【東日本大震災】

石原牧子監督ドキュメンタリー映画「長面—きえた故郷」
JCCCとトロント大学で初上映、大きな反響を呼ぶ


トロントの映画製作者、石原牧子さんが監督を務めた東日本大震災のドキュメンタリー映画「長面―きえた故郷」の上映会が、3月19日(木)トロント日系文化会館(JCCC)で、21日(土)トロント大学イニスタウンホールで開催され、満席の観客で大盛況であった。


▲ドキュメンタリー映画「長面―きえた故郷」のポスター

トロントの西隣の町ミシサウガに在住するモガール和子さん(Kazuko Moghul)の実家が地震と津波に襲われ、カナダから故郷の宮城県石巻市長面(ながつら)地区に駆けつけた様子を撮影・編集した映画である。

和子さんの実家があった長面地区は太平洋と北上川のすぐ近くで、とりわけ被害が大きかったという。ガソリンスタンドなどのビジネスを経営していたいちばん上の兄の店舗と家屋は津波で全部流された。兄、彼の妻(義姉)、娘(めい)、それに兄夫婦のひ孫(2歳女児)の4人が津波にのまれ、行方不明となった。めいは1カ月後に遺体で発見され、義姉は3カ月後に遺体のDNA鑑定で本人と判定された。兄と兄のひ孫は今も行方不明のままだ。このほかに、近くの女川(おながわ)町に住む和子さんのいとこ家族3人が犠牲となっている。さらに小学校時代の同級生7人が亡くなった。


▲モガール和子さん(右)と福田祐子さんの姉妹(撮影=石原雪子)

震災の5日後、長面の実家近くに住む和子さんの妹・祐子(ゆうこ)さんとやっと国際電話がつながり連絡が取れた。和子さんは意を決してトロントを発つ。精神的錯乱状態だった祐子さんは薬で安定を取り戻し、姉和子さんを迎える。


▲長面(ながつら)の墓地から見た町の様子。何も残っておらず更地になっている(撮影:石原牧子)

実家は海水にひたって土台のコンクリートだけが残っている状態なので、祐子さん宅に滞在。祐子さんが運転する車で津波の傷跡を見て回る。被災者の避難所、仮設住宅、ボランティアの活動、お寺、壊れた墓地、廃墟と化した母校の大川小学校など、その無残な光景は想像を絶するものであった。一方で、生き残った友人・知人らと再会を喜ぶ。

石原牧子さんは、こうした和子さんの動きを密着取材して、ドキュメンタリーとして映画を製作したものである。

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トロント日系文化会館小林ホールでの上映会(3月19日)では、有森丈太郎さん(トロント大学東アジア研究学科)の司会により、最初に観客全員が黙とうを捧げた。中山泰則トロント総領事は挨拶の中で「石原牧子さんとモガール和子さんの努力を称賛したい」と語り、ジェームス・ヘロンJCCC館長は「各方面の皆様からJCCCに集められた義援金150万ドルは東北の4大学の奨学金に充てられる」と述べた。会場には特別ゲストとして出席したアキレシュ・ミシュラ在トロント・インド総領事夫妻の姿も見られた。

石原雪子/Kevin Mcgue 製作のドキュメンタリー短編「これから」(From Now On=15分)が紹介され、そのあと、石原牧子監督のドキュメンタリー映画「長面―きえた故郷」(NAGATSURA ─ Home without Land =75分 )が上映された。

終了後の「Q & A 質問の時間」では、石原牧子監督、モガール和子さんに観客からいくつかの質問が寄せられた。
そのあと、商工会コートでレセプションが開かれ、映画製作関係者と観客とが交流のひとときを持った。

【石原牧子監督のコメント】
ドキュメンタリー映画「長面―きえた故郷」と日本の文化



▲避難所で映画「長面―きえた故郷」の撮影に協力してくれた皆さんと・・・(右端は監督の石原牧子さん)

映画はトロントと石巻の姉妹、モガール和子さんと福田祐子さんを中心とした被災者家族の物語だ。一度見ただけでは恐らく分からないかもしれないが、映像のなかに日本文化のシンボルが潜んでいる。劇映画なら意図的に入れるものだが、ドキュメンタリー映画の場合はそうではなく、すでにそこに存在する。

震災後、どん底に落とされた悲しみを乗り越えていく人々の生活を撮影していると、自然とそのなかに日本の食文化の原点でもありサバイバル(Survival)の象徴でもあるおにぎりが存在する。震災直後、10万個以上のおにぎりが自衛隊機で運ばれたといわれるが、姉(モガール和子さん)は仲間とトロントでおにぎりを売って義援金を募った。妹(福田祐子さん)は長面にみんなで拝みに行く時、大きなおにぎりを9個作った。


▲石原牧子監督

もう一つの日本文化の象徴は、鯉(こい)。鯉は特に男の子の出世や商売繁盛のシンボルとして古くから日本に伝わっている。映画の中に出てくる祐子さんの家の赤い鯉、多くの小さな命が奪われた大川小学校前に誰かが立てて行った小さな鯉のぼり、そして仮校舎から青空にたなびく大きな鯉のぼりは亡くなった人たちの冥福を祈っているようでもあり、これからの被災地のプロスペリテイー(Prosperity)を願っているような希望が託されている。

上映後のレセプションではおにぎりを無料で皆さんに食べていただこうと考案した。そして日系文化会館用とトロント大学の Innis Town Hall 用に合計400個のおにぎりを一手に引き受けて作ってくださったのが、トロント国語教室の橋本美佐枝さんだ。
19日と21日の上映会は大盛況で、観客がそのおにぎりに手にとって親交を深めた。震災を忘れないよう、おにぎりに願いを込めトロント初上映の2日間が多くのボランテアに支えられ無事終わった。

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【モガール和子さんのコメント】 


▲モガール和子さん

モガール和子さんは、震災後の計画について、本紙に次のように語った。
「石原牧子さんが作ったドキュメンタリー映画を、出来るだけ多くの方々に見ていただくことにより、あの悲しい出来事が風化しないように願っています。おいでになったインド総領事ご夫妻が私に『とても感動した』と言って下さいました。世界中の皆さん方の被災地に対する復興応援の気持ちがひしひしと感じられます。


▲津波で倒壊した大川小学校 

私の母校・大川小学校では津波で生徒74人が犠牲になりました。この学校の校舎について議論が交わされています。校舎を、(1)保存する、(2)一部保存する、(3)解体する、の3つの意見に分かれています。
私としては、保存する案に賛成です。今後、津波の恐ろしさを人々に伝えるために実物を保存して、見てもらいたいと考えます。しかし、校舎の残骸(ざんがい)を目にするたびにいたたまれなくなるという遺族の気持ちを思うと、正直、心が揺らぎます。
いずれにせよ、大川復興委員会なる組織が出来て、小学校の跡地は『鎮魂の森』として整備される計画が進められているということです」

(2015年3月26日号)
    



 
 


 
 
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