キューバのカマグエイ州(後編)
州都カマグエイ散策、そして海岸ホテルでの出来事


〈 オンタリオ州ロンドン市 ウィルソン夏子 〉

ホテルはキューバ国の北側、大西洋岸の海辺にある。が、州都であるカマグエイ(Camaguey)の町は、ホテルから200キロほど離れた平野にある。町に出かけてみようとするが、公共バスは走っていない。「タクシーしかない」とホテルの人は言う。ホテルに属するのは国営タクシーだから、私たちは個人タクシーを探す。でも、電話帳はないし、ネットにも載っていない。村の人に聞くのが一番だ。


▲馬車のタクシー屋さん

それで、ホテルを出ると、馬車タクシーがいた。この人に「車のタクシー屋さん、知りませんか?」と夫は声をかける。
「ああ、知ってますよ。隣の町にいるから、この馬車に乗って!」と言う。二人で5ペソ(どんぶり勘定で5ドル=500円)。20分ほど乗って、ある家に着いた。犬がわんわん吠えた。彼に車のタクシー屋さんを紹介してもらう。

出てきたのは、上半身が裸の人だった。フランス製のプジョーを持っているとい言う。車庫に入っている車を見せてもらうと、新しそうで、長距離を走るには信頼できそうだった。料金は90ペソと決まった。それは全く国営タクシーと同じ値段だったけれど、まあ、仕方がない。

翌日、彼は白いプジョーに乗って、ホテルまで迎えにきてくれた。誰かが助手席に座っている。車内では二人とも携帯電話をかけたり、応対に忙しいが、なかなか通じないようである。

さて、助手席の人は、途中で降りたので、「友達なの?」と運転手さんに聞くと、「まあ、そうだ」と言い、「彼は、警察官なのだ」と言った。
「警官が友だちっていうのは、何かと便利ね」と私が言ってみると、
「彼は、僕の前の奥さんと結婚しているんだ」と言う。
まあ、珍しい。離婚した奥さんのご主人と友達だなんて!
「こういうことは、よくキューバにあるんだ」と笑って言った。この人の気質は、ジメジメというよりはサバサバというのがふさわしい。


▲カマグエイに行く道路には、時折、牛が・・・


▲カマグエイの町に掲げられているチェ・ゲバラの写真と彼の名言

カマグエイの町に行く道路には、ほとんど車も走っておらず、時折、牛が交通止めをするくらいだった。
町に到着した。この町の銀行には、チェ・ゲバラの写真と、彼の名言「永遠に勝利の日まで」が掲げられていた。


▲カマグエイの町の様子


▲教会の前の通り


▲迷路のような旧市街の道路

カマグエイの旧市街の迷路のように造られた道路は、2008年、世界遺産になった。16世紀に、海賊やインディアンなどの攻撃を避けるため工夫されたそうで、これは町で一番細い小道だ。
町には、古い教会もたくさんあり、中心街には人があふれ、賑わっていた。首都ハバナとは趣は少々違うが、なかなか魅力のある町だった。


▲二股(ふたまた)に分かれた道に建っている不思議な家


▲キューバの小学生。制服は全国を通じて統一されている

さて、ここからはホテルでの体験。
ホテルに戻り、海岸を歩いていると、私たちはキューバ人の男性に声をかけられた。ビンセントと呼ぼう。職業は漁業という。「ボートは持ってるの?」と夫。
「いいや、ボートを所有するのは違法なんだ。フロリダまで行かれてしまうと困ると政府は思っているらしくて」

私は、笑ってしまう。魚釣りの小さなボートで国外脱出なんかありえないと思うけれど、それが政府の方針ならば、どうしようもない。10分ほど一般的な話をして、別れようとすると、彼は言った。
「こんなことをお願いするのは、本当につらいんだけれど、僕には8歳と10歳になる娘がいて、もし鉛筆とかノートがあれば、分けてもらえませんか」
私は、その時、偶然、バッグにペンシルケースを入れていたので、「日本で買った鉛筆で、質は上等、すごく書きやすいわ」と、鉛筆を4、5本と赤ペンをあげた。


▲浜辺を歩くカップル

その6日後。日中、海で泳いでいると、「こんにちは」と言いながら、その彼が浜辺にやってきた。今日は友達と一緒だ。
「あら、お仕事は?」と私が尋ねると、「仕事は夕方になる」と言う。
「海にお金がないか、探しているんだ。何しろ子ども二人と奥さんを養わなくちゃならないから」
冗談がうまいなあ、この人は。

「もう明日帰ることになったわ」と私が言うと、
「もし、要らないものがあったら、置いていってくれないか」
「あ、それは残念だったわ。それを聞いていたら、あなたにあげたのに。実は昨日、袋にいれた衣類など、ホテルの周辺を散歩して、その時に出会った女性にあげてしまったの」

それを聞いて、残念そうな顔をしながら、彼はこう言うのだ。
「じゃあ、もし、できたら、ハンバーガーを持ってきてくれない?」
「どういう意味?」
彼によれば、海岸の近くにハンバーガーを焼いているホテルのスナックバーがある。そこでハンバーガーを注文し、自分たちのために持ってきてくれないかということなのだ。

私はちょっと考えて言う。
「それって、違法になるんじゃない?」
私のスペイン語は単純率直だから、この程度の表現にとどまった。
すると、相手は、
「君たちはオールインクルーシブで、食費は全部含まれているから、君は別に悪いことをするわけじゃないよ」と言い、私の左手のプラスチックのブレスレットを指差した。ホテルにチェックインした時、誰もが付けさせられる鮮やかなピンクの輪は私の手首にもあった。そう言われてみると、私は「それは無理よ」と言うこともできず、オーケーの承諾をする。

ビンセントは、「僕のは、ケチャップ、マヨネーズとからしに、トマトにレタス、全部入れてほしい」と言うと、彼の友人は、「僕はケチャップだけにしてほしい」と言った。そして、「僕たちは、あのボートの付近で待っているから」と浜辺を指差した。そこはホテルの管轄が終わる区域の浜辺で、ボートが数隻並んでいる所だ。


▲ホテルに咲き乱れる濃いオレンジ色の賑やかな花「フランボヤン」

あまり気は進まなかったが、約束してしまったのだから仕方がない。私はスナックバーに行き、二つのハンバーガーを頼んだ。ハンバーガーを焼いている人は、パンの上にレタスとトマトとハンバーガーをお皿に盛ってくれた。
私は彼らのお好みに従って、一つには香辛料を添え、そこに用意されている野菜などをハンバーガーの上にのせた。ひとつにはケチャップだけを加えた。何を思ったのか、私は二つのお皿の隅に、フレンチフライをのせてもらった。

私はウエートレスにでもなったように、両手にお皿をのせ、ちょっと海岸を歩くと、二人は約束の場で待っていた。ホテルのガードマンにも会わず、無事渡すことができた時には、ほっとし、悪遊びの共犯者になったようなスリルを味わったのだった。

のち、「そういうことは、しないように。トリップ・アドバイザー(観光ウエブサイト)に書いてあるよ」と夫にたしなめられてしまったが、後の祭りであった。

今回、キューバ入国(2014年5月初旬)の際、初めてパスポートにスタンプを押された。スタンプを押さないこれまでの方針が変更になったのである。また、キューバの大都市からは、毎日、米国マイアミに行く飛行機便があることを知った。何かが徐々に、明るい方に向かっていくようだ。

道聞けば
一緒に歩く
その人の
靴のほぐれに
忍耐を見る

(終わり)

(2014年8月28日号)



 



 
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