【ひと】

トロント総領事公邸料理人、長岡宏記さん
「おもてなし料理は主張しすぎず食欲そそり話題を提供するのがベスト」


在トロント日本国総領事公邸の料理人、長岡宏記(ながおか・こうき)さん。昨年9月に着任して以来、公邸を訪れるカナダ政財界のVIPをはじめ各国の外交官、学術・文化関係者などをおもてなしする料理づくりに奮闘している。 2月5日、公邸の厨房でお仕事の合間に、長岡さんからお話をうかがった。〈取材・色本信夫〉

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▲長岡宏記(ながおか・こうき)さん。「初めての取材で、少々緊張ぎみです」

長岡宏記さんは、1985年12月、長野県佐久市生まれ、29歳。実家は中華料理店で、幼いときから親の仕事を見たり手伝ったりしていた。
「祖母から、カエルの子はカエルと言われていました。そのようなわけで、父の背中を見て料理人になる決心をしました」

高校を出た後、東京の辻フランスイタリア料理専門カレッジで1年間、フランス料理とイタリア料理の基礎を学ぶ。この学校は、大阪市阿倍野区に本拠地を置く 辻調理師専門学校/辻調グループの数ある学校の中の一つ。調理師やパティシエを育成する辻調理師専門学校からは多くの優秀な料理人が巣立っていることで有名だ。
「東京の辻フランスイタリア料理専門カレッジでは、実際の料理と同じような感じを出すために、実習と同時に手の速さも学びました」

卒業後、東京・銀座のレストランに1年半、軽井沢のホテル・ブレストンコートのレストランに5年、佐久市の「ヴィーナスコート佐久」に約2年、勤務した。

銀座のレストランでは職人肌の人が多く、料理人が仕事をしていく姿勢、厳しさを身につけたという。

軽井沢のホテル・レストランでは、フランス料理のシェフ、浜田統之(はまだ・のりゆき)氏の下で働いた。浜田氏は、世界的に有名なフランス人シェフ、ポール・ボキューズ(Paul Bocuse)氏が主催する「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で日本人初の銅メダルを獲得した人物。

「浜田シェフのもとで仕事をさせてもらい、じつに良い経験になりました。浜田シェフは、フランス料理をベースとして、地産地消にかかわった料理を作ります。自由な発想で奥が深い。これをみっちり仕込まれました。教えは厳しかったですが、料理の楽しさを味わうことができました」

2012年、ヴィーナスコート佐久に転職。
「そこでの上司が元公邸料理人だったことから、公邸料理人の仕事に関心を持ちました」
外務省外郭団体の国際交流サービス協会に登録しておいたことで、カナダ・トロントの総領事公邸の料理人の募集通知を受けた。

「海外に興味があったし、フランス文化の影響もあるといわれるカナダに行くことに意欲が湧いてきました。 新トロント総領事に決まった中山泰則(なかやま・やすのり)氏に面接試食していただくため、昨年8月、上京しました。佐久から食材を長野新幹線で運んで行ったのですが、その日はとても暑かったので、食材が弱っては大変だとすごく気を遣いました」
結果、中山総領事との面接と料理は合格。9月10日、トロントに赴任した。

それから5カ月。食材の仕入れなど、日本とカナダでは違いがあると思われるが、実際に市場やお店で仕入れをする際にどのような苦労をしているのだろうか。
「日本では食材の8〜9割は業者が配達してくれますが、ここでは毎回、自分で買い出しに行かなければなりません。1カ所では済まないので、一日がかりになることもあり、仕込みのタイミングもあって少し大変です。仕入れにいちばん苦労するのは、魚です。鮮度があまり良くないこともありますので・・・。一方、肉は日本よりも赤身がしっかりしていて、肉らしい肉なのが良いですね。野菜は、種類が豊富で、香辛料もあらゆる種類の物が手に入るのでうれしいです」


▲子羊をスライス。「切り口が奇麗になるように・・・」


▲ピンセットではなく箸(はし)を使って。「日本人シェフの強みです」


▲盛り付けには細心の注意を払う


▲完成! 子羊のロースト、子羊煮込みクロケット、色とりどりの野菜のパニエ

長岡さんは、トロントの町はいろんな民族が共存し、治安も良く、平和的なので、とても気に入っていると言う。

公邸料理人として心がけている点は何か、うかがってみた。
「今まで学んできたことは必ずしも通用しないことがあります。その理由は、料理は主役ではない、やはり外交が主役ということです。その外交は、スムーズに会話が進み、日本と友好的な関係を築くことが最大の目的です。ですから、料理は主張しすぎず、それでいて、食欲をそそり、なおかつ、ちょっとした話題を提供でき、いつの間にか食べ終わっていたというのが、ベストだと考えます」

公邸を訪れるお客様の食事にどのような準備をしているのだろうか。
「お客様の情報は事前に入ってくるので、それに応じて支度をします。もちろん、美味しいことは大切ですので、下処理からしっかり作ります。量は多すぎず、少なすぎず、かつ、食べやすい盛り付けにします。会話を妨げず、後押しをするような料理を心がけています」


▲フォンドヴォーから手作り

ここで公邸の主(あるじ)である中山総領事の評価をうかがってみた。
「初めての外国で、すべて一人でフルコースやレセプション用の料理を作るのは大変だったと思いますが、これまで非常に良くやって頂いています。今後は、レパートリーを増やしたり、自分の感性を生かした料理を考案するなどして、トロントでの経験が本人の財産にもなるよう引き続き頑張ってもらいたいと思っています」

将来に向けて、長岡さんの夢はどんどん膨らんでいく。
「今は、まだ、肩に力が入っている状態ですが、今後は遊び心とカナダらしさを演出できるような料理をお客様に作って差し上げたいですね。ぼくは専門のフランス料理でいかにして日本を表現、アピールしていくか、いつも考えています。フレンチでも、だし、しょう油、味噌などを使うことは可能ですが、それでは余りに容易で、かえって日本人らしくないと思います。日本人である自分が全身全霊を込めて作れば、日本人のスピリットが自然と入った料理になると信じています。その目標に向かって精進していきたいと思っています」

(2015年2月12日号)



 



 
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