【世界の街角から】
パリの街角ビストロの良さが味わえる・・・
日本びいきのオーナーたちの店「Les Canailles」


〈リポート・いろもとのりこ〉

パリにはミシュランの3つ星レストランからどこにでも見られるようなカフェレストランまで、ピンからキリまでいろいろあるが、どの店もそれなりにおいしい。特にオーナーシェフのビストロは、「ここが私の城」と言わんばかりに腕を発揮していて、顧客を獲得するため懸命にオリジナルメニューを工夫している。

パリの北の丘、モンマルトルに近い、地下鉄 St. Georges から歩いて4〜5分のところにある「Les Canailles」もそのひとつ。モンマルトルのにぎやかなピガール広場から数ブロック南の比較的ひっそりとした、およそレストランがあるようには思えない通りにある。


▲「Les Canailles」に近い地下鉄の駅、St-Georges


▲繁華街から中に入った比較的静かな通りにある「Les Canailles」。手書きの「本日のメニュー」看板が目印

オーナーシェフのセバスチャン・ギロ(Sebastien Guillo)さんはパリのレストランの最老舗「トゥール・ダルジャン」や「ホテル・ド・クリヨン」で料理を担当していた。当時、これらのレストランで料理長を務めていたドミニク・ブシェ(Dominique Bouchet)氏は、その後、パリ8区に自分のレストラン「ドミニク・ブシェ」を開業した名シェフ。昨年には東京・銀座にも「ドミニク・ブシェ トーキョー」をオープンしている 。味には定評のある料理人である。ギロさんはパリで、そのブシェ氏の指導を受けて修業を積んだのである。


▲オーナーシェフのセバスチャン・ギロさん(右)とやはりオーナーであるサービス担当のヤン・ル・ペヴェディックさん

ギロさんが、ブシェ氏のもとで一緒に働いていたサービス担当のヤン・ル・ペヴェディック(Yann Le Pevedic)さんと組んで独立したのは、今から1年半前。店名の「Les Canailles」は、「いたずらっ子」の意味で、ほかに「悪党」とか「ごろつき」などあまりよくない意味もある。どうしてこの名前を店につけたかを尋ねると、「モンマルトルという地域がら、ちょっと遊び心もあってね」とウインク。いかにもフランス人らしい。

師匠のブシェ氏は仕事も兼ねてたびたび日本を訪れている大の日本通。「Les Canailles」のヤンさんもその影響か、日本へ行くこと10回にのぼるとか。片言ではあるが、日本語も少々話す。そのせいか日本人客にはとても好意的だ。


▲ふつうの日のランチタイムでも満員に。店内は2つに区切られていて、全部で30数席ほどのこぢんまりした店

店のロケーションは決してよいとは言えないが、どこからお客がこんなに集まるのだろうかと思うほど、あっと言う間に満席。料理の良さの割にはお値段が良心的に設定されていることが、ますます評判を呼んでいるのだろう。

パリではビストロのほとんどがコースメニューを組んでいて、オードブル4〜5品、メイン4〜5品、デザート4〜5品の中から選ぶことができる。この店ではオードブルとメイン、またはメインとデザートの2つの組み合わせだと26ユーロ(税、サービス料込み=約40カナダドル)。この場合、2人でオードブルとデザートをシェアする。フルコースはちょっと・・・という人に気配りしたアイデアで、多くのビストロがこの形式をとっている。さすが合理的。

ちなみに各料理を取るフルコースは34ユーロ(税、サービス料込み=約50カナダドル)となっている。この値段はランチ、ディナーともに同じ。もちろん、これらの中からアラカルトで1品だけ取ってもよい。その場合は少しだけ割高の値段設定になっている。


▲オードブル「牛タンのカルパッチョ」


▲オードブル「ホワイト・アスパラガスの生ハム&パルメザンチーズ添え」

さて、本命の料理に入ろう。メニューはその日の材料によって変わるので、黒板に手書きで書かれている。まず、オードブルに「牛タンのカルパッチョ」、同行の友人は「ホワイトアスパラガスの生ハムとパルメザンチーズ添え」をオーダー。牛タンはこの店の看板メニューとあって、常時メニューに載っている。ホームメイドのとろけるようなやわらかな牛タンにクリーミーなソースがぴったり。季節の野菜、アスパラガスもほのかな香りと生ハム、チーズのハーモニーがう〜んとうなってしまうほど。


▲メイン料理「白身魚の蒸し煮、春野菜添え」


▲メイン料理「子牛のレバーソテー、マッシュポテト添え 」

メインの魚料理「白身魚の蒸し煮、春野菜添え」は、魚本来の味を保たせて、さっぱりと仕上げられていた。もうひとつのメインは「子牛のレバーソテー、マッシュポテト添え」。レバー特有の臭みを全く感じさせないソテーで、マッシュポテトとの相性も抜群だった。


▲デザートのピスタチオ・アイスクリーム&チョコレート・プディング

デザートは、お目当てのスフレは当日はメニューになかったので、「ピスタチオ・アイスクリーム&チョコレート・プディング」と「フレッシュ・フルーツのクリームソース添え」を注文。オードブルとメインでかなり満腹状態だったが、「デザートは別腹」と言い聞かせ、美味しくいただいた。

シンプルな内装と庶民的な雰囲気がいかにも街角ビストロ的な「Les Canailles」。ヤンさんのにこやかな応対に、また、ぜひ行ってみたくなる店である。(注=取材したのは5月半ばです)

【Les Canailles】
■アドレス:25 rue La Bruyere 75009 Paris
■Tel : 01-48-74-10-48
■営業時間:月〜金曜12:00~14:30 / 19:00~23:00
(土&日曜は休み、夏期休暇あり)

www.restaurantlescanailles.fr

○ ○  ○

【取材を終えて】
オーナーシェフ、セバスチャンさんの師匠、ブシェ氏は、かつて、現在フランス料理界の最高峰といわれているジョエル・ロブション氏(69歳)の右腕だったとか。ロブション氏はパリのレストラン「Joel Robuchon」をはじめ、同名のレストランを東京に6店、世界11カ国に店舗を持っている。2013年現在、ミシュランの星の総数は28個にのぼるというから驚く。
そのロブション氏がまだ20代半ばをすぎたころ、大阪の調理師学校の招待で初めて日本で料理の腕を披露した。そのとき、筆者は当時勤務していた出版社から取材に行った。ロブション氏はフランス国内では新進気鋭の料理人として知られ始めていたが、日本では全く無名の人だった。ただ、黙々と料理を作る童顔の彼の姿から、今日の成功者の面影はうかがえなかった。
料理だけでなく、ビジネスの才覚、そして多くの弟子たちを育てたことが彼を成功へ導いたのだろう。人間関係の巡り合わせを感じざるを得なかった。

(2014年6月26日号)



 



 
(c)e-Nikka all rights reserved