相続法の基礎知識・オンタリオ州編〈その8〉
〜遺言状と委任状に関するよくある質問集〜


〈 オンタリオ州弁護士・スミス希美(のぞみ)〉

さわやかな気候になり、活動的になるこの季節。夏の旅行の計画を立てる方もいらっしゃると思います。私の経験では、旅行の前に遺言状や委任状を準備する人が多いように感じます。そこで、今回は、私の普段の実務や、相続セミナーなどでよく聞かれる、遺言状と委任状に関する質問をまとめてみました。




【Q1】うちには財産と呼べるほどの財産はありません。それでも遺言状は必要ですか。
はい。オンタリオ州に、預金、投資、不動産など、資産の大きさにかかわらず、何らかの財産を所有する方は、遺言状を作ることが必要です。残された遺産の大きさにかかわらず、無遺言で死亡すると、裁判所から遺産管理人が指名されるまで、遺産を管理・処分する法的権限を持つ人はいません。そのため、遺言状があれば比較的スムーズにできる仕事(例:自動車の所有権移転、葬儀代の支払い、債務の処理など)も滞ることが多く、さまざまな不都合が生じます。
詳しくは、このシリーズ第1回をご覧ください。
http://www.e-nikka.ca/Contents/141023/topics_01.php




【Q2】30年前に遺言状を作って以来、そのままです。遺言状には有効期限はありますか。
遺言状は、生前に最後に作ったものが有効になるので、有効期限はありません。ただし、最後に遺言状を作ってから、財産や家族の状況に変化があったり、遺言執行人(Executor / Estate Trustee)に指名した人が亡くなっていたりする可能性があります。2〜3年に一度、定期的に内容を確認してみましょう。

【Q3】私の最後の遺言状を作成した弁護士が引退しました。この遺言状はまだ有効ですか。
遺言状や委任状を作成した弁護士の事務所の移籍・休業・閉業・引退・死亡にかかわらず、作成した遺言状は有効です。もし最後に遺言状を作成した弁護士がその原本を保管しており、のちに引退していたことを知った場合は、オンタリオ州法律家協会 Law Society of Upper Canada (https://www.lsuc.on.ca/)に連絡し、その弁護士の遺言状を引き継いだ弁護士を探すことができます。




【Q4】「遺言状の見直しをしましょう」とありますが、遺言状の封を切って開けてみてもいいのですか。
オンタリオ州では、日本のように遺言状の原本に封をし、開封厳禁という決まりは特になく、遺言状が本人の手元にあれば、自由に取り出して見ることができます。ただし、遺言状は原本のみが有効なので、本人が原本を保持している場合は、遺言状を安全な場所で保管しましょう。

【Q5】自筆の遺言状やセルフキットで作成した遺言状は有効ですか。
自筆の遺言状や、書店やインターネットで手に入る「セルフキット」で作られた遺言状は、要件を満たしていれば、法的には有効です。しかし、この節約のつもりで作ったセルフキットや自筆の遺言状は、ご本人が亡くなった後、遺言状の内容が不備・不明確であったり、有効性が問われたりして、遺産が莫大な訴訟費用に消えてしまうことになりかねません。遺言状は、長年にわたって築いた財産を処分できる、法的拘束力の強い文書です。多少の費用はかかりますが、ご本人の希望する遺言内容を実現するためにも、そして、後々もめないためにも、専門家の助言のもと遺言状を作成しましょう。




【Q6】遺言執行人を複数人任命することができますか。
遺言執行人、及び、委任状代理人を2名以上任命することは可能です。これは、合同任命(joint appointment)と呼ばれ、2名以上の代表者がともに、相続の手続きを行います。 ただし、数が増えるほど、意見が一致せず、もめる原因になることもありますので、合同で複数人を任命する場合は、十分に注意が必要です。

【Q7】遺言執行人や委任状代理人に、事前に資産内容を公開する必要がありますか。
その必要はありません。遺言状や委任状は、個人的な秘密の文書です。遺言執行人や委任状代理人に指名された方に、一声かけておくと、その方も心の準備ができ、万が一のときにスムーズにことが運びやすくなります。ただし、信託会社を財産委任状の代理人や、遺言執行人に指名する場合は、文書作成時点での資産内容と額を伝え、信託会社に相談する必要があるでしょう。

【Q8】オンタリオ州外に財産がある場合は、遺言状の作成に影響しますか。
オンタリオ州外に財産がある場合は、その財産の所在する州、または国の法律に基づいて、遺言状を作成するとよいでしょう。
カナダ国内では、他州の法律に基づいて作成された遺言状でその州の遺産処理を進めることは確かに可能ですが、特に不動産の処分については、手続きがなかなか進まないこともあります。
また、カナダで作成した遺言状を使って、日本の遺産相続の手続きを行う場合、日本国内で法的には可能であっても、銀行がどう対応してよいか分からなかったり、日本とカナダの両国で弁護士を雇って書面を準備する必要があったりと、時間と費用がかかり、なかなかスムーズに相続の手続きが進みません。
また、日本とカナダ両国での税的な対策も必要になりますので、日本国内に財産のある方は、日本の弁護士・税理士の助言のもと、日本の法律に基づいて遺言状を作成しておくと無難です。




【おことわり】本欄を通して提供した情報は、一般的及び教育的な目的として提供された情報であり、著者及びダーモディ法律事務所による読者個人への法的意見又は見解を示すものではありません。特定の事実関係につき法的助言を含む専門的助言を必要とする方は、ご自身の弁護士・会計士等の専門家へ直接ご相談ください。また、カナダの遺産相続に関する法律は州によって異なりますので、本欄で提供する情報はオンタリオ州の法律に限られていることをご了承ください。

【著者略歴】

▲スミス希美弁護士
スミス希美(のぞみ):福岡県出身。中央大学法学部を卒業後、トロント大学ロースクールに留学し、ジュリス・ドクター及び法学修士号を取得。その後、2010年にオンタリオ州の弁護士資格を得る。現在、ハミルトン市の Dermody 法律事務所で、遺産相続・信託法を専門に、遺言書、委任状、贈与などのエステートプラニングや遺産の管理・処分、不動産に関する相談などを取り扱う。
連絡先:電話 : 905-383-3331(内線 226)
Email : zoe@dermody.ca
Website : www.dermody.ca


(2015年5月21日号)



 



 
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