【極北に生きる】

ツアーガイド・そり犬トレーナー・自然写真家
ユーコン準州に定住した上村知弘さん



〈メールインタビュー・編集部〉

犬ぞりが大好きでユーコン準州に定住、「ゲル」という珍しい家に住み、優秀なツアーガイドとして活躍するかたわら、犬ぞりの犬のトレーニングもやりこなす日本人がいる。
上村知弘(うえむら・ともひろ)さん、1978年生まれの35歳。兵庫県の西宮市と神戸市で育ち、神戸の高校を出てから立命館大学の特別留学制度を使い、2年半、アメリカとイタリアで国際関係学とアートを学ぶ。

大学卒業後は、一般の就職はせずに、極地冒険家の大場満朗(おおば・みつろう)冒険学校や動物保護団体「アーク」などで働き、2004年にカナダのユーコン準州に渡る。
以来、ガイドと自然写真を撮影しながら、まず3年間ユーコンに住み、カナダ人の妻タミーさんを連れて北海道道東へ3年間移住、そして2011年ユーコンに戻り永住している。ホワイトホース在住。

ユーコン準州に定住するにいたったきっかけは?
「日本にいたころ、極地冒険家の大場満郎さんのもとで働いていた際,犬ぞりを少しかじりました。大きな自然に触れたいという願いがありましたので、当時よく話を聞いていた極北に行って犬ぞりやカヤックをしようと思ったのがきっかけです」
上村さんにとっては、アラスカでもグリーンランドでも良かったのだが、カナダという国が比較的長期で滞在しやすく、また当時の知り合いからユーコン準州の犬ぞりやカヌー、先住民文化の素晴らしさも聞いていたため、ユーコンに行くことに決めたのだという。


▲上村知弘さんと妻タミーさん


▲上村さん夫妻が住んでいる「ゲル」と呼ばれる家

現在、奥さんと住んでいる家は「ゲル」という珍しい建物。どのような家なのか興味が湧いてくる。
これは、モンゴルの遊牧民が使っている移動式の丸いテントのような家。上村さんはアラスカで作られたものを輸入し、極北の厳しい冬を越すために分厚い床などは自分で作った。ちなみに厳冬期は、時折、マイナス40度まで下がるというから相当な寒さにちがいない。

「2012年の7月頃からゲルに住み始めています。ひと冬越したので1年中住めるものであることがわかりました。電気は大家さんのいる母屋から延長コードで引っ張って来ていて、水は水道が通っていないため、ポリタンクで母屋にもらいにいく生活です。音が外からよく聞こえてくるのですが、3月には繁殖期のふくろうが近くにやってきて、夜中によく起こされました。ゲルは直径20フィートなので、妻と二人では狭いですが、なんとか工夫して物を整理しながら暮らしています」

日本人ガイドとして現在、どのようなお仕事を?
 
「自分でも小規模のガイドビジネス tNt Nature Connections を運営しながら、地元のガイド会社でも働いています。また、併行して自然写真の撮影にも力を入れています。ガイドの仕事の合間を見ては撮影に行き、日本やアメリカで写真展を通しての発表もしてきました。ガイドとしては一般のツアーもこなしますが、極北の大自然の醍醐味が味わえるようなガイドを心がけています」

上村さんは、ただ見るだけではなく、なるべく全身をもって体験し、極北の自然で気づいた新たな発見や気づきとともに日常の生活に帰ってもらえればという思いでガイドをしている。
そのために、普段も自分でさまざまな場所に遊びに出かけ、その体験や地元とのつながりが、今の仕事に生きていると感じるそうだ。


▲カヌーから眺めるオーロラ


▲ツンドラの紅葉風景。手前にムースが見える

最近、日本から来訪するツーリストの傾向は? 
「冬はオーロラを見たいという方が多いですし、秋はツンドラの紅葉とオーロラをセットに見に来る方が多いです。大きな団体というよりも、2人から4人の小グループで来られる方が多いようです。以前は何かを見たいという観光の形が多かったと思いますが、今はもっと体験をしたいとか、ユニークで作られたものではない本物の観光を求めている人が多いような気がします」

ユーコン準州のセールスポイントは?
「大手旅行業界ではどうしてもオーロラの魅力だけの宣伝が先行していますが、ユーコンに来てからはオーロラ以外にも素晴らしい自然やアクティビティーがあると言ってくださる方も多いです」
ユーコン準州には、クルアニ山脈の大きな氷河地帯やカナダで一番高い山マウントローガンがあるし、長さ3,000キロメートルのユーコン川も流れていて、カヌーなども楽しむことができる。
8月の終わりから9月の初めにかけてはツンドラ地帯が赤と黄色で染まり、一年で一番色鮮やかな季節となる。
冬はアラスカとユーコンの1,600キロもの原野を走る有名な「ユーコンクエスト犬ぞりレース」などが開催され、夏にはカヌーレースの「ユーコンリバー・クエスト」などのイベントも行われる。

