【自転車の旅】(1)

熟年サイクリング初心者の試み

まずは Comox から Lund(ランド)村まで一泊二日


〈 バンクーバー島コモックス ヒル厚子 〉


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バンクーバー島に引っ越してから始めたことのひとつにサイクリングがある。今までに住んだ場所でも自転車に乗らなかったわけではないが、短い夏にちょっとトレイルを回るという程度のものだった。
バンクーバー島は車社会から脱皮しようという運動が盛んな上に、温暖なためかサイクリストが多い。買い物に自転車を利用する人も多く、カナダでは珍しいカゴ付き自転車や後ろに袋を着けた自転車もよく見かける。

昨年本紙でご紹介したBCバイクレースなどの本格的な催しもあり“自転車マニア”も頻繁に見かける。我々の年代層(50代から70代)でも国内外で一日100キロ程度走行の自転車旅行に出かける人々は少なくない。そのせいか、小さい町なのに自転車取扱店が何軒もある。
先日は近所の奥さんが、見たこともないようなスマートなレース用自転車を購入して見せに来た。3歳年上のこの奥さんは自転車選手のようなスポーツウエアまで着用し、トータルファッションでサイクリストになりきっている。まぁそこまで凝らないにしても、健康のためにももっと自転車を利用しようじゃないかと我々夫婦も自転車族の仲間入りを果たしたわけである。

サイクリングと言っても60歳に手の届こうとする我々夫婦が若者のような旅を突然始めるわけにはいかない。我が家から到達可能な場所で、日常とは異なる場所をいろいろ研究した結果、コモックスからフェリーで本土側に渡ったところにある Lund(ランド)という村が面白いのではないかという結論に達した。
我が家からフェリー乗り場までが約10キロ。フェリーで約1時間半かけて海を渡り、向こう岸の Powell River(パウエルリバー)からランド村までが約30キロである。フェリーで休憩しながら、片道約40キロを一日で走り、ランドで一泊して帰ってくるのであれば、初心者の老体(?)にもそれほど酷ではなさそうだ。
パウエルリバーからランドまでの道は田舎道で美しいと聞く。まずは試しにと始めたのが去年の夏のことである。


▲Lund にあるハイウエー101の「マイルゼロ」石碑

実は、ランドはハイウエー101の始点(と呼ぶか終点と呼ぶか・・・マイル0〈ゼロ〉の石碑があるので始点を宣言しているのだろう)である。ここから先は別荘やリゾートへのアクセス道があるだけで公道はない。
ハイウエー101 はランドに始まってカナダ太平洋岸沿いを南下し、アメリカのワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、そしてメキシコ・・・・と抜けて南米チリの南部に終点を持つ、全長1万5,202キロという世界でも有数の長いハイウエーである。夢は大きく持っていつか全長を・・・というのもいいが、まずは現実的に始点までの30キロを制覇することにした。
朝10時のフェリーに乗るために余裕をもって9時に家を出発。フェリー乗り場までの10キロは、やや登り下りはあるものの楽勝。フェリーは車で行くと車代(約50ドル)と運転手+乗客の頭数の乗船料金(片道一人約15ドル)を取られるが、自転車だと一台につき2ドルと乗船料金だけである。なおさら自転車で渡ろうという気になる。


▲バンクーバー島から Powell River にフェリーで到着

横道にそれるが、BCフェリーは「Experience Card」というものを発行している。あまり宣伝していないので、知る人ぞ知るお得情報である。最初に105ドルを払ってこのカードを買うと、フェリーに乗るたびにそこから料金が落とされていく。
お得なのは、主要フェリー(ナナイモ⇔バンクーバー間やビクトリア⇔バンクーバー間)以外の地方ルートでは約15%割引料金でフェリーを利用できることだ(ルートによって割引率は異なる)。しかも自転車料金はタダになる。残金がなくなると最低額105ドルを入れれば何回でも使える。
主要フェリーしか利用しない人には役に立たないが、地方フェリーをよく利用する人にはありがたいカードである。ちなみにコモックス⇔パウエルリバー間だと片道(自転車2台+乗船料金2人分で)9ドル30セントの割引となる。「ちりも積もれば山となる」である。

フェリーの中ではお弁当を食べたり、海を眺めたり、本を読んだりして過ごし、お昼前にはパウエルリバーに到着した。すぐにランドに向けて出発する。10分も走るといきなり心臓破りの坂で、登りきれず、途中から自転車を引き引き歩いて登る。ゆっくり見積もっても30キロなら2時間くらいで制覇できると見込んでいたが、歩いていてはどうにもならない。夕方までに到着したいものだと頭を切り替える。


