【インタビュー】

ジャズファンの心をつかんだ 
日本のインストゥルメンタル・ポップ・サウンド
「山崎千裕+Route 14 Band」



〈 インタビュー・撮影/デムスキー恵美 〉

世界のトップアーティストがずらりと名を連ねる音楽の祭典、トロント・ジャズフェスティバル。この一大イベントには毎年、サッポロ・シティ・ジャズの人気イベント「パークジャズ・ライブ・コンテスト」で優勝したバンドが日本を代表して招待される。
今年は、2012年度のグランプリ受賞バンド、山崎千裕さん率いる「山崎千裕+Route 14 Band」が来演し、海外での国際ジャズフェスデビューを果たした。メンバーは、トランペットの山崎千裕(ちひろ)さん、ドラムの山下智(さとし)さん、ベースの山本浩二さん、キーボード担当の高見英(ハナ)さん、そして、ギターの Miz さんという顔ぶれ。


▲聴衆といっしょに踊る山崎千裕(ちひろ)さん

6月28日、フルハウスとなったジャズクラブの老舗「The Rex」ではジャズの名門校、ボストンのバークリー音楽院を代表するバンド「クリスチャン・リー・グループ」と競演。翌日の29日には美しいレンガ造りの街並みに囲まれた歴史の町、ディスティレリー・野外ステージ前につめかけたオーディエンスを前に、洗練されたメロディーとリズムに乗せて精力的なライブを展開、ジャズフェス最終日にふさわしい盛り上がりを見せた。 The Rex での演奏のあと、わずかな時間をいただき、山崎さん、そして「Route14 Band」の山下智さんにお話をうかがった。


▲満員の The Rex で演奏する「山崎千裕+Route 14 Band」 (6月28日)

━━世界の音楽シーンを見ても、女性トランペッターというのは少数派ですが、サックスでもなく、トロンボーンでもなく、クラリネットでもなく、トランペットをメインインストゥルメントに選んだ理由は? またその魅力は?

山崎:中学のスクールバンドで始めたのですが、初めはフルートに興味を持っていました。ところが自分は身長も低く、指が最後の低いキーに届かなかったのです。そこにゆくとトランペットは、バルブが3本しかないので、いろいろ試したあとで、じゃあこれにしてみようということになりました。そのころはまだ楽器のことがよく分からない時期でしたが、それ以後、トランペットが持つ音、ハーモニーの役割などが大好きになり、それからずっとトランペットを演奏するようになりました。

━━現在のバンド結成前、山崎さんは「東京ブラススタイル」や「ソウルガンボ」といった、ニューオーリンズサウンド、いわゆるセコンドラインのバンドで長く活躍してこられたようですが、さて、どんなサウンドを求めて新バンド結成に至りましたか。

山崎:セコンドラインバンドと平行して長い間、クラシックを学んできましたので、オーケストラの仕事、スタジオ録音などクラシック関係の仕事も多く、いろいろなところで活動してきました。そこでは楽譜を渡され、それをいかにうまく演奏するかということが最大の課題でした。次第にオリジナルな曲を作り、クリエーティブな仕事をしてみたい、自分の音で表現しそれを残したいという希望が強くなり、3年前に新バンドを結成しました。

山下:僕たち「Route 14 Band」はそれ以前から独立したバンドとして活動していましたが、山崎さんからオリジナル曲を作っていっしょに演奏していきたいというお話があり、新たに「山崎千裕+Route 14 Band」として再スタートしました。ちなみに、「Route 14」というバンド名ですが、僕らプレーヤー全員が神奈川県の県道14号線沿いに住んでいたことからこの名称が付きました。


▲ギターのMizさん(左)とドラムの山下智(さとし)さん


▲ベースの山本浩二さん


▲ピアノ、キーボード担当の高見英(ハナ)さん

━━山崎さんが「Route14 Band」で学んだことは? 「Route14 Band」が山崎さんから学んだことは?

山崎:それまでの活動では、与えられた曲をうまく演奏することがポイントでしたので、自分たちで曲をアレンジしたり、作ったりという経験が一度もありませんでした。今では自分の思ったこと、感じたことをどう表現するかという課題に取り組んでいるわけですが、そこでは「Route 14 Band」からたくさんのヒントやアイデアをいただきながら曲を作っています。それはこれまでの自分には想像もできなかったような世界で、すべてが新鮮なものばかり。大きな影響を受けています。

山下:僕たちのプレーヤーは、もともとポップミュージックからそのルーツを受け継いでいるので、彼女の存在は常にボーカルプレーヤーとして意識しています。彼女が良いメロディーを表現するフロントマンとして、しっかりそこにいてくれるから、自分たちはそれを生かすためだけに集中できるということがまず大きいですね。フロントマンとしてすごく存在感のある人ですから、僕らとしてもとても演奏しやすいです。日々、新しい発見があり、世界が広がっていきます。

