【自転車の旅】(3)

BC州・Desolation Sound (デゾレーション海峡)
ボート周遊ツアーで先住民の暮らしの跡を巡る


〈 バンクーバー島コモックス・ヒル厚子 〉



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Desolation Sound (デゾレーション海峡)は総面積8,449ヘクタールにわたるBC州立のマリンパークである。この地域は何千年も昔から先住民が豊かな暮らしを営んでいた。内地の先住民に比べ、気候も温暖で、海の幸から山の幸まで豊かな食物に恵まれていたため、ヨーロッパ人に占拠されるまでは先住民の中で最も富裕な部族だったという。
州立公園に指定される前に売買されていた土地には豪華な別荘が建てられている。別荘所有者でなくても、その人里離れた静けさと神秘的な美しさにひかれて春から秋にかけてボートやカヤックで多くの観光客が訪れる。夏場のピーク時には波風から保護された入り江に200艘以上の船が停泊することもあるという。
キャンプ施設も島々の一部にあるが、水は持参しないと入手できない。熊やクーガーも出没するそうで、超ワイルド派におすすめの場所だろう。自家用ボートやヨットを持っている人々は私たちの住むバンクーバー島コモックスからも手軽にやってきて何日間か停泊してこの美しい自然を楽しむが、自家用ボートのない人々にとっては、Lund(ランド)村から出ているさまざまなツアーが便利である。
バンクーバー島のキャンベルリバーやコモックスからもチャーターボートで到達できる。カヤックやカヌーで冒険する人も多いが、波の荒い所もあるので、かなりの経験者でないと危ないように思う。


▲去年試みたディナークルーズ船

去年、我々はクルーズ船での周遊を試みた。クルーズ船といっても乗客約30名の小さなもので、午後5時に港を出発して午後9時ごろに戻るというものだった。1時間半ほどマリンパークの海域をクルーズした後、一角にある入り江に停泊して夕食をとることになっていたが、出発後30分くらいで船が故障。エンジン音はするものの、先に進まない。海の中で立ち往生という形になってしまった。
船長さんは「自力で港に戻るから皆は夕食でも食べていてくれ」と、ビュッフェ式の料理を客室内に並べた。ものすごいエンジン音がするたびに数メートル進退するボートの中で、他の船の助けを求めなくても帰れるのだろうかと不安に思いながら乗客は夕食を食べた。カタツムリのようなスピードながら、夕日が沈むころ、無事にランドに到着、一件落着というのが去年の体験だった。


▲Desolation Sound(デゾレーション海峡)の地図。右下の辺りが Lund(ランド)村


▲今年のツアーのゾディアック船

今年はクルーズ船ではなく、新しく営業を始めたという先住民の若者が経営する I’Hos Cultural Tours というのを試してみた。このツアーは客船ではなく、ゾディアック船で行く。経営者のエリック(Erik A. Blaney)自身がツアーガイド兼キャプテンであった。
最初にちょっとした安全面での説明があり、ボートに乗る。ゾディアック船に乗るのは初めてでこんな空気を入れただけのようなボートで快適に旅ができるのかと心配だったが、驚くべき乗り心地! 去年の客船と比べものにならないくらい安定している上に、パワフルで速い。エリックは中古でお買い得を入手したらしいが、新品は20万ドル以上するということだ。


▲デゾレーション海峡の景色


▲高級別荘が立ち並ぶ

エリックのツアーの特徴はただ美しい景色を眺めるだけではなく、先住民の歴史や生活様式を要所要所で説明しながらデゾレーション海峡を巡ってくれることである。この地に生まれ育ったというエリックの知識は尽きることがない。おまけに昔教師もしたことがあるということで説明が実に分かりやすい。アットホームな雰囲気でどんな質問にも詳しく答えてくれる。評価の厳しいことで通っている筆者ですらお勧めのツアーである。
ツアーは3時間半のツアーが大人89ドル(子供49ドル)、6時間のツアーが大人149ドル(子供75ドル)。詳しい情報はウェブサイトを参照していただきたい。(www.ihostours.com
夏とはいえ、海風とゾディアックのスピードで寒いこともあるので暖かい衣類対策と紫外線対策が必要。
唯一ゾディアック船が不便なのは、トイレがないことである。3時間半の間、お手洗いに行かなくてよいように心得ておかないといけない。(昨年のクルーズ船にはお手洗いが備わっていた)