▲途中で通過したスライアモン族の先住民居住区と墓地


▲海から眺めた Lund 村

しかし、苦あれば楽あり! 最初の坂を登りきると長い長い下りが続く。海沿いに先住民の居住区や墓地、さわやかな森林を通り抜けて風を切る。下りが終わるとまた登り。途中、景色の良い場所を見つけ、美しいバンクーバー島を眺めながら休憩する。夏場は近くの別荘や海に遊びに行く車がよく通るが、5分くらい車に遭遇しないこともたびたび。道は狭いが悪くはないサイクリングルートである。
他のサイクリストに会うと手を上げて挨拶する。サイクリストの仲間意識は強いのだ。フェリーの中でも自然と仲良くなる。登り下りを数回繰り返してランド村に到着したのは午後2時半だった。初心者にしては悪くないタイムだろう。(しかし、後で70代夫婦がコモックスからランドまで日帰り旅行をしたという話を聞いてがっくりきたが・・・)


▲ランドホテル全景


▲ランドホテルの受付嬢

自転車旅行なら宿泊はワイルドにキャンプと言いたいところだが、熟年初心者にテントはワイルドすぎる。ありがたいことにランドには有名な古いホテルが1軒ある。「The Historic Lund Hotel」と呼ばれ、1905年にスウェーデン人チュリン兄弟によって建てられた。(http://lundhotel.com/
チュリン兄弟はLundに住み始めた最初の人々である。この辺りには北欧からの移住者が多く、バンクーバー島北部には全住民がスウェーデン人だったという島さえある。ホテルの外形はほとんどオリジナルのままだが、内部は何度か改装されていて快適な造りになっている。田舎の簡素なホテルとはいえ、汗だくの自転車旅行の後には何ともぜいたくな気分である。部屋の目の前には港がひらけ、セイバリー島や他の小さな島々が海に浮かぶ。この世のものとは思えないほど見事な眺めである。


▲ホテルの中にあるゼネラルストア、郵便局、ビデオショップ・・・お酒から日用品まで何でもある

このホテルは村のダウンタウンのような役目もしている。ゼネラルストアから郵便局、カヤックのレンタルやおみやげ物屋、レストランまですべてがこぢんまりとホテルの中に並んでいて便利である。港沿いに評判のベーカリーやおみやげ物屋も2、3軒ある。
この辺りはアーティストも多く住んでいて、坂を登ると陶芸家のスタジオものぞくことができる。近くのセイバリー島へのウオータータクシー乗り場もあり、10分で島まで到達できる。定員10人くらいの小さなボートである。セイバリー島へは今年足を伸ばしてみた。(この旅については次回にご報告します)


▲ホテルの部屋のバルコニーからの眺め


▲アジアに出荷されるおいしそうなミル貝

ホテルのバルコニーから美しい景色を眺めていると、小さな漁船が入ってきた。何を獲ってきたのか、港まで見に行くと、巨大なミル貝をいっぱい積んでいた。アジアに輸出するのだそうで何百個ものミル貝は漁船の中ですでに箱詰めになっていた。箱詰めのミル貝は漁船からクレーンで引き上げられるとすぐに業者のトラックに積み込まれ、あっという間に去って行った。
こういう仕組みになっているので一般人の手には入らないわけである。漁師にどこでミル貝を獲るのか聞いてみるとすぐそこの海にもぐって獲るとのこと。この海はおいしものでいっぱいのようだが、自分で獲らないかぎり地元民の食卓に並ぶことはない。
ランドはボートでしか到達できない近辺の州立マリンパークへの基点でもある。自家用ボートでこの美しいマリンパークへ来る人々がここで水や食料や給油をするために立ち寄るので、夏の間は目まぐるしいばかりの港となる。何十万ドルもする豪華なヨットや植木が入り口に飾られていてペットの小屋まである住居のようなボートもやってくる。
この近辺にはアメリカ人の高級別荘があるそうで、星条旗をなびかせている船も多い。出入りを見ているだけでもボートショーのようで楽しい。夏のピーク時には一日100艘以上のボートが往来するらしい。

夕方には州立マリンパークの中にある Desolation Sound(デゾレーション海峡)へのディナークルーズにも参加した。去年のクルーズでは途中でボートが故障するというハプニングに遭遇してしまったが、今年はスライアモン族の若者が経営するゾディアック船でこの神秘的なマリンパークを周回した。(そのご報告も次回に!)
ランドへの初めての自転車旅行は熟年層の初心者にも自転車の旅は出来るという自信を与えてくれた。今年もランドへの旅を決行し、セイバリー島まで足を伸ばした。今年は片道10キロ延ばして往復100キロくらいを走ったことになる。途中で出会う自転車仲間たちと情報交換し、近いうちにパウエルリバーからバンクーバーまでの旅もやってみようじゃないかと意気込んでいる。

車を運転していると、危ないなぁ、邪魔になるなぁと感じるサイクリストもいるが、逆にサイクリストとして道を走っていると、理由もなく危険な運転をしたり、嫌がらせをするドライバーに遭遇する。
車であれ自転車であれ、「自分に権利がある」というごう慢な姿勢ではなく、お互いに譲り合う精神を大切にしたいものだと思う。

■Lund のウェブサイト:www.lundbc.ca/

(2013年8月1日号)



 



 
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