【バンクーバー島】

ピアニストを夢見る11歳
永遠(とわ)スチュワート君


〈 BC州コモックス ヒル厚子 〉

先日、地元の新聞を読んでいると隣町コーテニー(Courtenay)の11歳の少年がバンクーバーアイランドのピアノコンテストで優勝し賞金2,000ドルを獲得したというニュースが出ていた。「Towa Stewart 君は英語、フランス語、日本語を話す。」という部分を読んで、そういえば1年くらい前にあるピアノコンサートでお母さんと一緒に聴きにきていたのを見かけたことがあると思い出した。早速、古いメモ帳の中から連絡先を見つけ出して連絡すると快く取材に応じてくれた。


▲今年のバンクーバー島ピアノコンテストで優勝、賞金2,000ドルを獲得した永遠(とわ)スチュワート君

永遠(とわ)スチュワート君はバンクーバー生まれの11歳。お母さんは岡山県出身の日本人である。両親の離婚後、お母さんのみどりさんと兄の力(ちから)君(14歳)の3人でコーテニーに引っ越してきた。ピアノとの出会いは日本でお母さんの実家を訪れた時、お母さんが弾くピアノの音に魅了されたことだったという。「ピアノを習いたい! ピアノを習いたい!」とその時から一心に願い始めた。しかしそれは二人の息子を女手ひとつで育てるシングルマザーのみどりさんには難しい願いだった。

クリスマスにサンタさんがキーボードをプレゼントしてくれた。その時の喜びは忘れることがないと永遠君は語る。「キラキラ星」を何度も何度も何度も何度も・・・飽きることなく弾き続けたそうだ。そのすばらしい音色に酔いしれた。その話をしてくれる永遠君の顔を見ているだけでも、そのキーボードの到来がどんなにうれしく感動的だったかがうかがえる。


▲2012年に開かれたピアノコンペティション会場にて

4年前、7歳の夏休みに念願かなってピアノを習い始めた。最初の2年間でロイヤルコンサバトリーのグレード6まで達成した。その時点で先生から自分の力量では足りないからもっと高度な先生につくようにと薦められた。コーテニーから50キロほど北の町キャンベルリバーのバンクーバー島では著名なシェリー・ロバーツ先生にお願いしたところ、快諾され、過去2年間はこの先生についてさらに腕を磨いている。現在はグレード10を練習中。

2010年に最初の先生の生徒の中で最優秀賞を受賞。ご褒美にメトロノームをもらって以来、めきめきと頭角を現す。その後、毎年ノースアイランド・フェスティバルで入賞しているばかりか、2012年と今年は同フェスティバルで優勝。ルース・スコット・ショパン・コンペティションでも優勝している。BC州の州大会にもノースアイランド地区代表として参加。ジュニア部門(14歳以下)で去年と今年に3位、2位と入賞しているが、今年は特にカナダ人作曲家の部門では最年少での優勝に輝いた。習い始めてからわずか4年足らずでこの快挙である。

こんなにめきめきと腕をあげているからには、猛烈な練習をしているのかと思ったが、永遠君の応答には驚かされた。
「僕は時計を見ることはないので、どれくらい練習しているのかわかりません。自分で今日はこれで十分という感じがすると、それでやめます」
そこで母親のみどりさんが口をはさむ。
「平均すれば一日40分くらいでしょうか。普通はもっと練習しないといけないと思うんですが・・・」
40分? そんな練習でこんなにうまくなれるのだろうか?という筆者の疑問に答えるべく永遠君は続ける。
「僕は練習するときは、ものすごーく集中して練習します。そういう練習はそんなに長くはできません」・・・ということらしい。

ピアノのほかにも絵を描くことやレゴを組み立てることが大好きだそうだ。もちろんスポーツも大好き。負けるのは嫌いだから勉強も100点を取れるようにがんばっているとのこと。こんなに何でもできる子はちょっと力みすぎているのではないかと想像してしまうが、永遠君は驚くほどリラックスしている。

リラックスといえば、こんな経験を話してくれた。去年も今年も永遠君はビクトリア大学でのピアノのサマースクールに2週間参加する奨学金を獲得している。去年は生まれて初めてホームスティをしながらこのサマースクールに2週間通った。ホームシックになって辛かった体験だが、サマースクールでは実に多くのことを学べて楽しかったそうだ。
スケジュールを見せてもらうと毎日朝9時半から午後4時まで講義、練習、テクニックの手ほどきなどがびっしり詰まっている。夜にも自由参加でコンサートがある。その中でもどれが一番ためになったかを尋ねると、永遠君はテクニックのクラスを指さして、「このクラスは本当にものすごく良かったです。どうしたら力が抜けるか分かったからです。これまでどれだけ僕はいらない力を入れて弾いていたか分かりました。力を抜くと全然ちがう演奏ができます」

筆者はこれはすごい悟りだと思う。人間何事でも力んでいる間は達成できない。力が抜けて初めてある境地に達成できる。ピアノを習い始めて4年足らずの11歳。しかも平均一日40分の練習時間でそういう境地に到達できるというのはすごいことではないだろうか。


▲永遠君の自宅にて。リクエストに応じてショパンの曲を弾いてくれた


▲今までに獲得した賞状やメダルがずらり並ぶ

「一曲弾いてくれる?」という要求にちゅうちょなくショパンの曲を弾いてくれた。ピアノに向かうと人が変わったようにピアノと一体になってピアノを弾く。うまく弾こうとか聴かせてやろうとかという邪心がなく、音を追求し曲想を自分なりに表現しようとするその純粋な芸術家の姿に筆者は胸を打たれた。心に届く演奏ができること。これが永遠君の大きな強みではないだろうか。

将来の夢はもちろんピアニストになること。好きな作曲家はショパン、ベートーベン、モーツァルト。でもバッハなどのバロックも好き。去年の州大会ではオスカー・ピーターソンのジャズも悠々とこなしている。

みどりさんは語る。「なにしろシングルマザーですし、このレベルになるとグランドピアノが要ると言われてもこんな普通のピアノしか与えてやれません。今後の教授料などもどんどん高くなっていくでしょうし、どこまでやらせてやれるのか不安はあります。でもできるかぎりこの子の夢に向けてサポートしてやりたいと思っています。今はピアノという『物』ではなく『腕』でピアノを歌わせなさいと言っています」

「お母さん、まかせておいて!」と言わんばかりにうんうんとうなずく永遠君が隣にいた。 明るく輝く灯火は隠しておけない。永遠君が輝き続ける限り道は必ず開けてくると筆者は強く信じている。夢を追う若者の姿には何事にも変えられない尊いものがみなぎっている。永遠君の将来を期待しながら明るい心で帰路についた。

(2013年6月20日号)



 



 
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