【国内移住体験記(1)】

トロント市からBC州ビクトリア市へ   
シニア世代の夫婦、各地調査のすえ移住決意


〈 ビクトリア市 サンダース宮松敬子 〉

人はどこに住んでいても、年月と共に齢(よわい)を重ね、元気ハツラツだった実年から壮年になり、やがては老齢期に移行していきます。もちろんカナダの日本人移住者の場合も例外ではありません。
人口的には、やはり団塊の世代(ベビーブーマー)と呼ばれる年齢層の人々がたくさんいますし、恐らくトロントやその周辺に一番多く住んでいるのではないかと思います。統計を見れば移住者のピークを迎えたのは1973年前後で、その当時、来加した人々はすでにリタイアメント・エイジを迎えたか、これから迎えようとしています。


▲筆者・サンダース宮松敬子さん(この写真はビクトリアに移転してすぐある庭園でハイティーを楽しんでいる時に撮影)

そんな人生の転機にあたっては、「さて、今後どこに住もうか?」と考える人も多いことでしょう。
若い時にいろいろな理由で日本を離れ、カナダで生活することを選択した身としては、やはり仕事、家族、友だちなど、長期にわたって人間関係を築いてきたこの国のどこかが「終の棲家」(ついのすみか)となるのは当然です。

いつの時も人生行路は人それぞれの選択ではあっても、誰一人として決して若返ることはないことを思えば、「そこからの生活」がスムーズに流れることを誰もが願うのもまた当然と言えると思います。

さて私もその一人で、長い試行錯誤の末、今年5月にBC州ビクトリア市に移住し今後の生活を維持しようと決心しました。日本からの移住地はトロントが唯一無二で、他の場所に住んだ経験はなく40余年の歳月を同じ街で暮らしました。
トロント市内では、独身時代に3回、結婚してからも3回の引っ越しを経験していますが、州を越えて移動するのは今回が初めてです。


▲今年の冬トロントで撮った雪と氷に覆われたクリスマスの飾り


▲昨年12月のアイスストームでトロントの街中いたる所で見られた風景

しかし最終的にビクトリアに引っ越すことを決心した時の友人たちの反応は「カナダの中で一番温暖な場所に住めてうらやましい!」というものでした。雪の降る長い極寒の日々を思えば、そんなコメントもむべなるかなとは思います。
更には「自由に移動できる生活条件なのがいいわね」とも。つまり、まだ仕事をしている人々や、自分はリタイアしていても子供たちがトロント(周辺)で根を下ろして生活しているために、家族から離れることはとても出来ないという人々からのコメントでした。

移住先を決めるまでの道のり
私には同い年のカナダ人の夫がいるのですが(2人の子供は独立)、夫婦ともフリーランスとして長いこと仕事をしていたため、勤め人のように「一応」65歳前後で定年といったものはありませんでした。
しかし、いつかは訪れるその時のために、夫は以前からトロントを離れる計画を立てていました。最大の理由は、冬は寒く夏は蒸し暑いトロントの気候が、身体的に何かと問題になっていたからです。

私も冬の寒さは何年たっても好きにはなれなかったのですが、夏は日本に比べれば大して苦ではありませんでした。でもアレルギー体質の夫は、暑いにつけ寒いにつけ一年中鼻詰まりの状態で、息苦しい上に一度クシャミが出ると怒涛(どとう)のごとく10数回立て続けに「ハックショ〜ン」を繰り返すといったことが年中でした。

ですから3年ほど前の春に南米のエクアドル共和国に旅行した折に、赤道直下に位置するアンデス山脈の中腹2850メートルの高地にある首都、キトを訪れた時は、一年を通じて冷涼な気候のため非常に快適で、長い間の鼻詰まりが一気に解消しました。 となると、もう待ったなし! 「エクアドルに移住しよう!」となったのです。しかし今からスペイン語圏に移り住むなど私にはとても考えられることではありませんでした。

それまでに、メキシコ、パナマ、コスタリカなどをはじめ、オンタリオ州内ではエリオット・レイク(ヒューロン湖の北方)からナイアガラ市の周辺まで、「移住」ということを頭に入れながらどれほどの場所を訪れたことでしょう。そして「ここなら住めるかな?」という思いを繰り返してきました。その旅路を記したら、優に一冊の本になるかと思われます。

しかしビクトリアへの引っ越しもそう簡単に決まったわけではありません。
12年ほど前に初めて訪れた時は、その美しい街並みに感嘆はしたものの、短期間の滞在では移住が可能かどうかを決めることは出来ませんでした。加えて私には、当時まだトロントでやりたい仕事が幾つかあったのが大きな理由で、「トロントを離れる」という決心には至らなかったのです。


▲昨年4月バンクーバーアイランドを訪れた時の写真。コモックスでは3月に咲くという桜が満開だった

そして去年の4月、私たちは再度「移住先としてどうか?」という目線から見てみようとバンクーバーアイランドを訪れ、2週間ほどナナイモという町を拠点にしてくまなく見て回りました。レンタカーの走行距離は4500キロ。どれだけ走り回ったか分かろうというものです。

夫一人、再度ビクトリアに滞在
とは言え、ここでも一番の気がかりは島の気候でした。周知の通り、西海岸は海あり山ありの風光明美な場所です。ビクトリアはバンクーバーより雨は少ないのですが、それでも湿気の多いことで知られていますし、これが夫の健康にどの程度弊害になるか不透明でした。 

実は夫は、バンクーバー生まれでティーンエイジャーの半ばまで当地周辺で育ちました。しかし当時から、初秋から冬にかけては常に何らかのアレルギーに悩まされていたため、先回ナナイモを訪れたのは春で問題はなかったものの、秋にどんな状態になるか自分でもとても不安だったのです。
でもここまで来たのなら、もうトコトン体験した後に結論を出そうと決心し、去年の秋(9月)には夫一人で訪島し、2カ月余り生活をしてみることにしました。


▲バンクーバーアイランド・ポートハーディーの日本レストランで食べた料理


▲雨量が多いため屋根に育つ苔(こけ) (ナナイモにて)

人は旅人である時は、日常の細々した雑事から離れ特別な空間で生活するため、プレッシャーなども少ないものです。まして場所から場所への移動のない旅は、夫にとってこの上なく快適だったようで「大丈夫、ここでやっていける」という思いがわきあがったようです。
私もこの頃には心の準備も徐々に出来ていたため、「トロントを離れる」という現実に前向きになっていました。

不定期リポート
しかし同時に周りからの雑音も多く入って来ました。
「トロントより暖かいのはいいけど、ビクトリアなんて文化的には何もないよ」
「ゴルフ、テニス、スキーなんかを楽しむ運動会系の人なら別だけど、そういうことに興味ないあなたには退屈よ、きっと」
「温暖な気候と日本に近いことに誘われて一度は西海岸に移っては見たけど、トロントに戻った人も何人かいるみたい」
などなどなど・・・。

果たしてこんなコメントのどれが本当で、どれが本当ではないのか?
新たな生活を繰り広げることになったこの地での生活の見たまま感じたままを、今後しばらくの間、不定期にリポートしてみたいと思います。
ビクトリアに限らず、シニアになってから住み慣れた場所を後にした方もおられるかも知れませんが、一人の移住者の決心と成り行きを共有していただけたらうれしい限りです。

【編集部より】
サンダース宮松敬子さんのトロントからビクトリアへの移住体験記をお読みになって、あなたのご感想を編集部までお寄せください。宛て先は、iromoto@nikkatimes.ca

(2014年8月14日号)



 
 


 
 
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