【インタビュー】

モントリオール世界映画祭で最優秀芸術貢献賞受賞
「利休にたずねよ」田中光敏監督、原作者の山本兼一氏


〈 インタビュア Hiromi Yamazaki 〉


第37回モントリオール世界映画祭で、田中光敏監督の「利休にたずねよ」が9月2日、最優秀芸術貢献賞を受賞した。

この作品は直木賞を受賞した山本兼一氏の歴史小説が原作で、利休の美への思いと悲恋が描かれている。歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが主演・利休役、その妻・宗恩を中谷美紀さんが演じている。田中監督と山本氏がタッグを組むのは「火天の城」以来2度目。「二人一緒にインタビューなんて日本ではないくらい貴重ですよ」と優しい笑顔の田中監督と、それにうなずく山本氏が撮影での秘話について語ってくれた。


▲映画「利休にたずねよ」の一場面。利休(市川海老蔵)と妻・宗恩(中谷美紀) (c)2013「利休にたずねよ」製作委員会

「利休にたずねよ」という歴史小説を映画化しようと思ったきっかけは何ですか?

田中監督:それは、山本兼一さんとの出会いですね。前回も山本さんの原作 「火天の城」を映画化させていただき、その映画をちょうど編集している時に、山本さんが「利休にたずねよ」で直木賞を受賞されたんです。すでに山本さんのところにはいろんな映画会社からオファーが来てたんですよね。


▲映画撮影の秘話を語る田中光敏監督

山本氏:そうなんですよ。ただ私は、今回もぜひ田中光敏監督にお願いしたいなと思っていました。前回の「火天の城」を田中監督に演出していただいた時、ここは絶対残しておきたいっていう肝みたいな個所がいくつかあって、それを正確に汲み取ってくださったので信頼していました。


▲笑顔でお話してくれた原作者の山本兼一氏

原作から色々な場面や言葉をそぎ落としていく過程は大変だと思いますが、その辺りはどうでしたか?

田中監督:山本さんが産み落とした大切な作品で、それを映画に変えて世の中に見てもらうためには、本当にプレッシャーがありました。だから山本さんに完成シナリオを見ていただくまで、1年半くらいかかりました。僕の一番最初のお客さんは山本さんで、君に託してよかったよって思ってもらえることが、僕にとっては大切なことでした。言葉がシンプルであればあるほど、年齢に関係なく通じるんじゃないかと思うんですね。例えば、「夕日が奇麗だね」っていうと、共通して自分の故郷だったり、自分の体験した夕日を想像するのと同じように。山本さんの小説には印象的でシンプルな言葉があって、そういうものをあえて残していったんです。

海外の方にも伝わったと思いますか?

田中監督:上映後に現地の方とお話をしたら、 「文化は違うけれど僕には手に取るようにわかるよ。例えば、娘が亡くなって利休が妻にお茶を出す時、多分、僕たちだったら大声で泣きじゃくるところを、それをこらえてお茶を出すというシーンでは僕も泣けたよ」って言うんです。あのシーン、僕も泣けるんですよ。日本人が悲しいと思うところを共有できたっていうのはすごくうれしいですね。

山本氏:監督は僕の言葉の中で一番いい人類共通の言葉を選んでくれたんだなと思いました。お客さんと一緒に見てると、これは確かに今通じてるなっていう場面が連続してあって、素晴らしい演出だと思いましたね。

ラストシーンを含め原作と少し違うシーンがありますが、変えようと思った理由は何ですか?

田中監督:山本さんの原作は完ぺきなんですよ。でも、あえて物議を醸し出したかったんです。原作と映画の違いを見いだして、そこで考えてほしかったんですね。それが映画の一つの役割のような気がして。原作と少し違うんだって気付いて、それで原作を読んでみようって、なんかそうなったらいいなって思っています。

利休役をどうしても歌舞伎俳優の市川海老蔵さんにしたかった理由は何ですか?

山本氏:千利休は枯れた人というイメージがあるじゃないですか。わびさびの人で、悟りの境地でお茶を立てた茶聖。だけど、この小説の中の利休は情熱的な人だと思っています。外面的ではなく、内面的にぎらっとした人で、70歳間際と19歳の両方の利休ができる人となると、海老蔵さんしかいないと思ったんですよ。

田中監督:交渉に1年かかりましたね。山本さんが、「小説を書くときも君のことを思って書いたんだよ」って情熱的な手紙を海老蔵さんに書いてくださって。それで、海老蔵さんの心が動いたんだと思いますよ。

撮影では、本物の茶碗をいくつも使用したそうですね?

田中監督:緊張のしっぱなしですよ。何億円とか何千万円とか、そういうお茶碗を使ってましたので。普通なら、セットの準備が整って大物俳優さんが最後に入るんですが、今回は大物俳優さんよりも後に高級なお茶碗が入ってくるっていう、お茶碗の主役ぶりが見事でしたよ(笑)。

最近は歴史物の人気が高まっていると聞きましたが、それについてはどう思いますか?

田中監督:やっぱり時代劇はロマンとか人情とかそういうものに触れるものが多いし、みんなも期待しているのだと思います。現実が殺伐としている日本だから、古き良 き日本の姿をもう一度見つめ直さなければいけない時期に来ていると気付いているのではないかと思いますね。昔は良宗教かったって思う日本人が増えてるんじゃないかって気がします。

山本氏:今、時代小説がブームなんですよ。本格歴史小説というよりも、人情ものが人気ですね。だから監督のおっしゃったように、人情、温かみというところをみんな求めてるんだろうなとは思います。

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▲モントリオール世界映画祭の記者会見で質問に答える田中光敏監督(左端)。監督の隣は女優・中谷美紀さん、右端は山本兼一氏

授賞式では、「スタッフと支援してくださった方々のおかけで取れた賞。素敵な賞をいただきました」と喜びを語った田中監督、「次回はグランプリを狙いに来たいですね」と意欲を見せた。山本兼一さんの原作でまた一緒に映画を撮りたいと目を輝かせているお二人。いつかまた美しい古き良き日本の温かみある歴史映画が見られるかと思うと今から楽しみである。〈 Coco Montreal 誌より 〉

(2013年10月10日号)



 



 
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