相続法の基礎知識・オンタリオ州編〈その4〉
子育て世代のためのエステートプラニング


〈 オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

新年明けましておめでとうございます。皆様、よいお年を迎えられたことと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、「エステートプラニング」と聞くと、リタイア世代の問題としてとらえがちですが、カナダでは結婚や子供の誕生をきっかけに、遺言書や委任状を初めて作る方が多いようです。
これは、日本ではなじみのない習慣ですが、今回のコラムでは、実はエステートプラニングが世代を超えて子育て世代にも関わる問題であるということをお話させていただきます。



子育て世代と委任状
昨年の本欄で、生前の「もしも」に対応するための財産および身体の世話のための継続委任状(Continuing Power of Attorney for Property and Personal Care)の大切さについてご説明しました。この委任状こそ、子育て世代にとって、なくてはならない重要な法律文書です。

委任状と聞くと、痴呆が進んだときのためになど老後の対応として考える方が多いようです。しかし、実は、仕事、旅行、運転、スポーツなど、身体的にアクティブである若い方こそ委任状が必要になる機会が多いのです。

ご主人や奥様とジョイントアカウントを持っているから、委任状がなくてもいざと言うときに対応できるとおっしゃる方が多くいらっしゃいます。しかし、財産関係の委任状で任命された代理人(Attorney for Property)にしかできない仕事が、実はたくさんあります。
例えば、交通事故により、脳に重い障害を負ったため、生涯、お金も健康の管理もできなくなった場合を考えましょう。

事故による保険金や補償金の受け取り、事故に関連する裁判への参加、契約書などの法的書類の署名などは、財産代理人にしかできません。また、主治医とのやり取りは、身体の世話のための代理人(Attorney for Personal Care)が行います。財産関係の委任状がない場合は、意思不能者の法定後見人(Statutory Guardian)として、オンタリオ州政府の機関が財産の管理を一切行うことになります。



子育て世代と遺言書
(1)未成年後見人の指名
遺言書には主に二つの役割(1− 遺言執行人〈Executor/Estate Trustee〉の指名、2− 遺産〈Estate〉の配分の決定)があると、以前、お話しましたが 、子育て世代にとっては、もうひとつ大切な役割を加える必要があるでしょう。それは、万が一、両親がともに亡くなった場合に、未成年者の法的保護者、すなわち未成年後見人(Guardian and Custodian of Minor Children)を誰にしたいかという希望を伝えることです。

オンタリオ州では、両親がともに亡くなり、未成年の子供が残された場合、両親の最後の生存者の死後から90日間は、遺言書に指定された人物が未成年後見人としての責務を負います。ただし、この指名は90日間と一時的で、その後の恒久的な未成年後見人を指名するには裁判所に申し立てる必要があります。

遺言書による未成年後見人の指名は、「希望」に過ぎず、法的拘束力はありません。未成年後見人を最終的に決めるのは、オンタリオ州の裁判所になります。ですが、裁判官が未成年者の利益保護を第一に考える際に、両親の遺言書の内容を考慮することはいうまでもありません。



(2)未成年者が相続人になった場合の対応
オンタリオ州の法律では、18歳未満の未成年者が相続人になった場合、遺産の受け取りにさまざまな制約があります。

まず、法律上、未成年の相続人は、18歳に達するまで相続分の遺産をすべて受け取ることができません。そこで一般的には、遺言書の中で、未成年者の相続人のために信託を設立します。
未成年者が相続人になった場合は、18歳に達するまで、相続分を遺言執行人の下で管理し、子供の教育費や維持費など、必要な経費の支払いのために相続分の中から支払いを行うことができるようにします。

また、そのような支払いについてですが、未成年者への支払いの受取人として、遺言書の中で、未成年の相続人の親、または財産後見人を指定します。これにより、法的に未成年者のための財産を受け取る権限をその子供の親や財産後見人に授与できるのです。



一方、遺言書を残さずに亡くなり、未成年者が相続人になった場合、その子供が18歳になるまで、裁判所が相続分のお金を預かり管理することになります。その間に、相続人の教育費や維持費のために相続分からお金の支払いを必要とする場合は(例:学費、生活費など)、その都度、オンタリオ州の法務省の一部で未成年者の財産権について対応する法的機関(Office of Children’s Lawyer と呼ばれる)へ申請をして許可を得る必要があります。

さて、この18歳という年齢ですが、大きな財産を手にする年齢として、抵抗を覚える人は少なくありません。そこで、遺言書の中では、大学を卒業する21歳ごろ、就職してお金の扱いを覚える25歳ごろ、というように自分の希望で遺産の残額を手渡す年齢を自由に設定することができるのです。

このように、万が一の事が起こった場合に、遺言書や委任状がないことで生じる不自由、面倒な手続き、コスト、時間などを考えると、子育て世代にも適切なエステートプランが必要であることがお分かりになるでしょう。

【おことわり】このコラムを通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見または見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美(のぞみ)弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、電話:905-383-3331(内線:226)、または E-mail: zoe@dermody.ca


【編集部より】「相続法の基礎知識・オンタリオ州編」第1回〜第3回の記事は、アーカイブの「相続法の基礎知識」の項をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックス」をクリックすると見られます。

(2015年1月22日号)



 
 


 
 
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