映画「ぶどうのなみだ」の監督
三島有紀子さん


〈インタビュア・山崎ひろみ / Coco Montreal 誌〉

今年の秋に開催されたモントリオール世界映画祭ワールド・グレイツ部門で三島有紀子監督の「ぶどうのなみだ」が上映され、話題を呼んだ。
北海道空知を舞台に、ワイン造りをする兄・アオと小麦作りをする弟・ロク、アンモナイトを求め自由気ままに旅をするエリカとの関わりを描くヒューマンドラマ。日本では10月11日に全国公開されたばかりである。出演は、大泉洋(おおいずみ・よう)、染谷将太(そめたに・しょうた)、 安藤裕子(あんどう・ゆうこ)、田口トモロヲ、ほか。


▲映画「ぶどうのなみだ]の三島有紀子監督(撮影/(c) Megumi Furihata)

「文化の香り漂うモントリオールで開催される世界映画祭に出品するのが夢だったので、選んでもらえてすごく幸せです」と語る三島監督に作品について話を伺った。

オリジナル脚本「ぶどうのなみだ」を書こうと思ったきっかけは何ですか?

もともとワインが好きだったんですが、北海道の空知でワイン造りが盛んだとプロデューサーからお聞きして、エッセンスを探しに取材してみることにしたんです。取材中、はじめてぶどうの一次発酵を見た時、ぶどうとしては一度死んで、ワインとして生まれ変わるという感じがしました。それで、ワイン造りを通して再生を目指している人間の話しを作りたいと思ったのがきっかけです。

この映画を通して伝えたかったことは?

土には色々な歴史の積み重ねが反映されていますよね。いっぱい涙を流していた人たちがいて、その涙は土に染み込んでいく。そして、その土地の水分をいっぱい吸い上げて実ったぶどうから造られたワインを、今生きている人や100年先に生きている人たちが飲むという感じにつながっていく。自分の人生とも重ねてメッセージを込めました。
自分も過去の作品からいろいろなものをいただいているし、私が作った作品を今生きている人たちや100年先の方たちに見ていただいた時に、何か伝わればいいなと思いながら作っています。


▲「ぶどうのなみだ」のシーン。(左から)染谷将太、大泉洋、安藤裕子 (c)2014「ぶどうのなみだ」製作委員会

映画の中で、エリカは穴を掘るように過去にさかのぼっていく人で、アオはぶどうを育てて空に向かうという未来に向かっている人です。そのエリカとアオが出会うことによって、過去と未来が?今?出会ってつながっていけばいいなという思いがあって、あの二人を出会わせているんですね。
映画を見た人が、長い時の積み重ねと命がつながっている?今?に自分がいて、それが未来につながっていくんだという意識が、無意識にでも生まれてくれればいいなと思います。

ピノ・ノワールを選んだ理由は何ですか?

一番エレガントで一番難しい品種と言われているワインだからです。それが、主人公・アオと似ているところがあるんです。アオは、ストイックで頑固、エレガントでバランスの取れた音楽を目指していたけれど、突発性難聴で音楽が出来なくなってしまいます。
目指していた音楽と同じような味わいを造れる品種がピノ・ノワールだったんです。それに、ピノ・ノワールは環境や土の味が反映されやすい品種なんです。最終的に自分が立っている土地の味に気付くというところに向かっていく映画なので、土の味が反映されやすい影響の受けやすい品種を選びました。

撮影秘話はありますか?

アオが挫折して絶望の淵に立ったときのシーンはとても繊細なお芝居が必要で、その日は朝から主役の大泉洋さん、そしてスタッフもすごい緊張感でした。誰もが、今日撮影するシーンが物語の起点になると理解してくれていて、私自身も、いい芝居を絶対撮って帰るとハンターの気持ちで臨んでいました。
大泉さんの集中力が果てしなく高まっていくのがわかりました。そして本番。いろんなタイミングが合わなければなりません。それらすべてが、大泉さんの芝居と一つになった時、鳥肌が立ったのを覚えています。このシーンを撮れた時、この映画が間違いなく「きちんと伝わる」映画になると確信しました。

エリカを演じた安藤裕子さんは、アーティストだけあってセッションの天才でした。相手役の大泉洋さんや染谷将太さんとの芝居のセッションはもちろんのこと、吹きつける風、ひんやりとした土の感触を感じとる能力=感度が高いんですね。
だから、普通の役者さんには言わない「風とセッションして鼻歌を歌って」とか、そういう演出をしていました。他のキャストも、とてもいとおしいキャラクターを作り上げてくれ、このキャストと映画を作れた時間が幸せでした。

〈インタビューを終えて〉
上映後、地元モントリオールの観客から「コンペティションに選ばれるべき映画だった」と絶賛されていた。「次はコンペティションに参加できるように頑張ります」と笑顔で語る三島有紀子監督。彼女の次の作品、中谷美紀主演の映画「繕い裁つ人(つくろいたつひと)」の完成が待ち遠しい。

(2014年11月27日号)



 



 
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