【ソチ冬季五輪】

カナダ代表として女子スキージャンプに挑む
カルガリーの日系二世、田中温子選手 



〈 インタビュア・奈良由貴子 〉

今年2月、ロシアのソチで開催される冬季オリンピックで史上初の競技種目となる女子スキージャンプに、カルガリー在住の日系二世、田中温子(たなか・あつこ)選手(21歳)がカナダ代表に選ばれるのは事実上間違いない。

2013年サマーグランプリを終え、田中選手は世界ランキング4位。この競技でカナダはオリンピック出場の2つの代表枠を確実にしている。カナダ国内ランキング1位の田中選手は、1月末の正式発表を待つばかりである。


▲田中温子選手

昨年の11月22日、多忙な遠征の合間、運よくカルガリーのオリンピック・パーク内に新設されたウィンスポーツ(WinSport=冬のスポーツの総合トレーニングセンター)でのトレーニングを見学し、お話をうかがうことができた。

田中選手がスキージャンプを始めた時からのコーチ、グレガー・ランシング氏は、「田中選手には他の女子にはない力強さがある。インライン(助走)からのスピードの使い方がうまいし、空中でスキーの板に体を思い切り突っ込んで板と体を平行に保って、後半の伸びが良いんだ。そして、ジャンパーとしての資質を兼ね備え、経験が豊富ということが強みだね。オリンピックでは、普段通りのジャンプが出来れば十分メダルを狙っていけるよ」と評価する。


▲本紙インタビューに応じてくれた田中選手(カルガリーの冬のスポーツ総合トレーニングセンター「ウィンスポーツ」にて) 〈撮影:奈良由貴子〉


▲ウエートリフティング


▲ハードル


▲チームメイトと共に(左端が田中選手)

【田中温子選手へのインタビュー】

スキージャンプを始めたきっかけは?
父が日本で学生の頃、スキージャンプをしていた影響で、まず、兄がスキージャンプを始めました。兄の練習や試合について行くうちに、周りの人やコーチたちに勧められて、試しにジャンプを飛んでみたらとっても楽しかったんです。それで、10歳から本格的に始めました。

今までで思い出に残る試合はありますか?
2013年9月、カザフスタンで開催されたサマーグランプリでは自己ベストを出して3位に入りました。世界大会でまた表彰台に上がることができて大変うれしかったです。
そしてもうひとつ、まだ、女子スキージャンプの世界大会が行われていなかったころ、最高位の格付けであるコンチネンタルカップ(2005年)で13歳で優勝したことが思い出に残る試合です。「13歳で優勝」というこの最年少優勝記録は、今もまだ破られていません。

スキージャンプの魅力を教えて下さい
飛んでいる時は、鳥になった気分です。体に力が入っていてはうまく飛べないので、体の力を抜いて、とても自由な感じを味わえるのが魅力です。それから、遠征で世界を見て回って、どんどん友達が増えていくのが楽しいです。

ジャンプを始めて3年で世界1位になり、大変順調に見えますが、何か苦労はありましたか?
17歳の時、スロバキアの大会で両ひざの靭帯(じんたい)を切る大けがをしました。手術後、1年間飛べなかったことがとても辛かったです。また、別の大会で大転倒をして脳しんとうを起こした後も、1カ月ほど飛ぶことができませんでした。復帰後、ジャンプ台の上に立ったとき、初めて飛ぶのが怖いと感じました。辛く、苦しい時を乗り越えられたのは、ありのままの自分を受け入れてくれる家族や友だちの心の支えがあったからなので、とても感謝しています。

試合中どのように集中力を高めるのですか?
いろいろ注意しなければならない点があるのですが、すべてを気にしていると集中できないので、注意点をひとつに絞ります。そして常に自分の最高の状態をイメージして集中します。試合中は、他の人の成績を気にしないよう、アナウンスを聞かないようにします。

日本の北翔大学(北海道江別市)でのジャンプ留学の後、カナダを拠点に選んだ理由をお聞かせください
日本のスキージャンプは伝統があり、練習方法など学ぶところが多くありました。今も、自分なりに練習に取り入れています。しかし、先輩、後輩の関係など、ジャンプ以外に気を使うことが多くありました。カナダの自由な雰囲気の中のほうが、ジャンプに集中し、自分らしさを伸ばせると判断してカナダを拠点にすることに決めました。

オリンピックへの抱負をお聞かせください
バンクーバー冬季オリンピック(2010年)では、女子スキージャンプは競技種目に採用されませんでした。あのあと、世界中の女子ジャンパーたちが一丸となって自分達のレベル向上に努めた結果、今では、男子にも負けない成績が出せるようになり、観客数が増加したことも認められて、この競技がオリンピック種目に採用されるという夢がかないました。ソチ・オリンピックでは、もちろんメダルを狙っていきます。しかし、メダルばかりに気を取られていては自分を見失い、良い成績が出せないので、いつも通り、自分のジャンプに集中していきます。

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▲田中選手のサイン入りのジャンプ写真(Photo by Stefan Diaz)

【インタビューを終えて】
トレーニングの最中、記者の問いかけに嫌な顔ひとつせず、ジャンプのことを何も知らない記者に根気よく分かりやすく説明してくださった田中温子選手。
日本とは違い、選手個人に企業がスポンサーに付くことが珍しいカナダで、「スポーツ・チェック」社が田中選手個人のスポンサーになっていることを見ても、田中選手への期待の大きさが伺える。
スキージャンプは、華麗にして、ダイナミック。ライバルは昨日の自分。昨日の自分を乗り越えてからこそ、今日の自分があり、明日へと進む。孤独な自分との戦いゆえに味わえる空中での自由──こう語る彼女の瞳は輝いている。
田中選手がけがをしないで、オリンピックの空で最高の自由を手にいれ、満足のいく結果が得られるよう期待しています。カナダにいる読者の皆さんも彼女を応援してください。

【田中温子(たなか・あつこ)選手プロフィール】
生年月日 :1992年1月25日(21歳)
出身地  :アルバータ州カルガリー市
家族構成 :両親、兄、愛犬ポルシェ(ポメラニアン)
身長   :161cm
体重   :52.8Kg(ユニホーム着用時)
趣味   :ダウンヒル・スキー、スラックライン(綱渡りに似ているスポーツ)
好きな食べ物 :お寿司、特にイクラとウニ
好きな音楽  :カントリーミュージック
好きな色   :青、赤
好きな言葉:Learn from Yesterday, live for today, Keep on Keepin’on. Canada
好きなジャンプ台:ノルウェー、オスロのラージヒル(K点120m、昔の90m級)
遠征に持って行くもの:本「トワイライト」 吸血鬼系が好き
ブログ  : http://atsukotanaka.blogspot.ca/
ツイッター: https://twitter.com/Japanada01

(2014年1月1日号)



 
 


 
 
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