自らの辛い体験から進んだ自然医学への道
自然医学医師、石井真美さん


心身ともに悩みやストレスを感じることの多い現代社会。そこで最近、人が元来もっている自然の治癒力を引き出し、心と体を健康回復,そして自分らしい幸せで生きがいを持った生活へと手助けをする「自然医学」が注目されている。その自然医学を自らの辛い体験がきっかけでこの道へと進んだ自然医学医師、石井真美(いしい・まみ)さん。


▲気持ちをリラックスさせるいろいろなグッズがそろっているクリニックで、いつもにこやかな石井真美さん

石井真美さんはトロントの認定自然医学学校、Canadian College of Naturopathic Medicineを卒業し、現在は自然医学医師としてトロント・ダウンタウンのクリニックで活躍している。また、音楽療法士、針治療師、催眠療法士などの資格を備えている。

「自然医学とは?」。一般に知られているようで、その実体はよくわからない、という読者も多いのではないだろうか。ドクター石井に自然医学、さらに彼女の提唱するライフスタイルについてうかがった。

■米国留学先で経験した虐待,摂食障害がきっかけに

石井さんは1979年千葉県富津市に生まれ、自然豊かな環境の中で育った。高校2年生のとき、地元の企業がバックアップする奨学留学生に選ばれ、アメリカ・ウィスコンシン州の小さな村に1年間ホームステイした。
「ホストファミリーの家に同年代の男の子が一人いまして、その子から暴力やいじめを受けたんです。そのために摂食障害になったりしました。それでも、自分のせいだと思い、ホストファミリーにも、日本の家族にも話せなかったのです」
この体験が彼女の人生を大きく左右させた。

唯一救いだったのは音楽だった。小さいころからピアノとフルートを習っていて、常に音楽が身近にあった。
「音楽があったから,辛いことも耐えてこられ、救われました」

日本へ帰国後、同じ高校にもどると、受験一色でギャップを感じてしまった石井さん。以前は教師だった母親と将来、同じ道に進むものと決めていたが、日本の大学に進む気持ちはなくなっていた。

そこで再びアメリカへ。フロリダ州マイアミ大学の奨学金を得て、心理学と音楽療法を学ぶ。これが自然医学医師への第一歩となる。この道を選んだのは高校生のときのアメリカでのホームステイ時代に受けた虐待体験がきっかけとなっているのはいうまでもない。

■病んでいる人の気持ちがわかる医師に

マイアミ大学に入学した石井さんはホームステイ時代のトラウマが続いていたのか、健康状態が悪かった。
「大学の健康センターでチェックしてもらったところ、『すごく病んでいる』と死を意識する内容のことを言われました」
そこで音楽療法を学びつつも、心理療法、薬物療法などを受けて徐々に回復するまでになったのである。

「自分が心身ともに病んでいたので、病んでいる人の辛い気持ちがわかります」

マイアミ大学で音楽療法と心理学の名誉学士号を取得したあと、患者の気持ちがわかる医師になることを決意した石井さんは、医学全体を学ぶために友人のいるトロントへ。

ライアーソン大学やヨーク大学で3年間学んだあと、Canadian College of Naturopathic Medicineで4年間学ぶ。最初の2年間は一般的な西洋医学、生理学、解剖学、薬学など。あとの2年間は臨床栄養学、東洋医学、マッサージ、ホメオパシー、水療法、カウンセリングなどを学んで卒業し、北米認定自然医師となった。

■現代医学と伝統医学が融合した「自然医学」

ドクター石井はいくつかのクリニックやヘルスケアでインターンとして研修を積み重ねた後、2013年にIntegrative Mental Health Centre of Toronto(IMHT=統合メンタルヘルスセンター)をこの道のパイオニア的存在でトロント大学でも教鞭を執っていたテッド・ロー医師とともに立ち上げた。現在のクリニックである。

IMHTでは人間本来が持つ「自分らしさ」を大切にしながらバランスを取り戻すために東洋医学や西洋医学を統合的に効果的に用いて一人ひとりと向き合いながら自分らしく輝くことをゴールにサポートを行っている。

