【世界の街角から】

スイス・アルプスハイキング(後編)
高山植物/ブドウ畑/マッターホルン見ながら



〈 エドモントン 大木早苗 〉

ハイキング4.
(アイガーを東から見ながら歩くグロッセシャイデックから、フィルスト、バッハアルプセを通って、グリンデルワルトへ)


7月5日朝、ホテルの窓から見えるアイガーは真っ青な空をバックにそびえています。絶好のハイキング日和。今日はグリンデルワルトから町営のバスで40分ほど東へ登ったグロッセシャイデック(1,961メートル)の峠から歩き始めます。
フィルストまでは緩やかな登りの1時間半。このコースの間中、ヴェッターホルン山(3,700メートル)とアイガー山が南側にそびえています。東側からアイガーを見るので、切り立った北壁の厳しさがよく分かります。雪が残っている所があって気を付ける以外はのんびりした高原の道が続きます。反対側から歩いてくる高校生のグループにも会いました。


▲春のリンドウ


▲珍しい花

両側の草原や岩には可憐(かれん)な紫の「春のリンドウ」、ピンクの岩唐草、白いアネモネのような花、きんぽうげや桜草に似た花も咲いています。高山の花は雪の下で葉を成長させて、雪が解けるとすぐに花を咲かせるそうです。どの花も太陽を反射して蛍光のように鮮やかな色で輝いています。
フィルストはやはりスキー用のゴンドラの終点。終点駅にあるレストランのベランダで早めの昼食、アイガーや周りの山々を見ながらゆっくり食べる昼食は本当にぜいたく。ここまでゴンドラで登ってきている人もたくさんいます。


▲バッハアルプセ。この広い谷でアルプスホルンの響きを聞いた。ハンググライダーがいくつも飛んでいたけど、写っていません

次はフィルストから湖のあるバッハアルプセまでの1時間、緩やかに登ってから下ります。湖に着くと湖面を渡ってくる風が寒いくらい。アイガーは遠く正面に見えています。道標によると、ここからグリンデルワルトまで3時間。ほとんどの人はフィルストに戻ってゴンドラで下りますが、私達は素晴らしい景色に惹(ひ)かれて、アイガーに向かって歩いて下ることにしました。
しばらく広い谷を歩いていくと、ソフトな音楽が高原全体にこだましてきました。不思議に思って見回すと、遠くの下の方、ちょっと丘になったところにスイスの楽器アルプスホルンが3台見え、人らしい姿があります。えっ、こんなところで演奏しているの?と感激しながら下り、そこへ着いたらもう演奏は終わって、楽器もケースに収まっていました。近くここで演奏会があり、そのテストに吹いていたのではないかと想像しました。この雄大な景色を前にしての演奏会なんて本当に素晴らしそう。

私達のほかに二組のカップルが、前になったり後ろになったりして歩いています。写真を撮ったり花を見たりしている人を追い越したと思うと、今度は私達が写真を撮りたくなって追い越されてと、楽しいハイキングです。前方のアイガーの前の大きな空をハンググライダーがいくつも飛んでいます。

そろそろグリンデルワルトに近いかと思える辺りから、急な下り坂。下りても下りても牧草地が続きます。小川で一息入れたり、花と一緒に写真を撮ったり。やっと家が見えてきてから、また30分は急坂を下ったでしょうか? スイスの人は道をジグザグにしないで、どんなに急でもまっすぐに登り下りするのが好きらしいです。今日は6時間半のハイキングでした。

ハイキング5.
(世界遺産のブドウ畑ラヴォー地区)


