【インタビュー】

トロント・ジャズ・フェスティバルのメインステージで
国際デビューを飾った「村川佳宏カルテット」
バンドリーダー村川佳宏さんに聞く


〈インタビュー&撮影:デムスキー恵美〉

トロント・ジャズ・フェスティバルの最終日に当たる6月28日、次世代を担うミュージシャンたちが競演するイベント「ユース・ジャズ・ショーケース」が市庁舎前広場のメインステージで開催された。今年もカナダ、日本、アメリカを代表して4組のバンドが演奏。日本からは昨年夏、サッポロ・シティジャズの「パーク・ジャズ・ライブ・コンテスト」で優勝したバンド「村川佳宏カルテット」が招待され、会場を埋め尽くした聴衆を前に堂々たる国際デビューを飾った。

サックス奏者の村川佳宏(むらかわ・よしひろ)さん、ベースの伊藤未央(いとう・みお)さん、ピアノの木村優(きむら・ゆう)さんそして、ドラムの三間大輔(みま・だいすけ)さん編成によるカルテットは、二番手で登場。会場からは各楽曲が終了するごとに割れんばかりの喝采が沸き起こった。
演奏のあと、バンドリーダーの村川佳宏さんに国際ジャズ・フェスティバル出演の感想や日本での音楽活動などについてお話をうかがう機会を得た。


▲バンドリーダーの村川佳宏さん


▲ベースの伊藤未央さん


▲ピアノの木村優さん


▲ドラムの三間大輔さん

今年の「ユース・ジャズ・ショーケース」は、世界の巨匠アーティストたちが演奏するメインステージで行われたわけですが、演奏後の率直な感想を聞かせてください。
まず野外で演奏できたことがとてもよかったです。カナダのお客さまの反応はすごく素直で暖かく、ウエルカムしてくれている様子が伝わってきて感激しました。昨夜もリハーサルを兼ねて他のステージで演奏したのですが、やはり同じような反応をいただきました。そういう雰囲気を自分たちの演奏で作れたということがうれしかったですね。

音楽に興味を持つようになったは何歳のころですか。初めて手にされた楽器は。
両親ともに若いころから吹奏楽団を作って音楽活動をしていたこともあり、音楽のある環境のなかで育ったのですが、最初に学んだのは管楽器ではなくて、ピアノでした。自分のなかでも親と同じ楽器はやりたくないという気持ちもあったんでしょうか(笑)。小学校に入る前からクラシックピアノを習い始めました。

村川さんにとって10代とはどんな時代だったでしょうか。
中学に入るとギターに興味が沸いてきて、エレキは持ってなかったのですが、ロックに夢中になりました。あのかっこいいエレキの曲をアコギ(アコースティック・ギター)で演奏してみたいと思い、ずいぶんがんばりました。よく聴いていたのは日本のバンドでは B’z(ビーズ)、X JAPAN、イエローモンキーなどです。外国のバンドではそのころ、Mr. Big のポール・ギルバートにあこがれ、スーパーギタリストになりたいと真剣に考えていましたね。

多感な10代ですが、その時期、音楽に対する考え方に大きな変化はありましたか。
ピアノを弾いていた時期は、楽譜を見て練習するという日々でしたから、それは常にそこにあるものとしてとらえていて、特に音楽を意識することはなかったです。ギターを始めてからは自分の好きなように弾いたり、工夫しながら音を作ったりという、それまでになかった音の世界を体験したことで、自分はこういうことが好きなんだ、自分にもこういうことが出来るんだという新たな意識が生まれたのはこの時期でした。そう考えるようになって、再びピアノに戻ったということもあります。

北海道大学工学部入学後、大学のジャズサークルで活動されたそうですが、そこで得た最大の収穫とは。
大学に入ることが決まったとき、長い学生生活の間は、せっかくだから何かまったく新しいものをやってみたいと思っていました。管楽器だったらサックスと決めていたので、迷わずジャズサークルに入りました。これは大学時代から体験していることですが、とにかくジャズの世界の人間のつながりというものはすごいなと思いましたね。ロックバンドならグループで行動しますが、ジャズの世界では個々の行動になりますから、ミュージシャン同士が出会うと国籍、人種に関係なく、すぐに仲間として受け入れてくれて、いっしょにプレーしたり、自然に良い関係がどんどん広がってゆくというのは大きな魅力です。

