもの。それにしても、私たちはラッキーでした。


▲マチュピチュ遺跡入り口のすぐ前にあるサンクチュアリ・ロッジのレストラン


▲ペルーの郷土料理が並ぶサンクチュアリ・ロッジのランチビュッフェ

■インカ道のトレッキング
インカ帝国時代、インカ道(トレイル)は北はエクアドルのキトから南はチリのサンティアゴまで延々と通じていたそうだ。インカの滅亡とともにインカ道も滅びてしまった。それをトレッキングルートとして整備したのが、マチュピチュへのインカ道トレッキングである。これも1日の制限人数があって、シーズン中はずいぶん前から予約しないと入れないそうだ。
ルートはクスコとマチュピチュの中間のオリャンタイタンボとマチュピチュの間の82〜88キロを3泊4日のコースと、104キロのコースがある。必ず10数人のグループで行動し、ガイドや参加人数以上のポーターがつく。本人は最小限の荷物だけを背負い、ポーターがテント、食料などすべてを運んでくれる。
このトレッキングに、10年前、「還暦の記念に」と参加した知人がいる。トロント在住の指圧師、神谷一信さん夫妻だ。旅の様子を当時の「日加タイムス」に書いてもらったことがある。今回、私たちが行くときも何回かアドバイスをもらった。しかし、汽車とバスで遺跡入り口まで行く旅とは大ちがい。ジャングルの中を4,000メートル級の山の崖(がけ)道を越えて行くのである。ひとつ間違えたら1,000メートルくらい落ちてしまいそうなところもあるそうだ。トイレもなく、もちろんシャワーもない。雨でぬれたらそのまま。
「ただテントの設定や食事だけは、温かいものをポーターたちが30キロのプロパンガスを運んで、到着したらすぐに食べられるよう準備してくれているのでありがたかった。彼らは私たちより後に出発して、重い荷物をかかえながらもホイホイと身軽に崖道を走って追い越し、次の設定地に先に着いて食事の準備をするのだからすごいですよ。肺活量は普通の人よりずっと高く、足の裏はまるで動物のようだった」と神谷さん。それでも感動的なマチュピチュの景色を見た時は「来てよかった。挑戦してよかった」と語る。神谷さん夫妻の場合、日程はクスコでの準備期間を入れて4泊5日だった。

■高山病について
「マチュピチュへ行く」と言うと、「わぁ、いいわね。でも高山病に気をつけてね」と必ず言われた。高山病って一体どうなるんだろう? いろいろ調べてみると、低地から急に酸素の薄い高地に行くと体が対応できなくて、吐き気や頭痛、耳鳴り、胸のむくみなどの症状が起きる、とある。すぐに酸素を補給したり、低地に移動するとたいていは治るそうだが、中には死にいたることもあるそう。
なりやすいタイプとなりにくいタイプがあるのだろうか? 一般的には年齢には関係なく、血圧の高い人や心臓疾患、喫煙者は要注意。予防としては高地で過度の運動や飲酒、食べ過ぎをひかえ、睡眠時間をよく取ってゆったりとしたスケジュールを組むことだそうだ。


▲携帯用酸素ボンベから酸素を吸入する観光客

しかし現実には、マチュピチュで目の前で真っ青になって倒れた日本人ツーリストやヨロヨロ歩く人、携帯用酸素ボンベを持ち歩きながら「もし死んだら遺体を飛行機で運ぶ費用をカバーする保険までかけてきた」という人もいた。若い人でも高山病で現地の病院に5日間も入院したという話も耳にした。
やはり、バカにできない。そんなにしてまでも行く価値のある所なのか・・・? 答えは個人の価値観の問題だろう。私個人としては、たしかにマチュピチュはすばらしい感動的な所であり、一生に一度は行って見たい所ではあるが、体力的に自信のない方や高山に合わない体質の方は周囲に迷惑をかけるので、おすすめできない、というのが結論である。(おわり)

(2013年4月25日号)




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