7月6日、グリンデルワルトからベルンへ移る日はちょっと遠回りをして、レマン湖畔の世界遺産に登録されているブドウ畑のハイキングです。電車はアルプスの岩山を北から南へ抜けるトンネルを行きます。レマン湖は太陽に輝いて夏の海のよう。
ヴヴェイという世界中の富豪の別荘がある町でワイン電車に乗り換えて、丘の上のシューブルで下車。ピンク色の駅舎から階段を登ったところのパン屋が経営しているレストランでレマン湖を眺めながらコーニッシュ・ヘンのローストと地元のワインで優雅に昼食。デザートはパン屋特製のスイス洋菓子。スイスの洋菓子はオーストリア系のお菓子で、日本人の口にぴったりです。


▲ブドウ畑の駅。レマン湖畔のヴヴェイ駅からこの電車で丘の上まで来た。周囲一帯はブドウ畑が広がる


▲ブドウ畑。下に見えるのはレマン湖、ジュネーブまで続いてる


▲ワイナリーの壁飾り

ブドウ畑はここから西へ15キロほど続いています。私達は1時間半ぐらいのところにあるリヴァというワイナリーの集まった村までブドウ畑の中を歩くことにしました。丘からレマン湖までの斜面が見渡す限りブドウ畑でその中をハイキングの道が続いています。
段々畑ではなくて、斜面にぶどうがじかに植えてあります。カナダではスイスのぶどう酒は見た事がないと思ったらスイスでは作ったワインはほとんど国内で消費されているそうです。この日はとっても暑くて、村に入って木陰があるとホッとします。暑いから良質のぶどうが育つのでしょう。


▲レマン湖畔のリヴァ・ビーチ


▲ルツェルンの昼食。上から、海老と野菜、ローストと野菜、チキンと野菜、面白い盛りつけの料理です

もう1,000年以上もぶどうが栽培されています。リヴァ村はどの家もワイン作りと関係があるらしく、家の壁にワインのビンが飾ってあるのが素敵です。リヴァ駅はレマン湖岸にあって、駅の下のちょっとしたビーチは家族連れや若い人達でいっぱいでした。

ハイキング6.
(モンテ・ローザ山の中腹3,089メートルのコグナーグラートからマッターホルンを見ながら、標高1,600メートルのツェルマットまで)


7月9日は予定になかったマッターホルンへ遠出することにしました。ベルンから電車でツェルマットまで行き、そこから登山電車でコグナーグラート(標高3,089メートル)へ行きます。ここはモンテ・ローザ山の中腹で、マッターホルンが向かい側に見え、ハイキングはマッターホルンを正面に見ながらツェルマットまで1,500メートルの高低差がある下り11キロ、4時間半の予定です。
モンテ・ローザ(4,634メートル)と隣のリスカム山(4,527メートル)は今まで見た山の中で一番高く、マッターホルンは有名ですがちょっと低くて標高は4,478メートルです。コグナーグラートにも展望台がありますが、その横の天文台のある頂上に出ると、ぐるりと周りの山々と氷河が見え、大きく開けた谷の向こうにマッターホルンが雲の合間に見えています。
歩き始めるとよく整備してある道が続き、時々まだ残っている雪道を歩く以外は楽なくだりです。周りの山々や氷河がいつまでも後についてきます。


▲マッターホルンと筆者。ハイキングの途中、時々頂上まで見えました


▲コグナーグラート。マッターホルンを見晴らす展望台から見るモンテ・ローザ山と氷河

マッターホルンは雲の動きによって見えたり、隠れたり。この坂を登って来るスイス人らしい人たちにも会いました。1,500メートルの登りはかなりきついでしょう。1時間をすぎると、道は狭くなって岩の出ている崖(がけ)を巻いて険しくなりました。それでも岩陰に咲いている花を見たり、崖の下をのぞいたり楽しく下ります。
途中で花の写真を接写で撮っている日本の女性の方を見ました。この険しい狭い道を下りて行くマウンテンバイクに追い越されたこともありました。3時間をすぎると道は林に入り、しばらくの間、マッターホルンは見えなくなりました。このあたりのくだりは急で、さすがにまっすぐが好きなスイス人もジグザグに道を作っています。
3時間半ぐらいの所で、道は開けた谷に出て、またマッターホルンが見えてきました。ツェルマットの街も近いのか、たまに家があり小川が流れています。さらに急な坂を下っていくと、スイス風な大家族用の家が何軒もあり、その間に200年はたっていそうな民家と新しそうな民家とが混ざっているツェルマットの街に入りました。
後で知りましたが、ツェルマットの街にはガソリンの自動車が入ることは禁止されていて、街の中で仕事をしている人の車は全部電気自動車です。車で来る旅行者はツェルマットの手前の駅で駐車し、電車で町に入ります。街はとても静かで、空気が山のようないい匂いです。