自然に根付いた暮らしをしている人がたくさんいるユニークな場所で、そういった型にはまらない人たちと触れ合うことで、こういう生き方もあるのだと感じてもらえることが多いと、上村さん。

「オーロラ目当てで来たけれど、こんなにいい自然があり、人がいるならまた来たい──そう言ってもらえるのが、ガイドとしてうれしい瞬間です。なにかを体験したくて少人数で極北を訪れ、本物の自然と文化、ライフスタイルを身をもって学ぶ。ユーコンはそういうツーリズムの形にぴったりの場所だと思います」


▲犬ぞりの犬のトレーニング

そり犬トレーニング施設の共同所有者だそうですね?
「約20頭の犬がいるのですが、どれも必要がなくなった犬を集めてきている少し変わったケンネル(犬舎)です。捨てられてシェルターで拾われた犬、引退したそり犬などがともに暮らし、大きな柵(さく)の中で自由に走り回りながら暮らしています」
朝、晩一回ずつ当番で餌(えさ)をやり、一日一回掃除をする。そして秋から冬にかけては、ほぼ毎日、だれかがトレーニングで犬をつないで走らせている。秋は4輪バギーで、そして冬はそりで森や原野を犬とともに走る。
「どの子もひとくせありますが、それぞれかわいい子たちばかりです。他の仕事と掛け持ちなので、しんどいこともありますが、生き物を飼っていると、毎日世話をしなければいけません。動物はこちらに頼ってくれるので、その分、やりがいもあります」

ユーコン準州で体験した苦労ばなしを聞かせてください
「海外に来る多くの人が通る道だとは思いますが、ユーコンに2004年に移ってからの3年間、そして北海道時代は自由な反面、やはり金銭的にはやりくりが難しかったです。写真のほうも力を入れていましたので、当時はフィルムの現像代や取材費を捻出し、その上、生活費を稼いでいくのが大変でした」
「永住権を取るまでは、滞在するビザをやりくりするのもひと仕事で、隣りのアメリカのアラスカ州に留まって、またユーコンに入り直したりと、いろいろ工夫していたのを覚えています。住む場所もユーコンではきちんとした電気や水道のある家には住んだことがほとんどなかったので、いつも暖房、水、シャワー、洗濯ができる場所の確保には気をつかう生活でした」

なにかエピソードはありますか?
「飛行機に乗るお客様をお連れする車が厳しい寒さのために動かなくなったことがあります。マイナス30度以下になると車のボンネットから出ている電気コードを3−4時間つなげておかないと車のエンジンがかからないのです。さあ大変。
冬の朝3時、ガイドの仕事でエンジンをかけようとしたのですが、夜の間にマイナス15度から30度まで下がってしまい、おんぼろ車のエンジンがかからなくて困りました。そのままいると、日本からのお客様が飛行機に搭乗することができないため、アラスカハイウエーまで歩き、最初に走ってきた車を道の真ん中でヘッドランプをともして止めて、街まで乗せてもらいました」
小さな失敗を繰り返しながらも、この土地に順応してきた上村さん。
「極北の人たちはこちらが頑張っていると必ず助けてくれます。こうした経験から地元の人の良さも知るようになりました」

将来の構想は?
「2014年の春から今持っているガイドビジネス tNt Nature Connections を本格スタートさせる予定です」
上村さんは、今まで通り、小回りがきき、一般の大きなツアーでは味わえないような極北の大自然と文化に根ざしたガイドビジネスを目指している。

「4人前後の少人数で動きながら、カヌーに乗ってオーロラを見たり、自然写真に特化したツアーを作ったりと、さまざまな味のあるプログラムを実現できればと思っているところです。ツアーでは我が家のゲルに立ち寄って遊びに来てもらうことも多いですし、これからもなるべく地元の人とも交わって楽しくやっていきたいです」
いずれは家と敷地を手に入れる予定だという。自然が豊富な敷地内にある小さな宿を経営し、ガイドと体験を通して日本の人たちと極北ユーコンをつなげたいというのが夢だ。


▲グリズリー・ベア


▲野生の羊ドールシープ(Dall Sheep)

また、自然写真 のほうも、今までのテーマであった極北の野生の羊「ドールシープ」をまとめて、日本で2014年の春ごろに出版できるよう動いている。
「2014年の秋には日本で再び個展ができればと思っているところです。体験、写真を通して極北の大自然と文化を感じてもらい、縁がある方たちと喜びや感動をわかち合っていければといいなと思っています」

上村さんは、タミーさんと2004年にユーコンで知り合い、北海道に住んでいる時、2008年に結婚した。タミーさんは、以前、バンクーバーで8年間、小中学校の教師をしていた経験を生かして、北海道でも野外英語自然教室などを開いていた。動物と子供が好きで、将来はガイドビジネスを通して、アウトドア&異文化教育をしていきたいと語っている。

上村さんとタミー夫人にとって、2014年は大きな飛躍の年となる。

上村知弘さんのEメールアドレス:wildworldphoto@gmail.com
ウェブサイト:www.uemuratomohiro.com

【写真撮影:上村知弘】

(2014年1月1日号)



 



 
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