相続法の基礎知識・オンタリオ州編〈その6〉
事実婚(コモンロー)夫婦に遺言状が必要な理由


〈 オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

みなさんは「相続」と聞くと、何を思い浮かべますか。兄弟の仲たがい、骨肉の争いなど、マイナスのイメージを持たれる方が多いようです。実際に、日本の相続の専門家の間では、よく相続は「争続」(そうぞく)と呼ばれると聞きました。

本欄の第1回(http://www.e-nikka.ca/Contents/141023/topics_01.php)では、遺言状を残さずに亡くなると(以下、「無遺言」(むいごん: intestacy)と呼ぶ)どうなるかというお話をしました。無遺言による死は、カナダではこの「相続」が「争続」に変わる原因のひとつです。

無遺言による遺族間の衝突にもさまざまなタイプがありますが、その中でも最近特に増えているのが、事実婚(common-law コモンロー)パートナーの無遺言による死です。実は、あまり知られていないのですが、オンタリオ州の相続法では、愛する人が遺言状を残さずになくなったとき、二人の関係が法律婚であったか、事実婚であったかによって、残されたパートナーの法的保護に大きな違いがあるのです。




無遺言で死亡すると法律婚と事実婚の扱いは同じではない
カナダでは、税金の申告や移民申請など、法律婚と事実婚の夫婦は、多くの場面で同じように扱われ、社会的にも夫婦と認められています。そのために世間では、相続の場合も、「事実婚=法律婚」であるという大きな誤解を招いています。
しかし、実際には、私たちの社会生活を規律する一つ一つの法律で、配偶者(spouse)の定義が異なるため、法律婚と事実婚が同等に扱われたり、扱われなかったりするのです。また、事実婚の成立に求められる同居期間も、1年から3年と、法律によって異なります。

それでは、無遺言に対応するための法律では、法律婚と事実婚、二つの夫婦の形にどのような違いがあるのでしょう。

1.法律婚の配偶者が無遺言で亡くなった場合
まず、法律婚の配偶者が遺言状を残さずに亡くなった場合、残された配偶者は、法定相続人(heir)として最優先の順位に立ちます。オンタリオ州の法律では、無遺言で残された配偶者には、優先的相続分(preferential share)として、遺産(estate*)の中から最初の20万ドルを相続することになっています。
そして、亡くなった配偶者との間に子供がいる場合は、遺産から20万ドルを差し引いた残りの財産を、配偶者と子供との間で分けることになります。ちなみに、同じ法律は、法律婚の同姓愛夫婦にも適用されます。




2.事実婚のパートナーが無遺言で亡くなった場合
一方、事実婚のパートナーが無遺言で亡くなった場合、残されたパートナーは、法定相続人の範囲に含まれないため、遺産(estate*)の法定相続人になることができません。もし、亡くなったパートナーとの間に子供がいる場合は、その子供が第一順位の法定相続人になります。子供がいない場合は、亡くなったパートナーの両親へ、両親がすでに他界している場合はその兄弟姉妹へ、と血縁関係の親族 (next of kin)をたどって、法律で遺産を受け取る人が決められています。

そうはいっても、残されたパートナーに法的救いの手がないわけではありません。まず、残された事実婚のパートナーは、亡くなったパートナーの扶養者としての援助(dependant's support)を請求することができます。

また、残されたパートナーが、事実婚期間中に亡くなったパートナーの財産の形成に貢献したことを理由に、その寄与を遺産の一部から請求する方法もあります。ただ、このような請求をするには、裁判所に申し立てる必要があり、費用も時間もかかるだけでなく、残されたパートナーに精神的な負担を残すことになります。




さらに、遺族間の対立や不都合が生じることも少なくありません。実例として、次のようなケースがあります。
・疎遠になっていたパートナーの兄弟が、法定相続人として遺産を受け取った。
・最初の結婚で残した子供が法定相続人になり、第二の人生を共にした事実婚パートナーに何も残されなかった。
・残された未成年の子供が法定相続人になり、州政府が子供の遺産の管理に関与することになった〔詳しくは、本欄第4回(http://e-nikka.ca/Contents/150122/topics_01.php)の記事をご覧ください)。

相続を「争続」にしないためにできること
このように、無遺言で死亡した場合、残された事実婚パートナーに対して、不公平な結果を招くことになってしまいます。ですので、遺言状を残すことは、愛する人への思いやりでもあるのです。守りたい人を守るために、死後に自分の希望をかなえるために、そして、相続を「争続」にしないために、一人一人の事情に即したエステートプランが必要です。




*注釈:一般的に、遺産(estate)には、受取人指定のある生命保険やレジスタードプラン(RSP, RIF, TFSA など)、また共有名義の財産(銀行のジョイントアカウントや不動産など)は含まれません。

【おことわり】本欄を通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見または見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美(のぞみ)弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、電話:905-383-3331(内線:226)、または E-mail: zoe@dermody.ca



(2015年3月19日号)



 
 


 
 
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