【ひと・インタビュー】

日本と中国の懸け橋担う「唐変木ラーメン」
オーナー奥山瑞明さんの波乱に富んだ人生


つい1カ月半ほど前にトロントダウンタウンにオープンしたラーメン店「TOUHENBOKU=唐変木」。店名も変わっているが、オーナーの奥山瑞明(おくやま・ずいめい)さんの人生もこれまた変わっている。彼のラーメンにかける思い入れはたどった人生そのものであり、それゆえに情熱にはただならぬものがある。


▲「唐変木ラーメン」のオーナー、奥山瑞明(おくやま・ずいめい)さん

中国残留孤児の子としてスタート

奥山瑞明さんは1972年、中国の東北部ハルビンに生まれる。父親は中国人で母親は中国残留孤児として育った日本人である。「奥山」は母方の姓。

瑞明さんが13歳の時、一家は日本へ移住し、神奈川県川崎市に住むことになった。その3カ月後には母親が地元で中国レストランをオープンした。店名は出身地の名を取って「ハルビン」。料理上手の母親の家庭料理が売りだった。一方、父親は車で母が作った肉まんやシューマイを路上販売していた。

「残留孤児の場合、移住して3カ月間は生活費の援助が出ます。そのあとは、収入がなければ生活保護を申請することになるのですが、我が家は最初の3カ月間だけであとは一切、援助は受けませんでした」と、瑞明さん。

半年ほどたって、肉まんやシューマイが評判になり、当時のKDD(国際電電)ビルの地下に「ブースを出さないか」という話が持ち上がり、ビジネスはとんとん拍子に進む。さらに東京都内各地で手広く経営している総合ディスカウント・デパート「多慶屋(たけや)」に出店することになり、レストランは閉めて肉まんやシューマイの工場を設立。会社組織にして、他の残留孤児たちを雇った。

瑞明さんは地元の中学、高校を卒業したあと、ハルビンに戻り、中医薬大学で中医及び鍼灸(しんきゅう=はりときゅう)を学ぶ。卒業後は日本に戻り、当時、両親の家業がさらに発展して日本橋三越や伊勢丹デパートなどにも商品を納めて忙しくなっていたため、実家の家業を手伝うことになった。日中両国語のバイリンガルを生かし、主に営業や「中国物産展」などのイベント企画を担当していた。

世界に視野を広げてトロントへ

「以前から海外に出て視野を広め、語学を学びたいと思っていました」。というわけで、2002年に語学留学でトロントへ。その後、ワーキングホリデービザの存在を知って、このビザで再びトロントへ。

トロントではハルビンの大学で習った鍼灸の技術が役立ち、「東京指圧」で働いたり、自分でもクリニック「指圧ワン」を開業したりした。

そのままトロントに滞在するつもりが「父親が病で倒れたため、両親は会社を売却して、中国に戻ったので僕も中国に戻り、3年間めんどうを見ました」。中国では上海の「クロネコヤマト」で働いていたそうだ。

その後、医療の問題もあって両親とともに日本へもどり、東京上野で「バー」を開く。その名前が「唐変木」であった。その名前の由来をこう語る。
「新宿に長く続いていた唐変木という名前のカフェがありまして、そこへよく行き、マスターとも親しくしていました。しかし、9年くらい前にその店を閉めてしまったのです。僕には、そこでいろいろな人と知り合い思い出深いところなので、マスターに唐変木の名前を僕の店につけてよいか聞いたのです。彼は快く承諾してくれました」

「唐変木」の唐は中国の意味でもあり、「変は僕が変人でもありますから、ピッタリの名前でしょ」と笑って応える。こうして、今回トロントにオープンしたラーメン店にも思い出深い同じ名前をつけたのである。

しかし、どうしてトロントでラーメン店を?


▲トロント市クイーン・ストリートの繁華街にある店。間口が狭く、奥行きが広い

自分で納得が行くラーメンを提供したい

「もともとラーメンが大好きなんです。最近はトロントにもラーメン専門店があちこちにできています。でも、自分の口には合いません。それなら、自分で食べて『美味しい!』と思うものを作ろう」。これがそもそもの発端のようだ。

まずは日本に帰って千葉にある「ラーメン学校」に入学。ここは全国の有名ラーメン店のシェフが少数精鋭(最大8人)で教えるラーメン塾である。2週間、合宿して基礎から自分で応用できるまで鍛えられる。

瑞明さんはトロントで流行の豚骨スープベースはさけ、コラーゲンたっぷりの鶏ガラで作る白湯(ばいたん)を基本スープにした。白湯は中国料理でも欠かせない基本スープである。鶏に含まれるコラーゲンは肌によい。もちろんMSGなど化学的なものは一切使用していない。


▲毎日、開店する前にスープの味をテストする瑞明さん

ラーメンで重要なもう一つの要素、麺にもこだわった。日本で研究を重ねた末、機械をトロントに持ち込んで作ってみたが乾燥度がちがってうまくいかないことも・・・。3カ月間試行錯誤でやっと納得が行く麺ができあがった。材料の粉はすべてカナダで仕入れる。麺はその日に使うものだけをキッチン奥でせっせと製造している。
「美味しくなれ、美味しくなれと祈りながら作っています。うちはその日に作ってその日に食べるのがモットーです」。したがって、防腐剤などは使う必要がないので入れていない。


▲キッチンの奥でその日に使う麺をせっせと作る

メニューのラーメンの基本は、White (レギュラー)、Red(スパイシー)、Black(にんにく風味)、Light(先の3種の味であっさり仕上げた軽いスープ)で、これに塩味としょう油味を選ぶことができる。麺も好みで細麺と太麺を選ぶことができる。

▲Whiteラーメン ▲Black ラーメン


「開店して最初の1カ月間は味が安定しないこともありましたが、今やっと落ち着きました。自信をもって勧めることができます」。最近はリピーターが増えてうれしい限りだとか。

将来はチェーン化を目指す

瑞明さんは現在42歳。能力や体力的にもバンバン働ける年齢である。「今後もカナダ全国にラーメン文化を広げて行き、チェーン化を目指しています」と、語る瑞明さん。彼に流れる血のように日本と中国の味が合体して素晴らしいラーメン文化が広まることだろう。ラーメン以外にデザート類にも力を入れていて、なかなか評判がいい。

▲クリームパフ ▲ティラミス


■TOUHENBOKU=唐変木〉
 261 Queen St. West , Toronto
(ユニバーシティ通りの西)
 TEL:416-596−8080(*予約は受け付けていない)
 営業時間:毎日午前11時〜午前0時

www.touhenboku.ca

〈 取材・いろもとのりこ 〉

(2013年12月25日号)



 
 


 
 
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