【東日本大震災に思いを馳せ】

トロントのアーティスト武谷大介氏
ビクトリア市で「Field Trip Project」展開催


〈 リポート・サンダース宮松敬子 〉

トロントに拠点を置き、カナダ・日本・アジアなどの大都市で精力的に展覧会を開催しているアーティスト武谷大介(たけや・だいすけ)氏は、2011年3月に発生した東日本大震災直後のトロントでの募金活動でも活躍し、その名を知る人は多いはずだ。


▲武谷大介さん(中央)。この写真は2010年、ケニアのマサイマラをカナダから「ARTBOUND」というグループと一緒に訪問、ケニア初の女子の高校で彼女たちにとって人生初めての絵の具で絵を描く授業をしたときのもの

大惨事が人の記憶から薄れつつある中、武谷氏は更にアートの分野において関連の活動を広げ、現在「Field Trip Project」と題した展覧会をBC 州バンクーバーアイランドのビクトリア市で開催している。6月半ばから9月8日までの予定で、会場は美しい州都の一角に建つ The Maritime Museum of BC(BC海洋博物館)である。
この展覧会のカナダでのデビューは、今年2月末、オンタリオ州ケンブリッジ市にある Idea Exchange Design at Riverside(トヨタカナダ、ポーラ美術振興財団から助成金)であった。ビクトリア市はカナダ国内では2カ所目になる。


▲BC州ビクトリア市の「Field Trip Project」展示会場

武谷氏が最初にこのプロジェクトを思いついたのは、震災直後に被災地を訪れた折に、心に大きな傷を負った子供たちを対象にアートのワークショップを行った時に始まる。当時、学校の体育館には全国からの支援物資の衣類や日用品がたくさん集まっていたが、中に使用されずに廃棄処分になる予定の中古のランドセルが山のようにあるのを目にした。

これらをアート作品として再生させ、復興支援の思いを巡回する作品展としてつなぎたいとの考えがひらめいた。「この悲劇を長く引きずるのは余儀ないものの、しかし悲しみに浸るだけではなく、それを乗り越え、立ち上がり、再建しなければならない」と思い、宮城県女川(おながわ)町出身の中学の美術教師、梶原千恵さんと共にプロジェクトを実行に移した。日本ではすでに20カ所で展覧会を開催している。

参加アーティストたちは、日本とカナダからの合計70人ほどだが、同時に展覧会会場があるBC州のアーティストや子供たちにも作品を募集し、地震・津波が起きた被災地・被災者に思いを馳せて、ランドセル(英語ではナップザック)に寄せるそれぞれの気持ちを表現してもらったのだ。


▲BC州のアーティストの作品


▲コタケマンの作品。割れた卵、おもちゃ、車輪など奇抜な色彩のものがたくさんくっつけてある。輸送で外れたり、壊れた部分は、巡回先の観客が「適当に直す」ということでインタラクティブな作品

武谷氏は作品づくりにあたり次の3つの条件を出した。何カ所もの展覧会場を回ることを予測し、丈夫なこと、重過ぎないこと、悲劇ではあるものの将来に向けての明るい兆しが見えること。
その結果、ランドセルを媒体として、唯一無二の数多くの作品が生まれたのである。詩的な趣を感じさせるもの、日本のポップカルチャーを彷彿(ほうふつ)とさせるもの、唯物的な感じを抱かせるものなど、いろいろだ。
だが一番大切なことは、展覧会を見た人々が人間には抗(あらが)うことができない自然の脅威に真摯(しんし)に向き合い、作品を通して心に深く感じた思いを長く保持することだと思う。

武谷氏は、「時の経過と共に記憶が風化されるのは免れませんが、誰でもがランドセルを気軽に触れるなどして、アートを通して文化交流の会話、きっかけ、または興味を持ってもらえたら更にうれしいです」と言う。


▲さとうりさの作品(部分)。ビニール製の素材をとりの羽にあしらったパラシュートの作品


▲ターニャ・リードの作品「Mr. Nobody」。手の指が4本しかなく、目玉もない彼だが、どこか愛らしい。ランドセルの中には、彼のはっきりとした視線を感じられる第二の心の目が搭載されている

武谷氏は、ビクトリアからはカナダを東に向けて移動し、途中、出来るだけ多くの町で展覧会を開催することを熱望しており、来年末には盛大なフィナーレをトロントで飾りたいと願っている。しかし「個人で始めたプロジェクトですから、運送費の捻出(ねんしゅつ)さえままなりません。でもなんとか継続させることで、被災地で復興活動を続けている人たちに光を与えることが出来ればと思っています」と、果てることのない夢を紡いでいる。

8月には、東京・新宿区主催の「新宿クリエーターフェスタ」で「遠足プロジェクトアジア」を立ち上げる予定である。加えて、フィリピンやインドネシアでも大きな自然災害がある中、アーティストたちがネットワークを形成し、災害への予備と被災後の復興について考えるプラットフォームを作りたいとも考えている。

「Field Trip Project」ホームページ
http://fieldtrip.info

(2014年7月24日号)



 



 
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