【モントリオール】

音色に“The Heart ― 心”を込めて
尺八奏者ブルノ・デシェネさんとマツタケアンサンブル


〈 リポート・小柳美千世 〉

英国人 Francis Taylor Piggott は、 1893年に出版した書「The Music and Musical Instruments of Japan」(邦題「日本の音楽と楽器」)において、尺八の音色を「Mellow」だと賞賛している。 果物なら熟していて、お酒なら芳醇で、光なら豊かで美しい、そして人間なら年をとり経験を積んで円熟した、という意味合いだそうだ。
19世紀になるまで、日本の音楽はあまり海外で取り上げられることはなかった。しかし、鎖国が解けて、維新の風とともに外国人が日本文化の奥へ分け入るようになってからというもの、ピゴットのように、西洋にはない独自性を日本古来の楽器に見いだし、海外で高い評価を得るように紹介してくれたのである。

そして、ここモントリオールにも、尺八をこよなく愛し、演奏活動などを行いながら日本音楽と伝統楽器を地元に披露してくれている人、Bruno Deschenes(ブルノ・デシェネ)さんがいる。


▲尺八を手に、ブルノ・デシェネさん( Photo by Kwok Minh Tran )

「夜の落ち着いたひとときに吹くのが好きです」と言って、さっそく練習を始めるブルノさん。
好んで演奏する曲は、尺八の古曲と言われる「鹿の遠音」や「手向け」だそうだ。特に「手向け」は、2011年3月11日に起きた東日本大震災で亡くなった人への鎮魂曲として何度も演奏会で吹いている曲でもある。

音楽との出会いは?
私はケベック州の田舎町で生まれました。兄弟は3人、いわゆる、典型的なフランス系カナダ人の家庭です。5歳のとき、修道女の方に教えてもらいながらピアノを習い始めました。10代の頃には、教会の聖歌隊だけでなく、トロンボーンやトランペット、ブラスバンドの他の楽器を演奏したりしていました。12歳の頃には、将来は作曲家になることを夢みるようになっていました。
現在は、グラフィック・アーティストとしてだけでなく、世界音楽のライターとしても活動しています。私の主な分野は日本の伝統音楽です。

日本を訪れた経験は?
日本は3度、訪れたことがあります。前回は、私の師匠でもある倉橋義雄先生に招待されて、2012年6月に京都で開催された「世界尺八フェスティバル」で演奏をしました。自作の「The Call of the Loon」と自分でアレンジした北海道の民謡「江差追分」を日本人の尺八演奏家と共演して、とても良い経験を得ることができました。

日本文化に興味を持ったきっかけは?
日本人女性と結婚して人生を共有することになったことは、私に大きな影響を与えてくれました。西洋のものとは違う、彼女の持つ美意識にとても興味を持ちました。日本の伝統的な美学は、繊細で洗練されていると思います。西洋にも存在しているものではありますが、さらに心のあり方を追求した美学だと思います。
私が尺八を始める前から、妻はここで琴を演奏していました。日本の外で、日本の伝統楽器の演奏を習得するのは簡単なことではありません。彼女と演奏をすることで日本古来の音楽を楽しむかたちで尺八を始めましたが、日本以外ではあまり知られていないこの楽器の美しさに夢中になりました。
なんとか地元でも尺八の先生を見つけながら続けることができ、倉橋先生は、京都から年2回、米国ボストンを訪問する際に私の方から出向いて行って稽古(けいこ)をしていただいた先生です。その後、倉橋先生には、モントリオールやオタワで何回かコンサートを開いていただきました。

日本の文化や精神についてどう思いますか?
日本の文化や精神について、とても重要なことは、「The Heart ― 心」だと思います。日本人はとても情熱的で感受性の高い人たちだと思います。たとえば、彼らの芸術は、伝統性と現代性の両方を踏まえて、“祭り”の際に、その“心”を見ることが出来ます。また、日本庭園などに見られる自然への造詣の深さにも、日本が培ってきた“心”を見いだすことが出来ます。


▲「Matsu Take Ensemble」の公演風景 ( Photo by Serge Pilon )


▲左端がブルノさん ( Photo by Kwok Minh Tran )

ブルノさんが主宰している“MATSU TAKE ENSEMBLE”について教えてください。
2002年に、妻で琴奏者の戸口恵美子、尺八奏者ミシェル・ドゥボウさん、そして尺八奏者の私の3人で「Matsu Take Ensemble」を結成しました。2006年には安原嘉代さんが踊り手として参加しました。彼女は、太鼓、三味線、歌の役割も担当してくれています。そして2008年には、イグナシウス・キムさんが太鼓のメンバーとして、2013年には、金尾由美子さんが2番目の琴奏者としてメンバーとなりました。
私たちの次のコンサートは2014年2月13日(木)午後6時から、モントリオール美術館のBourgie Hall で開催されます。定期的に、ケベック州の各地で行われる日本やアジアに関するイベントで演奏しています。
私たちは、2007年にはCDを、2013年には尺八のソロCDをリリースしています。

反響はいかがですか?
私たちの音楽を聴く人々は、いつも、心地よい瞑想感と平和な音色に関心を寄せてくれています。それは、初めて聴く人たちにとっては、まったく新しい発見となります。典型的なクラシック、ポップスやロック音楽、あるいは世界の民族音楽などとは大きく異なっているからです。
しかし残念ながら、私たちはあまりたくさんの演奏活動をしません。その理由は、私たちが西洋型主流の音楽をしないからだと思います。例えば、エレキギターやシンセサイザーを加えて、私達がやっている音楽を西洋風にすることはありません。
時々 、バイオリンやチェロを加えることはあるにせよ、それが西洋音楽のようになることは極力避けるように試みます。同様に、私は日本の歌をアレンジすることはありますが、それ自体も西洋の音楽とはまったく異なるものだと思います。

演奏活動を行う情熱は何ですか?
西洋音楽を聴きながら研究をずっと続けてきましたが、日本の伝統音楽には、私の予想をはるかに超えるものがあります。それを発見することが、私の情熱と言えるでしょう。

将来の夢は?
私は尺八演奏家としては、日本の“師範”と呼ばれるものを持っていません。数年後には、それを取得できるように修業してがんばりたいと思っています。

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尺八の歌口は基本的にただ穴が開いているだけで、吹き込む空気を奏者が自分で調整しなければならない。口のカタチ、吹き出す息の強さと向き、楽器の角度、歌口と唇の距離・・・。
それらをマスターした上で、深い洞窟でこだまするような音色を発するブルノさんの演奏には、なによりも人としての心が込められている。

【追記】
東日本大震災の後、被災された方々を支援するために2013年NHKワールドで企画された、世界中の人々がビデオで曲を収録するプロジェクトにブルノさんご夫妻は参加協力を行っています。
http://www.nhk.or.jp/japan311/flowers/video/254_10003.html

【マツタケアンサンブル】
http://www.musis.ca/welcome.html

(2014年1月1日号)



 
 


 
 
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