相続法の基礎知識・オンタリオ州編〈その5〉
財産代理人と遺言執行人を選ぶにあたって


〈 オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

昨年秋、NHL(ナショナルホッケーリーグ)に所属するジャック・ジョンソン選手が、財産委任状で代理人に任命された両親による委任状の不正使用の結果、彼の財産を使い込んだ末、自己破産の申請に追いやられたというニュースが話題になりました。
一般的に、「委任状の不正使用」というと、高齢の親の財産をその子供が使い込むというパターンが多いのですが、その逆もありうるのだということで注目を集めました。

以前、本欄でお話したように、委任状代理人(Attorney for Property)と遺言執行人(Executor/Estate Trustee)は、委任者の財産管理、被相続人の遺産の管理・処分を行うという大事な役割を果たします。
両者に与えられたその幅広い権限ゆえ、その仕事ぶりによっては、上記のジョンソン選手のように、財産・遺産が不必要に減少することにもなりかねません。そこで今回は、財産代理人と遺言執行人を選ぶにあたって知っておきたいことをご説明させていただきます。




財産代理人・遺言執行人が理解すべきこと
財産代理人と遺言執行人は、任務を遂行するにあたり、知っておくべきことが二つあります。

一つは、委任者の財産も遺産も、自分のものではないということです。当たり前に聞こえるこの原則ですが、実は、この住み分けができないために、委任状の不正使用や、遺言執行人の権限濫用などの問題が生じやすいのです。
代理人が委任者のお金を使って豪華クルーズの旅に出た・・・など、これは実際に裁判になった例です。代理人は委任者のためにその財産を、遺言執行人は相続人のために遺産を慎重に扱わなければなりません。

もう一つは、財産代理人と遺言執行人の法的義務として、財産の取り扱いのすべてを記録しなければならないということです。これは、会計義務(Duty to Account)と呼ばれます。
私は普段、相談に来る財産代理人や遺言執行人の方たちに、「まずノートを一冊購入し(できればルーズリーフではないタイプ)、日付、出入金の額や用途などの記録をつけてください」とお願いしています。このような記録は、後に、意思不能者を管轄する州政府機関などの要請によって必要になる場合があります。




委任状の不正使用・遺言執行人の権限濫用の防止策
カナダの刑法では、委任状の不正使用や濫用は立派な犯罪です。特に、カナダ社会の高齢化に伴い、委任状の不正使用や濫用を防ぐ動きは強くなっています。

たとえば、銀行は委任状の不正使用の疑いがあると、代理人によるお金の引き出しを停止したりするようです。また、そのような詐欺的または不正行為について、警察や州政府機関に通報が入り、警察が動き出すこともあります。

ただ、委任状の不正使用は、家庭内で起こることが多いため、なかなか表面化しにくいのが実情です。委任状の不正使用が疑われた場合に、代理人が関係者に会計記録を提示できるかどうかは、代理人としての任務をきちんと果たしているかを判断する基準となるでしょう。




一方、遺言執行人の権限濫用の防止策は、相続人や受遺者に対する会計報告がチェックアンドバランスの役目を果たします。この会計義務を怠ると、遺言執行人の仕事に満足しない相続人によって、裁判所を通して遺言執行人の辞任を迫られることにもなりかねません。

財産代理人と遺言執行人にふさわしい人とは?
さて、委任状や遺言状を作成する際に、誰にこれらの仕事を任せるかを迷っている方は、以下をご参考ください。

1.信頼できる人
どちらの仕事も他人の財産を扱う仕事です。まず、自分が信頼できる人を選ぶことが第一です。

2.事務能力のある人
記録をつけることをおっくうに感じない人、ペーパーワークをいとわない人が良いでしょう。タックスリターンや、政府に提出する書類の準備など、ご自分が「面倒だな」と思う仕事をやるわけですから、事務能力のある人は向いています。

3.コミュニケーション能力のある人
代理人や遺言執行人として、銀行や政府機関だけではなく、委任者・遺言者の家族と連携を取りながら任務を進めていく必要があります。ですので、周囲と円滑にコミュニケーションをとることができる人であるといいでしょう。




ちなみに、選任に関しては、一人だけではなく、二人以上の合同任命(Joint Appointment)も可能です。さらに、財産の大きさや複雑性、カナダに身寄りがいないなどの心配がある人は、信託会社などの法人を財産代理人・遺言執行人として任命することを考えてもよいでしょう。

また、財産代理人や遺言執行人の選任については、その旨を選任された方に一言伝えておくと、万が一の場合にスムーズに事が運びます。なお、オンタリオ州の法律では、財産代理人・遺言執行人ともに、その任務によって経験した苦労や手間に対して、公正で適当な報酬を受け取ることが許されています。

最後に、実際に代理人・遺言執行人に任命され、活動を始める際には、一度、専門の弁護士によるガイダンスを受けることをお勧めします。何か問題が生じて、自己責任を問われないためにも代理人・遺言執行人としての任務、そして、正しい手続きの流れを理解することが求められるからです。

【おことわり】
本欄を通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見または見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、本欄で提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美(のぞみ)弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、電話:905-383-3331(内線:226)、または E-mail: zoe@dermody.ca


【編集部より】「知っておきたい 相続法の基礎知識・オンタリオ州編」第1回〜第4回の記事は、アーカイブの「相続法の基礎知識」の項をご覧ください。トップページ「今週のトピックス・目次」の下の「過去のトピックス」をクリックすると見られます。

(2015年2月19日号)


 
 


 
 
(c)e-Nikka all rights reserved