【自転車の旅】(2)

BC州・・・熟年サイクリング

文明・観光から隔離された Savary Island(セイバリー島)


〈 バンクーバー島コモックス・ヒル厚子 〉


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今年2度目となったBC州 Lund(ランド)村への自転車旅行では、ランドから海を眺めるとすぐ目の前にある Savary(セイバリー)島へ足を伸ばしてみることにした。セイバリー島は幅約1.5キロ長さ7.5キロのジョージア海峡に浮かぶ細長い小さな島である。
何千年も前からこの地域には先住民スライアモン族が居住していたが、ヨーロッパ人の到来によりさまざまな歴史を経て、今は約1,700区画に分けられたリゾート地になっている。年間を通して常住している人は100人足らず。夏にはリゾートや別荘を訪れる人々で人口が2,000人以上にふくらむ。
水道や電気は通っていない。水は井戸水を使うか本土から持参する。電気は自家用発電機を持っている人が多いが、プロパンの冷蔵庫などを使っている。ゴミは自分で処理しないといけない。


▲ランド村の港からセイバリー島をのぞむ(正面の平たい島)。その向こうにかすんで見えるのはバンクーバー島

定期便などはないので、自家用のボート、水上飛行機、ランドからのウオータータクシーなどで往来する。静かで美しいビーチがあることから、地価は高騰の一途をたどり、夏にはリゾート客でごった返す。ランドからクレーン付きの船で車を運ぶこともできるので島の中には何十台かの車も走っているが、交通手段は徒歩または自転車が主流である。
ウオータータクシーは夏の忙しい時期にはほぼ一時間ごとランドから出ている。定員10名ほどの小さなボートで、自転車や別荘に持ち込む生活必需品も積み込むのでピーク時には予約しないと乗れない。ランドからの所要時間はわずか10分。しかし料金は大人一人往復11ドル、自転車が1台15ドルとBCフェリーに比べるとかなり割高である。
Powell River(パウエルリバー)から去年と同様に自転車で到着した我々は、予約はしていなかったが、午後2時半の便に乗れるかどうか試してみた。「2時半の便は満員」といったんは断られたが、ほかにも待っている乗客が数人いたので急きょ増加便を出してくれることになった。自転車2台、大きなクーラーボックス10個くらい、猫一匹と乗客6名を積んで我々のボートはほどなく出港した。


▲セイバリー島の埠頭。潮の満ち干の差がこんなに大きい


▲ウオータータクシーでセイバリー島に到着


▲急傾斜のランプを埠頭まで登る

間もなく到着したセイバリー島の埠頭はなぜか高く空にそびえている。潮の満ち干にもよるのだろうがボートをつないだ場所から急傾斜のランプを10メートルほど登らなければならない。小銭かせぎの子供たちが「お手伝いいる?」と聞いてくるが、我々は自転車だけだから自転車を引いて自力で登ることにした。
しかし最後の2メートルくらいの地点で力尽き、登りきれずにずり落ちそうになったところを上にいた人が引っ張ってくれたので成功。力があるはずの夫のほうが手こずって何度も後退しながらヨレヨレになって登ってきた。それほどの傾斜と高さである。何故こんなに高くする必要があるのか、いまだに分からない。
別荘にクーラーボックスなどを運ぶ人々は、小銭かせぎの子供たちに手伝ってもらって登り、埠頭で待っている何台かのピックアップトラックに荷物を乗せて去って行った。自分の車なのかと思ったが、これが島のタクシーなのだそうだ。


▲セイバリー島の海は透き通って美しい。パドルボードで遊ぶ子供たち


▲道路はすべてが土(つち)道。森の中は気持ちが良いが車が通ると土ぼこりがひどい

島のビーチの水はさすがに澄んで美しい緑色をしている。いま流行(はや)りのパドルボードに乗る人や海辺で遊ぶ子供たちがいかにも夏の明るい雰囲気をかもし出している。50年ほど前、子供だった私が日本でかいだ“田舎のにおい”がして、何とも懐かしい気持ちになった。
島の道路は一番広い所でも車がすれ違えるくらいの幅しかないホコリだらけの土(つち)道である。島の西側のビーチは人が少なくてさらに美しいと聞いたので自転車に乗って反対側に向かった。森を抜け、木の根っこで転びそうになりながら、のどかな田舎道を楽しんだ。車が来るたびにその土ホコリには悩まされたが・・・。林の向こうには簡素なキャビンから豪邸まで人それぞれの好みで別荘が建てられている。

フェリーの中で会ったコモックスの住民もここに別荘があるそうだが、彼の別荘は電気も水もない簡素な小屋だと言っていた。ここに来る理由は便利な日常から離れてシンプルで静かなひとときを過ごすためなのだから、極力、文明の利器は避けているということだった。持ってくる荷物も車輪のついた手引き式の買い物袋ひとつだけだった。
この日はフェリーが遅れたため、パウエルリバーからランド行きのバス(週に数回しか走っていないらしい)に遅れてしまったので、ヒッチハイクで行くと言っていた。私たちが自転車で出発してから20分もしないうちに、誰かの車の窓から「バイバイ!」と手を振って去って行ったから、ヒッチハイクも容易なようだ。
セイバリー島では5月に蟹(かに)が交配するため砂浜に上がってくる。その時期にここに来ると手づかみで大きな蟹がたくさん獲れるとも聞いた。海辺で魚釣りをすればカレイやタラなどがかかる。砂浜を掘れば貝が獲れる。そういう魚介類を獲り、庭でちょっとした野菜を作り、島のベーカリーでパンを買って食べれば、夫婦二人、十分ぜいたくな生活が楽しめるとこの男性(70代?)は語っていた。


▲ほとんど人がいない見事な西側の海岸線 


▲森の中の小さな教会。収容人数は十数名くらい?


▲コーナーストア。子供たちがひっきりなしに出入りしている


▲島で唯一の(?)レストラン「Riggers」

セイバリー島は我々が走り回った範囲では、みごとな海岸線、一軒のレストランとその隣に小さなコーナーストア、自転車屋さん、あとはリゾートと別荘が並ぶだけという様子だった。去年はバンクーバー島の南東にあるソルトスプリング島を走ってみたが、この島はあまりに混雑しすぎていて、がっかりした。
セイバリー島はソルトスプリング島に比べるとまだまだ田舎のにおいが残っていていい。レストランは人々のたまり場らしく、村の掲示板があったり、昼間からビールを飲んでくつろぐ人々で賑わっていた。子供たちが親の監視なしに自由に遊んでいたのは、ごく当たり前のことながら危険な今の世の中では新鮮な光景として目にとまった。


▲掲示板。催しもの、ニュースから品物の売買まで島中の情報が集まっている


▲評判の良いリゾートのひとつ Savary Island Resort(セイバリー島リゾート) 。オーナーは数少ない一年中を通しての居住者である( savaryislandresort.ca

B&Bとリゾートがいくつかあるが、ほとんどが個人の別荘なので夏場は予約なしで宿泊するのは難しいと聞いた。ジョージア海峡に浮かぶ島々の中でもセイバリー島は特に人気があるというのは、こういう文明や観光から隔離された生活が楽しめるからなのかもしれない。
島をひと通り自転車で回った後、再び強烈な傾斜の埠頭を降りてウオータータクシーに乗り、ランドに戻った。今晩もランドホテルで汗だくの体を洗い流し、海を眺めて夕食を食べ、ぜいたくな一夜を楽しませていただこう。(つづく)

(2013年8月8日号)



 



 
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