村川さんにとってサックスという楽器の魅力は。
他の楽器にも言えることですが、いろいろな細かいニュアンスが表現できる楽器だと思います。自分の声は低いけれど、楽器は通る音ですし、自分の声では無理なことも楽器は自由に表現してくれるということもありますね。自分にとってはしっくりくる楽器です。最近では、ラテン音楽を演奏することも多くなり、クラリネットやフルートも演奏していますが、特にクラリネットにはまっています。


▲演奏後、ステージに駆け寄る聴衆と談笑するカルテット

1年前を振り返ってみて、「パーク・ジャズ・ライブ・コンテスト」での優勝は、その後の音楽活動にどんなインパクトがありましたか。
コンテストに限らず、演奏するときには常にいい音、表現を心がけていますがやはり、シティ・ジャズのような大きなイベントで多くの方々に応援していただき、認めていただけたということは大きな励みになりました。それをきっかけにさらに向上していこうという、もうひとつ上の目標ができましたから、自分の音楽活動のなかでは大変意義のあるありがたい受賞でした。

好きなアーティストは多数いると思いますが、村川さん自身に影響を与えたアーティストをあえて3人ほど挙げるとすればどなたですか。その主な理由は。
完成された美しい曲をピアノだけで作りあげたという意味でやはり、昔からずっと好きなのはショパンですね。ジャズ界にはたくさんいますから、これはなかなか難しい質問です。そうですね、サックス奏者の中からですと、多くの皆さんが好きなジョン・コルトレーンもそのひとりです。天性の音楽的才能に加え、彼の音楽には精神世界とか宗教とか、いろいろなものが複雑に絡み合って音に出ているんですね。どんなにがんばっても誰にも真似できない、近づけない世界を持っている、そういうものを追及しながらプレーしていることはすごいと思いますし、尊敬しているアーティストのひとりです。それから、サックスではもうひとり、キューバ出身のパキート・デリベラというプレイヤーが挙げられます。どんな音楽表現であれ「音楽とは楽しいもの」であることを教えてくれるアーティストとして大好きなひとりです。

アニメ作品などの音楽制作にもかかわっているとうかがいましたが。
アニメ作品に関しては、他の方がコンピューターで制作した電子の曲に僕が演奏する生の管楽器の音を入れてゆくという作業です。すべてが電子で作られている世界に管楽器だけは生の音をという考えですね。これがけっこう面白くて、この仕事にはこれまで2年くらいかかわっています。作曲家もジャズが好きなか方なので、今度はジャズっぽいアレンジをしていこう、というお話もしているところです。それから、ゲーム用の音作りにもずいぶんかかわってきました。ジャズだけではなく、こういった世界とのかかわり合いを通じて、さまざまなつながりができたことは、自分にとってとても幸せなことだと思っています。

近い将来、特に力を注いでいきたいと考えていることは。
現在はジャズ中心の音楽活動ですが、最近はタンゴ、フラメンコなどにも興味がありますし、ラテン音楽の演奏にも力を注いでいるところです。そういうものを通して試行錯誤を繰り返しながら、さらにいろいろなことを吸収し、学び、それを自分の音楽の中で表現してゆく努力を重ねてゆく考えです。そうして生まれた音楽を自分の活動の拠点となっている町、札幌で生まれた音楽として札幌以外の多くの人々にも聴いてもらえたらすばらしいなと思っています。今回、トロントで演奏する機会をいただけるまでは、海外公演の可能性などあまり考えていなかったですが、大きなステージでライブを経験した今、それも将来、不可能なことではないなと思えるようになりました。


▲「村川佳宏カルテット」の皆さん。ライブ演奏を終え、笑顔で記念撮影

【インタビュー後記】
いつもならステージの下手から演奏の様子を静かに見守っているトロント・ジャズフェスのアーティスティック・ディレクターだが、「村川佳宏カルテット」の一曲目の演奏が終わると、思わず彼の口から「Amazing !(すごい演奏だ!)」という賞賛の声がもれた。繊細で透明感のあるカルテットのサウンドには、同時に力強さと聴く者をやさしく包み込んでくれる大地のようなおおらかさがある。音楽があふれる町、札幌をこよなく愛し、将来は札幌で生まれたすぐれた音楽を全国に発信していきたいという村川さん。マルチ・インストゥルメント奏者として、常により良い音を求め続けるアーティストのこの言葉にこめられた静かな情熱は、それが単なる夢ではなく、現実のものとなる日が近いことを確信させてくれるに十分なものであった。日本国内といわず近い将来、ここカナダでも再びあの Amazing なサウンドが聴ける日がくることを心から楽しみにしている。(Photos & Text by Emi Demski)

(2014年7月10日号)



 



 
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