━━オリジナル楽曲はどのようなプロセスを経て出来上がってゆくのでしょうか。

山崎:ピアノの高見英さんがコードやメロディーを持ってきてくれて、それにみんなで肉付けをしてゆくというパターンが多いですね。私の鼻歌でメロディーを聴いてもらって、それを元に完成させてゆくということもありますので、全体的にはみんなで作ってゆくというプロセスになります。

━━特に強い影響を受けたアーティストは? そして今も変わらず聴いているバンドやアーティストはいますか。

山下:自分の場合は、ポピュラーミュージックとロック系が中心ですが、ジャパニーズポップが一番多いですね。日本人では Mr. Children、外国部門ではオアシス、U2、あとはファンクも大好きなので、ジェームス・ブラウン、スライ&ファミリーストーン、アース・ウインド&ファイアなども聴きますね。

山崎:たくさんいますが、まずクラシック奏者として尊敬しているのは、トランペットのモーリス・アンドレ、ジャズではブレッカー・ブラザーズの音も大好きです。それから映画音楽の作曲家、ジョン・ウィリアムス。情景が浮かぶような彼の音楽が好きです。気持ちを落ち着かせたいときなども、モーリス・アンドレ、ジョン・ウィリアムスをよく聴きます。沈み込んだ気持ちを引き上げてくれる音でもあるんです。

━━バンド結成以来、海外での演奏経験も多く積まれていますが、これらの経験から学んだこと、感じたことは?

山崎:私たちは3年前の結成当時から海外での活動をめざしていたので、結成半年後くらいにロサンゼルス行きを決めました。その時に実感したことは、音楽が心と心で通じ合っているということ。それから、お客さんの反応がとてもストレートで、そこがまた楽しくて、日本とはぜんぜん違うなと感じました。演奏後も感想を直接言ってくださるので、それが自分たちのエネルギーに変わっていって、次も良いステージにしようという思いが強くなりますね。

山下:今年の3月にはテキサス・オースチンで開催された「SXSW 2013」というフェスティバルに出演したのですが、その機会にトロントを含めた北米8都市ツアーを決行しました。1都市での滞在が最長でも24時間以内という強行スケジュールで、どこにいるのかもわからなくなるようなツアーでしたが、今回のトロント公演では忙しいながらも、お客さんとの対話もでき、街を見る時間も、コーヒーを飲む時間も、ショッピングをする時間も持てたことはとてもよかったです。

━━結成から3年が経過。これからバンドとして、あるいは個人としてチャレンジしてみたいことは?

山下:これまでのところ、海外では北米各地で演奏してきたのですが、できれば、将来、ヨーロッパやアジアでも演奏してみたいという希望を持っています。もちろん、機会があれば、また北米も訪れたいです。

山崎:世界のフェスに出演したいなと思います。また美術や映像、まだ誰もやったことのないようなものとのコラボレーションもしてみたいです。個人的には今回の旅で、英語ができたらもっと楽しいのに!という瞬間がたくさんありましたので、こちらもぜひチャレンジしたいと思います。


▲総立ちのオーディエンスに挨拶するメンバーたち (6月29日、ディスティレリーにて) 

【インタビュー後記】
バンドリーダーの山崎千裕さんは、東京藝術大学附属高校を経て、東京藝術大学楽器科を卒業した正統派アーティスト。一方、「Route 14 Band」は、ポップミュージックシーンで活躍してきたベテランバンド。この畑違いと思われる2つのユニットがいっしょになると、さて、どんなサウンドが飛び出すのだろうかと、初めて聴くライブを興味深く待ちわびた。
演奏開始後、しばらくして周りを見回すと、聴衆の波はリズムに乗って揺れ、大人から子供までが晴れやかな表情で聴き入っている。時には優しく語りかけ、時には勇気を与えてくれる澄み渡るようなトランペットの音色。リズムセクションとキーボード、ギターとの絶妙なバランスがトランペットの感情表現をいっそう魅力的なものにしてゆく。そして言語を超えた次元で、聴き手とバンドが一体化し、心の中でいっしょに歌い、踊る空間が広がってゆく。
これまでアニメやミュージカルの世界でもトランペット奏者として活躍し、ビジュアルなアート表現にも大いに興味があるという山崎さん。近い将来、「山崎千裕+Route14 Band」が日本を代表するアーティストとして活躍する日がやって来ることを予感させてくれた、心に残る出会いであった。
〈 Interview & Photos by Emi Demski 〉

(2013年7月11日号)



 
 


 
 
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