相続法の基礎知識(オンタリオ州編)〈その3〉
エステートプラニングの第一歩


〈オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

過去2回にわたって、遺言書と、「もしも」のための委任状についてお話させていただきました。読者の中には、これらの書類をいつか準備しないといけないと分かってはいても、なかなか重い腰が上がらないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回は、エステートプラニングを始めるための準備についてお話します。

どこから手をつければいいの?

1.元気なうちになるべく早く
「エステートプラニングって、どこから手をつけたらいいのか分からないんです」というご相談をよく受けます。遺言書や、財産関係や身体関係の委任状を作るには、それぞれ一定の法的な意思能力がなければなりません。ですので、まずは、ご自身がこれらの文書を作りたい、見直したいという意志がある元気なうちに、なるべく早く準備をしましょう。



2.財産の現況を把握する
遺言書の作成と聞くと、真っ先に、相続人への遺産分配を考えなければいけないと思う方が多いようです。ですが、その前にしなければならないことがあります。
それは、現在のご自身の財産の状況を把握することです。不動産、預金、投資、RSP、生命保険、年金など、現在所有する財産、そして、モーゲージ、クレジットカード、その他のローンなどの債務の種類も書き出してみましょう。

3.財産情報・個人的な情報をまとめる
次に、これらの財産情報を一度まとめて目録を作り、それぞれの財産の種類について、詳細を加えていきましょう。
マイホームを例に取ると、不動産の所在地、名義人の名前、モーゲージの有無、モーゲージを組んでいる金融機関名、などです。また銀行口座であれば、銀行名、支店名、口座の名義人、口座の番号や種類を、生命保険であれば、保険会社名、ポリシー番号、受取人の名前などを書き出していくといいでしょう。債務についても同じ要領で、やってみましょう。

また、ご自身の個人的な情報をまとめてみましょう。まず、生年月日、出生地、勤務先、婚姻関係、家族構成などです。特に、家族構成については、家族の名前、住所(少なくとも都市名)や現在の年齢などを書き出しておきます。このようにして作った簡単な家系図を見て、家族関係に心配ごとはないかを考え、家族の現状を把握することが大切です。



4.生前の「もしも」の場合と、死後の財産の行方について考える
このように財産情報と個人的な情報をまとめることは、自分にとって大切な人や、自分で築き上げた財産の内容について再確認するよい機会になります。そして、もしも自分で自分のことが出来なくなってしまった場合に、誰に財産の管理や医療行為の判断をお願いするか、また、亡くなった後に、誰に遺産の管理処分をお願いし、誰に遺産を残したいかのための判断などの希望をおおまかに考えてみましょう。

それでも面倒だと思われる方は…
上記のような、財産と家族構成の現状を把握する作業は、ご自分のファイナンシャルアドバイザーや弁護士、会計士と一緒に行うこともありますし、「Estate Organizer」と呼ばれる市販や無料のワークブックを利用すると便利かもしれません。
ちなみに、そんな時間はなかなか取れないという方は、カナダのインカムタックスのシーズンである3月から4月にやってみてはいかがでしょう。春先は必然的にどなたも財産関係の書類に目を通さなければならない時期です。この時期を利用して、上記の作業や遺言書や委任状などの書類を見直すことも一緒にやってしまいましょう。



エステートプラニングのための書類は定期的な見直しを
遺言書や委任状は一度作ると一生安心とは限りません。確かにこれらの文書は、新たに内容を変更しない限りずっと有効です。しかしながら、ご本人の財産の状況や、家族関係の変化、委任状で指名した代理人や遺言執行人の健康状態などによって、内容を変更する必要が出てくることがあります。ですので、ご自分の希望が現実に照らし合わせて反映されているかを確認するため、2〜3年ごとに遺言書と委任状を見直すのがよいでしょう。

オンタリオ州の法律では、結婚するとこれまで作った遺言書は無効になるため、最後の遺言書の作成後に、結婚や再婚をされた方は注意が必要です。さらに、遺言書だけではなく、生命保険やレジスタードプランの受取人の見直しをすることも忘れないでください。生命保険の受取人が別れた配偶者になっていたり、新しく生まれた子供が抜けていたりなど、後に問題になることが多いからです。



いかがでしたか? 今回のコラムが「エステートプラニングって難しそう、なかなか機会がなくて・・・」と思われていた方の最初の一歩を少しでも後押しできれば幸いです。

今年の10月よりご縁があって始めた相続法コラムのシリーズを読んでいただき、誠にありがとうございました。来年も皆様にとって、身近で役に立つ情報をお届けできればと思っております。それでは、どうぞよいお年をお迎えください。

【おことわり】
このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見または見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美(のぞみ)弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、電話:905-383-3331(内線:226)、または E-mail: zoe@dermody.ca



(2014年12月18日号)



 



 
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