インタビューと実地調査でまとめた語り継ぐ歴史
末永和子著「カナダを耕した家族の物語」


京都在住のエッセイスト、末永和子さんが、7月25日、『カナダを耕した家族の物語 ─ヨーロッパから、そして日本から─』と題する本を出版した。末永さんは1992年以来、今日にいたるまで頻繁にカナダを訪問、その間、1998年〜2000年バンクーバーに居住している。




【執筆の背景と動機】
本書は、末永さんがインタビューと実地調査に7年費やしてまとめたカナダの移民についてのオーラルヒストリー(語り伝えられて来た歴史)である。取り上げている移民は、ヨーロッパ系としてはポーランド移民とベルギー移民であり、日系としては滋賀県出身者と静岡県出身者の計4家族。期間は、19世紀末から21世紀初めまでとなっている。

1992年、夫の在外研究に随伴してカナダを訪れて以来、末永さんとカナダとのつながりは20年以上におよぶ。その間、1998年から2年半にわたってバンクーバーに居住し、その体験談を『扉をあけると ―カナダロングステイ850日─』(叢文社、2006年)にまとめた。

2冊目の著書としても商業出版された本書の執筆動機は、バンクーバー生活において何気なく、そして幾度となく見聞した移民物語がきっかけになった。それは断片的ながら今なお生々しい体験談であり、ストーリー性があり、著者にとって非常に興味をかきたてられるものであった。

【本書の内容】


▲1943年ごろ、ゲインフォード駅に立つロージーと長男エドワード

第鵯部「ロージーの90年」は、ポーランド移民として1929年に25歳で単身カナダに渡ったクリロと1930年に11歳で家族移住したロージーの物語である。語り部となったのは、結婚したクリロとロージー夫婦の長女ヘレン。



▲1926年、リリアンの家族写真。(左から)リリアン、父オスカー、母ダイナ、妹エドナ、祖父ジョージ、叔母マルセール

第 II 部「リリアンのひとり暮らし」は、ベルギー移民のリリアンについて、誕生から現況までをたどる。1924年、母親の胎内で大西洋を渡ったリリアンは、アルバータ州で開拓農民の子として育ち、教師となり、離婚後は一人娘を育て上げ、今は独居生活を楽しむ90歳。語り部はリリアンその人である。



▲1937年、バンクーバー到着直後の藤田春太郎・たみ子夫妻


▲1997年、藤田春太郎、たみ子のダイヤモンド婚(60周年)

第 III 部「春太郎の白壁の家」は、滋賀県彦根市出身の藤田春太郎・たみ子夫婦。春太郎は、彦根の自宅を白壁の家に塗り替えることを夢見て、1927年に14歳で父の呼び寄せによってカナダへ。たみ子は春太郎との結婚によって1937年に太平洋を渡った。
藤田夫婦はアルバータ州で小作農から自作農となり、9人の子供を育て、1997年にダイヤモンド婚を迎えた。藤田家の聴取は、生前の夫婦と娘ひろ子へのインタビューによるものである。



▲1980年ごろ、ドンカスゴッド農場内にて、河井良夫


▲河井牧場

第鶤部「河井の白い雲」は、静岡県出身の酪農家・河井良夫の物語。河井は1970年の初渡米以来、北米での酪農経営という白い雲にあこがれを抱くようになった。資金作りのための食肉解体工場では過酷な作業に耐える。酪農家を目指した現場体験を積み重ね、ついに1986年に酪農経営を軌道に乗せることに成功した。自らの人生を振り返るという、易しいようで難しいことを率直に話してくれたのは河井良夫・ちよ子夫婦自身であった。

【本書の特徴と意義】 
本書に出てくる4つの物語の共通テーマは、移民の定住過程である。幸いにも語り部となってくれた人々の同意を得て、すべて実名での表記となっている。また、この種の書物において捨象されがちな開拓と定住過程での日々の生活の具体的な様子を、食品の貯蔵と調理、水汲みの苦労と給水の工夫、トイレの事情など細部にいたるまで書き込むことができた。その意味では移民の「生活史」という側面に光を当てているところに、本書の新味があると言えるかもしれない。

著者・末永和子さんは語る。
「移民に関わる問題は、決して過去の物語ではありません。将来の労働力不足への備えとして、日本政府は外国人労働者の受け入れを計画していると報道されています。現代の移民の目的は多様とはいえ、お金や物や情報とは異なって文化を伴う人の移動は、これからも無数の移民物語を生み出していくことでしょう。折から、カナダを背景にしたNHK連続テレビ小説『花子とアン』の番組も好調のようであり、この点でもタイムリーな出版となったことはうれしい限りです」

・カナダを耕した家族の物語 ─ヨーロッパから、そして日本から─
末永和子 著
叢文社(そうぶんしゃ)
定価:1500円

【編集部より】本文の写真はすべて『カナダを耕した家族の物語』より転載しました。

(2014年8月21日号)



 
 


 
 
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