▲詳しく楽しく説明してくれるツアーガイド兼船長のエリック

百聞は一見にしかず。実際に行ってみないとあの美しさは体験できないが、いくつかのハイライトを紹介しよう。
この地域の美しさと豊かさは、何千年もの昔から発見されコースタルサリッシュと呼ばれる先住民が居住してきた。最古のもので8,000年前のスライアモン族の居住区が発掘されている。1800年代からヨーロッパ人が居住し始めたが、特に過去数十年の間にランド村北部は高級別荘地として開発され、多くの別荘が建てられている。
スライアモン族はここ十数年の間、自分たちの土地を取り戻す努力を重ねている。すでに個人に売買された土地はどうすることもできないが、クラウンランドとして政府が所有する土地については政府との間に返還手続きが進められている。


▲サケの絵が描かれたピクトグラフ


▲何千年も昔に先住民が造ったカヌー寄せの岸辺

エリックが最初に案内してくれたのは、何千年も昔に祖先が描いたピクトグラフ(岩に描いた絵)である。波が届かない高所に魚や顔のようなものが描かれていた。「その昔もサケが豊富だったことがうかがえる・・・」という説明があった。
昔からカヌーで岸に上がっていたことを示す小石で作られたカヌー寄せの岸辺も所々に見られる。こういう場所は説明してもらわないと、ただの小石の岸辺として通り過ぎてしまう。ある旅行者がBC州立公園オフィスに「カヌーが寄せやすいように岸を整備してくださってありがとう」という感謝状を送ったそうだが、驚くなかれ、実はこの岸辺の整備は何千年も昔に先住民が造ったものである。


▲エリックの曾叔母(ひいおばさん)が住んでいた小屋(左)と貝養殖場(右のくぼんだ辺り)

エリックは壊れた小屋のある小さな島の岸辺にも案内してくれた。この小屋はエリックの曾叔母さん?(Great-grand Aunt)が住んでいた場所だという。この小さな小屋で9人の子供を育てた。その昔、スライアモン族はこの地域に3万5千人から6万人住んでいたといわれる。
これだけの人数を養うために自然の海の幸、山の幸のほかにも貝養殖の技術も持っていた。エリックの曾叔母さんの小屋のすぐ横にも石で囲った貝の養殖場跡が見つかっている。潮の満ち干で水が入れ替わるシステムになっており、先人の知恵に感心させられた。


▲部族を見守る酋長の顔が見えますか?(左上)

ほかに興味深い場所は、インディアン酋長の横顔に見える岩である。その岩はスライアモン族の間に口づてに今も伝えられており、この酋長が今もすべての部族の海の安全と幸福を見守ってくれているのだという。
エリックの話によると、これも口づてだが数百年前に日本人がここに貿易に訪れた形跡もあるという。その証拠はスライアモン族だけが鉄や銅を使った武器や器を使っていたことらしい。
口づてによると海の向こうの目の細い部族に海産物と金属を物々交換したとあるらしい。数の子昆布がおいしいとか、魚介類の調理法とか・・・先住民と我々の食生活には似たものがたくさんあった。食べ物の話になるとエリックと意気投合してしまった。


▲岩の上で日なたぼっこをするアザラシ


▲カモメ島。生まれたばかりのカモメが百羽くらいいた。

普通のツアーでも案内してくれるデゾレーション海峡の美しい景色や、浜辺で寝転ぶアザラシの大群や生まれたばかりのカモメが群生する島も見たが、自分たちの歴史と文化を誇りとし伝承していこうとしている先住民の若い世代、エリックのツアーは今までとは一味ちがう興味深いツアーであった。今後ますますの発展を楽しみにしたい。(おわり)

■Desolation Sound Marine Provincial Park(デゾレーション海峡州立公園):
http://www.env.gov.bc.ca/bcparks/explore/parkpgs/desolation/


【編集部より】「自転車の旅」(1)(2)はアーカイブの「旅」の欄にあります。

(2013年8月15日号)



 



 
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