相続法の基礎知識・オンタリオ州編〈その7〉
裁判所による遺言状の確認手続き
「プロベイト」とその回避策の注意点


〈 オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

みなさんはプロベイト(Probate =*注釈)という制度をご存じですか。これは、オンタリオ州を含むカナダの英語圏の州に共通する、裁判所による遺言状の確認手続きをいいます。

実は、このプロベイトという制度について、一般的に厄介なイメージが強いため、自分の死後は「絶対にプロベイトを避けたい!」として、共有名義の財産を利用する人が増えています。しかし、法律・税務の専門家の助言を得ずに行う相続対策としての共有財産の利用は、ご本人の死後、「相続」が「争続」に変わる原因になりかねません。

そこで今回は、「プロベイト」という制度と、その回避策として共有財産を利用する場合の注意点についてお話します。

プロベイトとは?
オンタリオ州では、プロベイトという手続きは、「Certificate of Appointment of Estate Trustee With a Will」(遺言状をともなう遺言執行人任命証書)と呼ばれ、裁判所で遺言状の原本を確認・登録する手続きを指します。遺言状そのものが、遺言執行人に遺産を取り扱う権限を与えるので、すべての遺言状にプロベイトが必要というわけではありません。
ただし、財産の性質や大きさによっては、不動産や投資などの比較的大きな財産を取り扱う機関が、遺言執行人と安心して取引したいことから、裁判所から遺言執行人の任命を確証するために、プロベイトを要求することがあります。裁判所からプロベイト完了の証書が発行されると、遺言執行人による不動産の名義変更や売却、銀行の口座解除などが可能になります。




このプロベイトの手続きには、通称「プロベイト税」(オンタリオ州では遺産管理税=Estate Administration Tax)と呼ばれる州税がかかります(税率はプロベイト税対象になる遺産総額の約1. 5%ほど)。この税金がプロベイト不人気の原因です。

ちなみに、生命保険やRSPなどで指名した受取人に直接支払いが行われるものや、特定の共有名義の財産は、プロベイトの対象外とされています。

プロベイト回避策としての共有財産の利用
共有財産の中でも、一般的にプロベイトの対象外とされているのが、生存者受取権(Right of survivorship)のついた共有名義の財産で、通称、「ジョイントアセット」(joint assets)と呼ばれています。その特徴は、共有名義人の一人が亡くなった場合、残された共有名義人に共有財産の権利が自動的に移る仕組みになっています。夫婦間での「ジョイントアカウント」(joint account)や家の共有名義によく利用されています。

最近は、プロベイト回避策として、親が成人した子供を名義人として、家の所有権や銀行口座に加えるケースが増えています。しかし、一見便利そうな親子間の共有財産の利用には、親の生前・死後ともに、思わぬ落とし穴があるのです。




共有財産は誰のもの?
共有財産を利用する最大の難点は、共有名義人である子供に財産のコントロールを許すことです。例えば、銀行のジョイントアカウントの場合、口座の中のお金は親のお金であっても、名義人である子供が、親の許可なく、そのお金を自由に引き出すことが可能になります。
また、不動産の場合は、共有名義人である子供の同意なくして、不動産を売却できないため、親子関係が悪化すると、自由に不動産を処分できなくなります。




さらに、共有名義人である子供個人の問題が、親の財産権に影響することもあります。例えば、子供の結婚が破たんした場合には、親との共有財産が子供の離婚時の財産分与の対象になったり、また、子供が債務を抱えると、親との共有財産が債権者から債務者の財産としてみなされ、親が債権者に取り立てられたり、など親が子供の離婚や借金の巻き沿えになることがあるのです。

一方、親の死後には、共有名義人である子供が、親の死後に共有財産を手に入れ、他の相続人と分けることを拒否することがよくあります。一人っ子である子供との共有財産にはこのような争いは起きにくいのですが、子供の数が2人以上でそのうち一人だけが、名義人になっていた場合は、残された共有名義の財産が誰のものであるかについて、残されたご家族でもめることになりかねません。




そのほかに、共有名義人に予想外の税的責任が生じることもあり、プロベイト税節約のつもりが、ゆくゆく大誤算を招くことになるのです。

最後に、今年1月1日から施行されたオンタリオ州の法改正により、上記のようなタイプの親子間の共有財産にプロベイト税が課税される可能性が高まっていることで、これでまでのように「共有財産=プロベイト回避」とはいかなくなってきています。

このように、共有財産をプロベイト回避策として利用する場合は、慎重になる必要があります。もちろん、親子間で共有名義を適切に利用することは十分可能ですが、ご自分の生前・死後で問題が生じないために、ご自身の弁護士や会計士とご相談されることをおすすめします。

【*注釈】日本には、遺言状の原本を裁判所で登録する「検認」(けんにん)と呼ばれる制度があります。カナダのプロベイトは、日本の検認と置き換えられることがよくありますが、二つの制度は本質的に異なるため、本欄では、あえてプロベイトという言葉を使っています。

【おことわり】本欄を通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、当コラムで提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美(のぞみ)弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に活躍中。遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分に関する相談などを取り扱う。
著者への連絡は、電話:905-383-3331(内線:226)、または E-mail: zoe@dermody.ca



(2015年4月16日号)



 
 


 
 
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