▲ホメオパシーの種類は豊富 ▲アロマセラピーに使うさまざな香料


具体的には「臨床栄養学」「ハーブ、サプリメント処方」「エネルギー療法(鍼灸、ホメオパシー、音楽療法、霊気ヒーリングなど)」「各種検査・生化学分析」「理学療法」「心理療法(カウンセリング)」「精神科の相談」「薬物療法」など。まさに統合的治療であり、これこそ「自然医学」である。

「クライアントさんの中には子供のころの記憶から自分では気づいていない不安や思い込みを感じている人がいます。さまざまな方法を組み合わせた治療によって彼らが本当の自分に気づき、精神的に解き放たれる瞬間を見るのは感動しますし、医者として一番の喜びです」
石井さんは、患者イコールわずらっている人のイメージがあるので、「クライアント」と呼んでいる。


▲体、魂、心、人(社会)の関係を説明する石井真美さん

「病気は治すのではなく、気づくためのきっかけです。命と自分らしさという美しさです。わたしのクライアントさんは、ご本人はお気づきでなくとも、そのために必要な経験、強さ、優しさを兼ね備えられて、わたしのところを訪ねてきてくださっています」

■デリシャス・ライフからデリシャス・モーメントへ

自然治癒力を最大限に生かすことで健康生活をサポートする自然医師である石井さんはこのサポートを「デリシャス・ライフ」と呼び、提唱している。つまり「その人の自分らしい生き方、生きがいのある楽しい人生」のサポートである。これには3つのサイクルステージがある。

まずは「生活すること」。生きているからこそさまざま人生経験をへて味わい生かすことができる。「言い換えてみれば人生全体はフルコース料理、ちょうどいいタイミングでそれぞれのステージで大切な一品が私たちのテーブルに運ばれて来るのです」

その一品がデリシャス・モーメントである。「時に美しい花であったり、おいしい料理であったり・・・。喜びや楽しかったことだけではなく、苦労や悩んだことを乗り越えてきたからこそ人生の醍醐味を味わっている瞬間、それがデリシャス・モーメントです。人それぞれにちがうでしょうから、あなたのデリシャス・モーメントを見つけだしてください」

2つ目のステージは「学ぶ」こと。「生きていることは一生、学びの連続です。固定観念にとらわれず、新しいことを学ぶと今までの自分とちがったさらに深い自分に出会えることがあります」

3つ目は「愛する」こと。「愛は癒やしにつながり、癒やされると人は優しくなり、寛容になれるのです。そして究極の癒やしは自分を認めて愛することです。そうすれば何でも乗り越えられます」

■国際会議への参加から地域社会への貢献まで

石井さんさんはクリニックでの仕事のほかに、国内外で学会の発表や講義、カウンセリングなど幅広く活躍している。中でも2012年トロント大学で開催された「第7回クリティカル多文化カウンセリング&心理療法カンファレンス」では「デリシャス・モーメント」を発表して、大きな反響を呼んだ。


▲2014年5月、米サンディエゴで開かれた学会のデリシャス・ダイニングイベント。参加者は文化精神医学とメンタルヘルスにかかわる精神科医やサイコセラピスト(奥に立っているのが石井真美さん)


▲2014年7月、パリで開催された「国際自然医学会」のデリシャス・ダイニングイベントに参加し、発表した石井真美さん(前列右から2人目)


▲2014年9月、バンクーバーでのワークショップ。左が石井真美さん

また、日本人社会をはじめ地域のコミュニティーで健康ワークショップなどを通して社会貢献にも積極的に取り組んでいる。この取り組みは今後も続けて行くそうだ。
さらに将来、「デリシャス・モーメント」を中心にした自然医学の本の執筆も考慮しているそうだ。書物に関しては昨年5月発売された、石井さんを含む15人の共著「人生の富の法則」(ミラクルマインド出版)がある。

私たちが自分らしさを取り戻し、豊かな健康生活を送るには、石井さんの存在が心強いものとなるかも知れない。ますますの活躍を期待したい。

【石井真美自然医学医師】
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Eメール:info@mydeliciousmoments.com

〈取材・いろもとのりこ〉

(2015年2月26日号)



 



 
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