【スイスの印象】

以上述べたハイキングの合間に、ベルン、ジュネーブ、チューリヒ、ヌーシャテルの町を訪ね、旧市街や美術館を見ました。ロートホルンとリギでもハイキングをする予定でしたが、曇りだったので歩かないで戻りました。プリエンツではスイス各地から集めた伝統的な民家を集めた広大な野外博物館を歩きまわり、船でインターラーケンまで戻ったのが面白かったです。そんないろいろなところで垣間見たスイスの印象をお伝えします。

短く言うと、「質実剛健、健康第一、新技術と機能性尊重、伝統と自然尊重、豊か」でしょうか。

どこでも古い物を大事にしながら、新しい設備やデザインは超モダンで、機能的です。街はどこも静かで、広告などが一切なくて、案内の看板も最小限、電車やバスにも広告がなくてとてもすっきりしています。電車はどれも最新型の車両で椅子も座り心地がよく快適です。電車、バス、船に乗りましたが、座れなかったことはありませんでした。
どの駅でも電車はスーッとホームに入ってきて、スーッとドアが開いて、乗るといつの間にかスーッと走り出して、その間、何のアナウンスもないし、発車のベルもなりません。田舎を走っているバスも新しい車両ばかり。プリエンツで乗ったバスは「Wifiが付いています」と書いてありました。
電車もバスも自転車やストローラーが簡単に乗せられます。電車のホームも幅が広く自転車の乗り入れが出来、ホームへの上り下りには階段とスロープになっているところがあります。


▲ベルン市のバラ園


▲ベルン市長のオフィス。市長が執務する建物の裏側です。下のほうに菜園が見える

観光に携わっている人は大抵英語が出来るので、ドイツ語、フランス語が出来なくても不便に感じたことはありません。 旧市街へは車の乗り入れが出来ないところがあったし、電気自動車しか使えない町もありました。

一番感心したのは、スイス人は皆さん、ほっそりしていて健康的で、太り気味の人は一人も見かけませんでした。食べ物はカナダに比べると種類が少なく割高ですが、地元で取れた野菜や果物など季節のものが多く、輸入物らしい食品は海老とムール貝以外はほとんど見ませんでした。輸入品と比べて割高だが、食料品はできるだけ自給自足でいこう、という精神が行き渡っているようです。そしてどの家でも庭の一部が菜園になっていました。

ちょっとした町には美術館や博物館があります。特にベルン、ジュネーブ、チューリヒにはいろいろな分野のものがあり、こういうところに投資できるのは、やっぱり国が豊かな証拠ですね。

ジュネーブへ行ってスイスの富の源の一つは国際関係の仕事をしていることだと納得しました。国際レベルの団体が200以上入っていて、どれも大きな立派な建物を構えています。そのほかに銀行などの金融機関のビル、高級ホテル、別荘がたくさんあり、世界の富が集まってくるような機構になっているようです。

スイスは今の私にも夢の国・理想に近い国に見えました。ただし、主人は「一般的なレストランのメニューが質実剛健で変化に乏しく、観光立国スイスがどうしてこのような状態を放置しているのか理解に苦しむ」と言います。私はそこがスイスの良いところだと思うのですが・・・。

(2013年9月12日号)



 



 
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